花火
「これで、よしっと……どうだ、メイ」
「う、うん。ありがと」
夏の目立ちたがりな太陽もそろそろ満足して、帰り支度を始めた時間。俺は出かける前にメイの身だしなみを整えていた。乱れた髪を解かして、最後に俺がいつだかプレゼントした時からずっとつけてくれていたヘアピンをつけて完成だ。
俺がメイに手鏡を向けると、彼女は照れくさそうに上目づかいで鏡の中の自分を見つめ、嬉しそうにはにかんだ。可愛らしいメイの顔の上を小さなイルカが楽しそうに泳いでいた。
「そろそろ、あいつらも来るはずだからさ」
「え!こうたとゆりえもきてくれるの!」
「ああ、もちろんだ」
「わーい、うれしい!」
昨日の俺の急な連絡に二人は二つ返事で了承をしてくれた。予定を空けてもらうだけでなく、色々な事をお願いした。それらをまったく嫌がることもなかった二人に俺は、感謝してもしきれない気持ちだった。
そんな事を考えていると、ちょうどインターホンが鳴った。 玄関のドアを開けると、そこには件の二人がにこやかな顔で立っていた。
「や、お待たせ」
「はーい、メイちゃん元気?」
「わーい、こうた、ゆりえ!」
そんな二人の登場にベッドの上のメイも歓声を上げる。僅かに手足をバタバタさせて、まるで子犬がしっぽを振っているような無邪気さを感じる。
「お前たち、ホント、ありがとな」
かくいう俺も宏太とゆりえの顔を見て、少しだけ目の奥が熱くなってしまった。本当に昨日の今日で来てくれて、二人の優しさに頭が上がらない。
「まあ、これくらいお安い御用さ」
「それに元々そんなに忙しいわけじゃなしね」
そんな俺の様子を察してか、二人は軽口で返してくれる。俺が気負いすぎないようにするための気遣いに余計に胸が詰まる。
「まあとりあえずこうしててもなんだし、出発しようよ。言われた通り、レンタカーともろもろ用意しておいたからさ」
「ああ、ほんと助かるよ」
それらは俺がお願いしていたものだ。特にレンタカーはどうしてもメイの傍にいながら用意するのが難しくて、二人に甘えてしまった。
「ということで……行くぞ、メイ」
「うん!あ、でも……」
不意にメイの造作が悲しみを表す。その視線は自分の足元を見つめていて、歩くことが出来ない事を訴えていた。沈んだ表情のメイを余所に俺は彼女の体をひょいと、抱きかかえる。
「う、うわ、たかゆき!?」
所謂お姫様抱っこの形になったメイは、急な浮遊感に対する驚きと僅かな恐怖から腕の中で小さく暴れる。
「嫌か?」
「う、ううん。いやじゃ、ないよ」
言いながらメイは大人しくなり、俺に体重を委ねてきた。思いのほか軽い彼女を抱えながら玄関を出る。そんな俺たちの後ろを、荷物を持った宏太とゆりえがついてくる。
路地裏を出て人通りのある場所に出ると、道行く人たちが俺たちに好奇の視線を送ってくる。ぶしつけなそれらを煩わしく思うと同時に、無理なからぬ事だとも思う。俺だって似たような人を見たら、どこの騎士とお姫様だよとか思いながら見つめてしまうだろう。
「ごめんな、もうちょいだから」
「う、ううん。ぜんぜんだいじょうぶ」
そういいながらもメイの頬は少し赤みがかっているように見える。やはりこの状況は恥ずかしいのだろう。実際俺も背中に汗をかいている。もちろんそれは夏の暑さによるものだけではない。早く、レンタカーの所にたどり着きたくて、自然と早足になる。
「あ、そっち出たら左曲がるとすぐに黒の大きな車があるから、それ乗って」
「おう」
救いの言葉に胸を躍らせながら、繁華街から大通りを出ると左手に、言われた通りの車が駐車してあった。黒色のハッチバックのワゴンタイプで、コンパクトながらもゆったりと乗車できそうだ。荷室には俺が頼んでおいた荷物が入っているのが見えた。
「ちょっと待っててね……っと、はい、どうぞ」
「さんきゅ」
宏太がキーを差し込み、ドアを開けてくれる。そのまま一番手前の席にメイを座らせて、シートベルトをつける。やがて反対側からゆりえが乗り込み、俺も助手席につく。
「みんなシートベルトつけた?じゃあ、出発するよ」
「おー」
荷物を積み終えた宏太が最後に運転席に乗り込み、彼の合図にゆりえとメイの二人の元気な声が応じる。車がゆっくりと発進し、都会の公道を走る群れの中に合流する。
「運転まで、本当にありがとな」
