エンジェルマーケットでのショータイム
再び強い風が吹き込んで、私の髪を揺らした。
見下ろせば、エンジェルマーケットがそこに見えている。フィースペードのことで、ついつい深く考え込んでしまった。
「到着だよ」
セレネはゆったりと降下していった。
エンジェルマーケットの橋の付近に、私とアマノハク、それからコルテを降ろすと、ドラゴンの変身を解く。
「それじゃあ、わたくしはノアちゃんとお喋りしようかな」
背中を向けるセレネはそそくさと立ち去って行った。
「アマノハクさん、行きましょう!」
「みゅー」
私はアマノハクと一緒に、エンジェルマーケットとなる橋に踏み入れる。
エンジェルマーケットは相変わらず人が多い。
本日も多くの商人が店を開けて売り買いが盛んにおこなわれていた。
「うおおおおっ!」
多人数の声が重なった、歓声の聞こえてきた。
「みゅー。人が多いです……」
「常駐しているお祭りみたいな感覚ですから、それにしても多いような」
前方をみる限りでは、道に人だかりができている。
なんとか回避して進めないかと考えたが、どうやら何かに見入って立ち止まっているみたいだった。
これは通り抜け出来そうにない。
手前からお店を見て回っているとはいえ、アマノハクのオシャレに合いそうなアイテムは売られていなかった。
やっぱり、もっと奥を探さないと。
そう思った時だった。
ひゅー。どかーん。
エンジェルマーケットの上空に、一発の花火が撃ちあがった。
大空なのに、はっきりと見える赤い鳳凰の模様。
その花火をみていた人々は皆感激していて、声を漏らしていた。
「えっと、これはたぶん……」
観察するしかない。この状況、考えられることはただ一つ。
この立ち止まった人々の様子を見直して、ほぼ確信した。
本日のエンジェルマーケットでは、何かのショーをやっている。
そう思わざるえなかった。
「みゅー。人は多いですが、花火が美しかったです」
『キレイな模様が見れて、とてもよかったわ』
アマノハクとコルテは足を止めた。私の誘導が虚しく終わっていく。
あれ、オシャレするためのアイテムを探しに来たのではなかったのか?
「みゅー。もっと前にいきたいです」
アマノハクが不満の声を漏らすと、人だかりに隙間が出来た。というか、徐々にばらけていく。
ショーが終わったのか、何かトラブルがあったのか。
とにかく、アマノハクとはぐれないように腕を掴んで突き進んでみた。
「おっと!」
流れ始める人々をかわしていくと、急に円となっているスペースが出てきた。
ここが花火を上げた場所だと、一瞬で理解した。
私の目の前には、ふわふわっとした白のドレスコードとベレー帽を身に着けている、ピンク色の髪の美少女がいた。
彼女がもつ瑠璃色の瞳と、長めのドレスコートを目に焼き付かせる。
ドレスコートの内側が一体型のスカートになっていて、服装の厚みはどちらかというと保温性が良さげにもみえた。
「さっきの花火は……」
ピンク色の髪の美少女の周囲にあるのは、大きな鍋がひとつだけ。
打ち上げ花火が行えそうなアイテムすらないので、不思議に思ってしまった。
「彼女は料理系のスキルを持っているよ。調査のし甲斐はありそうだけどね」
「この男の声は、ジェイラさん?」
聞こえてきた左斜め後ろへ振り返ってみると、そこにジェイラがいた。
「ジェイラさん、また調査ですか? 今度は何を調べるつもりですかね」
「ただの冗談だよ。さっきの花火はスキルによるもので、彼女自身は戦闘を行う意思はない」
「ここ、エンジェルマーケットですよね……?」
「シクスオで誕生した固有スキルは、時にエリアで定められたルールをも凌駕する。シクスオの世界自体がそうなるように望んで変わっていくのは、僕すらも認めているよ。それに、パルトラさんが気になるのであれば、是非とも見てもらいたいかな」
「私が、ですか?」
「スキル玉生成技能を使えば、手っ取り早く出来るね」
「ジェイラさん、確かにそうですけど……!」
アマノハクと手を繋いでいる状況とはいえ、ここはジェイラに言われるがまま動くのが丸いか。
そもそも周囲に人が多すぎて、逃げ道のようなものはあってないようなものだし。
「アマノハクさん、行きますよ。彼女の元に」
「みゅー?」
アマノハクを連れて、ピンク色の髪の美少女に接近した。
ピンク色の髪の美少女が私とアマノハクの姿をみると、両手を背中に隠した。
「こんにちは。おふたりさんかな?」
彼女の第一声を聞いた途端、私の頭の片隅で何かが引っ掛かった。
この方、どこかで会ったことがある……?
とりあえず、挨拶はちゃんとしないと。
「こ、こんにちは……です」
「みゅー」
『コルテもいますわ』
「喋るカボチャさん……?」
彼女は喋るカボチャを目の当たりにして、とても不思議がった。
そこにアマノハクが、お願いを口に出そうとする。
「かぶりもの……」
「被り物を探しているのかな? そういう時は、自分に任せて!」
彼女の右手には、お玉をもっていた。ステンレス製のような、ごく一般的な家庭の台所にありそうな銀色の見た目をしているものだ。
それで鍋でも叩くのかなと思いきや、自身の胸元にコンコンと当てる。
それから、アマノハクと両手を繋いだ。
「それでは、いきます……。せーのっ」
彼女の手が離れると、アマノハクの両手には白い魔女の帽子があった。
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