商談の進歩どうかな?
『お嬢様、この辺りのモンスターは学生でも対処することが出来るのでしょうか』
「みゅー。浅い階層なので、苦戦することなく倒せると思いますが……」
図太い胴体のライムバードの姿を見ていたアマノハクは、半信半疑に答えていた。
それなりにサイズがあるほうが攻撃も当てやすいので、見た目に怯えなければ大丈夫だと思いたい。
私が試しにエグゼクトロットを使って倒しても良さそうだったが、他の冒険者の足音が聞こえてきたので身を隠す方が良さそうだった。
「あっ、忘れずに……」
すぐに来てもらいたいので、セレネにメッセージを送っておいた。
ここからエンジェルマーケットには、シクスオの上空を飛んで行った方が手っ取り早いからだ。
「アマノハクさん、コルテさん、そろそろ引き上げますか?」
「みゅー。そうですね……!」
『学生が来たらどんな訓練になるのか、たのしみですわ』
風神の和太鼓を手に持った私は、くるくると回してこの場を立ち去る。
ワープ先は、世界樹の神秘道の最深部。
植物の椅子に座り込んでいるフィースペードとヴィクタが、商談を続けていた。
「ここがこうで……うん?」
フィースペードが会話を中断すると、ヴィクタはアマノハクの顔を見る。
「ほう、もう帰って来たのか」
「みゅー。やはり浅い階層であれば、学生さんの訓練に活用できると思います。パーティーの人数には注意しなれけばいけませんが……」
『そうですわね。電脳世界はある意味戦場ですから、パーティーの人数が少ないと苦労しそうですわ』
「国内の学園はヴィトエール大陸の中でも最大規模に匹敵するから、人数不足には陥らないな」
「みゅー。たしかにそうでした……!」
「そもそもの話、精霊である君は学園に通う必要すらないだろうが……調べてくれたことは感謝するぞ。ありがとう」
「ヴィクタ国王……ある意味心外ですが、言葉はありがたく受け取っておきます」
『ふふはっ。ほんとお嬢様ったら、素直じゃないわ』
「みゅー。コルテっ……!」
笑うコルテをすかさず掴み取るアマノハクは、頬が膨れ上がっていた。
『お嬢様……?』
「みゅー。ふんぬぅ、ふんぬぅ」
不満そうな顔つきでコルテを揺さぶるアマノハクは、どことなく無邪気だった。
「商談の話、一度中断した方が良いか?」
「すまないな。構わず続けてくれ」
アマノハクに興味がなくなったのか、ヴィクタはフィースペードとのやり取りを再開した。
フィースペードも、今日はお仕事モードという感じだった。
そこに、私の元へメッセージが入る。
セレネからだ。
「アマノハクさん、そろそろ行きましょうか」
「みゅー。どこにですか?」
「エンジェルマーケットにですよ、セレネさんがダンジョンの外で待っているそうなので」
『お嬢様、行きますわよ』
「みゅー」
アマノハクは腕を動かすのをやめた。
そして、私の右腕を掴んできた。
「拙者も行く」
とだけ伝えてくると、私より先にダンジョンの外に出てしまった。
最深部には、ダンジョンの外へと出ることの出来るワープゾーンがあるので、そこから出ることによって世界樹の木の上に立つことが出来る。
実際には見えない小さな足場があって、ドラゴンと化したセレネの背中にらくらく乗ることが出来たりするだけである。
「お帰り。エンジェルマーケットへいくのか」
「はい、アマノハクさんを一緒に連れていきたいのだけど大丈夫かな?」
「それは平気だから気にするな。では、行くぞ」
セレネは大きなドラゴンの翼を立てると、大空へ勢いよく飛び出した。
神風の集落トルードから、陸路を辿りながらエンジェルマーケットがある天空都市セラフィマへ行くには、水の都アクエリアを経由することになる。
海の上を通ることでも行くことは可能とはいえ、座標の見極めがやや難しくなるので、陸路を辿ったほうが安定して目的地にたどり着くことができるの(セレネさん情報)である。
「みゅー。コルテ、見てますか? ヴィトエール大陸では、空の冒険なんてしたことなかった気がします」
『お嬢様はすっかり機嫌がよくなりましたわ』
「みゅー。それは誰のせいだと思っているのですか?」
『け、景色を眺めましょう……! ご堪能しましょう!』
「もう眺めてます!」
結局、アマノハクは不満そうな顔になった。ちょこっとだけど。
私は、そんな二人のやり取りをぼんやりと眺めながら、フィースペードのことを少し思い返そうとする。
風が靡き、私の髪を激しく揺らす。
「はぁ……」
気がついたら、お知らせページを開けていた。
あと何日かしたら、魔界ダンジョンがシクスオに正式実装されるという内容である。
「フィーちゃん……」
私の口から言葉が漏れる。
水の都アクエリアのギルドで約束した、『また一緒に冒険したい』という言葉がすこし切なくも思う。
これ、まだ果たせていない気がする。
冒険するとしたら、魔界ダンジョンが一番面白そうではある。
だけど、フィースペードと冒険する機会なんて、今後あるのだろうか。
どうやったら誘えるのか。どうしたら一緒に遊んでくれるのか。
考えれば考えるほど、不安が募りそうだ。
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