アマノハクのおしゃれと、調理劇場
「みゅー。ありがとうございます」
アマノハクは、白い魔女の帽子を深く被りこんだ。
しっくり来たのか、首を縦に三回ほど振った。
『お嬢様、似合ってますわ』
「みゅー。コルテもそう言ってくれるなら、エンジェルマーケットに来た甲斐があります……ふわわ」
アマノハクの瞼が少し下がって、あくびをする。
疲れてきたのかな。
だったら、そろそろ休んでもらって。
そういえば、あの方の名前とかまだ聞けていない。
どうしようかな……。
「そちらの美しいあなた様、自分に何か御用があるでしょ」
「あっ……はい」
向こうから声を掛けてきたので、私はゆったりと彼女に近づくことにした。
ほぼゼロ距離になれば、スキルの発動が可能となる。
「万物の礎が宿りし言霊の精よ、スキル玉を生成せよ……!」
白い水晶のような球体を生み出したら、すぐに両手で隠す。
「別に隠さなくても。確認したらよろしいのでは」
「そ、そうですね……」
一部始終を見られていた。
見られた上で、彼女に確かめるよう促してきた。
作成したスキル玉には、正式名称が刻まれている。
「スキル名を読まないのですか?」
「えっと……」
この場でしぶしぶ確認してみた。
固有スキル、輝きの調理劇場。
このスキルには、私にとっても確かに見覚えがあるものだった。
「フィーちゃん……」
私は息を呑む。
このスキル名をはじめて見たのは、三カ国ダンジョンマスター交友会のあと、シクスオの世界を駆け巡ってフィナの記憶を探している最中だった。
ニケが首謀者となりシクスオに組み込まれたプログラムを解析して、ノアにも協力を仰いでいって……。
フィナの記憶の居場所を突き止めて、引き上げの段階だった。
もうほとんど大詰めという状況だったと思う。
シクスオで過ごした際に記録され続けていたフィナの記憶は、実体のある青い欠片となっていた。
その青い欠片の一番近くにいたのが、輝きの調理劇場というスキルを持った冒険者だった。
「思い出した……かな? 自分はあの時のことが今でも信じられないくらい……怖いものだったの」
「怖い……。あれっ、私と顔を合わせたことないですよね?」
私が問いかけると、彼女は縦に一度だけ頷く。
実際のところ、私自身も青い欠片の座標に意識を向けていたせいか、すぐ近くにいる冒険者の顔や姿を確認することはできなかった。
私自身もそれだけ必死だったから。
心の余裕がなかったのだ。
「でもこうして自分が会えたこと、とても運命的にも感じます」
私と顔合わせ出来たことが嬉しかったのか、彼女は涙を流していた。
「その、泣かないでほしいかな……」
「自分は嬉しいのです。そうだ、とっておきを見せます」
彼女はすぐ近くにある鍋に、水晶っぽい物体をふたつ入れ込んだ。
赤のネオソウル。
黄色いネオソウル。
魔神、しかもネオのほうが落とすと思われる素材アイテムを贅沢に使用する。
「花火です!」
ひゅー。どっかーん。
大きな花火は高く打ちあがり、赤と緑の火花で天使の模様を描いた。
とても料理系のスキルだとは思えなかったのだが、真相は鍋の中に隠れていた。
『くんくんくん。これはもしやカレー、ですか?』
「みゅー。たしかにカレーの匂いがしますが……」
アマノハクは、挙動不審に頭を動かしていた。
これって一体どういうこと?
「鍋の中を見てごらん」
「鍋、ですか……」
言われるがまま、鍋の中を覗き込むと、そこにはカレーがあった。
ギガントソウルカレー。
食べると体力がものすごく回復するぞ。
そんな説明文を読んだ私は、思わず吹き出しそうになった。
花火を打ち上げると料理が出来るって、まるで意味がわからない。
けど、それを可能にする自由度を生み出すのがシクスオというゲームだから、納得はできる。
「ところで、お名前聞いても大丈夫かな」
「勿論ですよ」
「私はパルトラです。オシリスのダンジョンマスターです……!」
「ダンジョンマスターさん……!」
ダンジョンマスターであることを明かすと、大体は距離を取られそうな印象なんだけど。別にそうではなかった。
どちらかというと、彼女はおとなしい性格なのかも。
自己紹介するのに少しためらって、背中が少々固まっているというか。
「そのっ……自分、リリークランと言います!」
頑張って言い切った感は否めないが、名前をちゃんと聞くことは出来た。
彼女の名前はリリークラン。
すぐに忘れてはいけないと思ったので、私は彼女とのフレンド登録を行った。
「みゅー。拙者ともするのです!」
急にアマノハクがフレンド登録をお願いしてきた。
結局は皆で登録しあった。
そのあとは、アマノハクがヴィトエール大陸へとお帰りになるということで、エンジェルマーケットを後にすることとなる。
生前に残されたフィナの記憶を私が回収をしたのは、三ヶ国ダンジョンマスター交友会が終わってから、ふた月くらいあとだったと思う。
当時の出来事なんて当然さながら、女神ネフティマが観測している。
アマノハクがヴィトエール大陸へ帰った直後、すぐにログアウトした私は、空白の泉で背中を伸ばす。
本日の旅では、フィースペードのこともあった。
そして、リリークランという少女。初対面のようでそうではなかった。
固有スキル、『輝きの調理劇場』を詳しく知るという収穫もあった。
今後のことを考えると、やっぱり……。
たまには過去を振り返るのも、悪くはないのかもしれない。
ただ、あの過去を振り返るのは今でも気が引ける。そう思えるくらいには、私は心に傷を負っていた出来事なのである。
お読みいただき、ありがとうございます!
次話より、第3.5章が始まります。
現在の時系列から見ると過去話になります。内容もガチ寄りなデスゲームの世界になっちゃうので、頑張って書いていきたいと思います。
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