「気にしないで。元々好きだから、普段から運転してるんだし」
「そっか。でも、今日はいつもの車じゃないんだな」
「あれじゃ、狭いでしょ。それに荷物も多いみたいだから今回はレンタカー借りたんだ」
「確かに、そうか」
そこまで考えてくれているとは思いもよらなかった。言い出しっぺの俺よりも明らかに沢山動いてくれている宏太になんてお礼を言ったらいいのかわからない。
今日だけじゃない、宏太には色々助けられた。そもそもメイとここまで距離を詰めることが出来たのも宏太が背中を押してくれたのがきっかけだ。もし、それが無かったら俺とメイは今頃どうなっていたんだろう。恐らく今よりもずっと無味乾燥で、機械的な別れで……余り想像はしたくなかった。
「……でしょ、すっごい可愛いと思うでしょ!」
それは後ろで楽しそうにメイと話しているゆりえも同様だった。同姓という親しみを以ってメイを迎え入れてくれた。それに、俺がメイに振られたときも的確なアドバイスをしてくれたし、メイの相談にも乗ってくれていただろう。言ってみればゆりえは俺とメイのいわばキューピッドのようなものだ。
「宏太」
「なに?」
そんな中で俺にとって、一番二人に感謝したいことは、俺とメイの本当の関係、メイの出自と……その生末。それを二人は笑ったりせず、全てを受け止めてくれたことである。
「昨日の電話の話、聞いてくれてありがとな」
「……正直、信じられないって気持ちが結構あるけど、でも、孝之があんなに真剣な様子でいうんだから、本当なのかなって。それはたぶん、ゆりえさんも一緒だと思う」
俺の神妙な口ぶりに小さく含み笑いをしながら、どこか遠くを見るような眼で宏太は言った。
「あの後、ゆりえさんから電話が来て、孝之の話のこと聞かれた。結構彼女は困惑してたけど、でも疑っている様子はなかったよ。だからさ、孝之が本当に僕たちを信用して話してくれたんだなって。そう思ったんだ。だから、僕たちもそれに応えたいって思ったんだよ」
宏太の真摯な言葉に目の奥が熱くなる。今日はこんなのばっかりだった。
「だからさ!そんな重苦しく考えないで、今日は楽しもうよ!ほら、そろそろ近くみたいだけど、ナビしてもらえるかな?」
「ああ、えっと、そこの坂道を登ってくれ」
いつの間にか目的地の近くに来ていたようだった。見慣れた住宅街も車の中から見ると、なぜか新鮮に思える。普段ならそれなりに長くて、息が切れるような坂道もあっという間に登りきってしまった。
「じゃあ、この辺に止めたい」
「了解、ちょっと待っててね」
宏太が車のスピードを緩め、脇道に駐車する。本来止めていい場所ではなさそうだが、今日だけは勘弁してくれと誰ともなく断りを入れる。
「みんなー、到着だよ」
「それでね……あ、はーい」
後ろで話していた女子二人が元気に返事をしてくる。ゆりえが自分とメイのシートベルトをせっせと外す。
「あ、例のやつ後ろの荷室に入ってるから」
「おう、サンキュ」
俺は助手席から降りて、車のハッチバックを開ける。そこには折りたたまれた車いすが入っていた。これも宏太が借りておいてくれたものだ。もうほとんど歩くことのできないメイを外に連れ出すのに必ず必要だった。慣れない手つきで何とか本体を開き、後部座席の横につける。
「よし、メイゆっくりでいいから、乗ってくれ」
「う、うん」
恐る恐る体を浮かすメイを支えてあげる。反対側からゆりえも支えてくれている。ワゴン車を小さく揺らしながら、少しずつ体を車いすの方に寄せて行って、やがてシートにすっぽりとメイが着席する。
「よくやった、えらいぞメイ」
「えへへ」
子供に対するような誉め言葉に、メイが嬉しそうな表情をする。相変わらずの無垢さに俺は安心と愛しさを覚える。
「じゃあ、出発!」
そう勢い込んだものの、目的の場所はもう目と鼻の先だ。まばらにある外灯に頭を撫でられながら、進んでいくと、ややあって開けた空間に到着する。
「あ、ここ……」
「ああ、そうだ」
そこは俺とメイにとって思い出深い、町全体が見渡せるあの丘だった。初めて来た時は楽しさで、次に着た時は切なさで、それぞれ記憶に刻まれていた。そのどちらもが大切な思い出だった。
そして三度目の今日は初めて来た時と同じ、笑顔の思い出にしたいと思っている。
「へえ、確かに眺めのいい場所だね」
「ほんと、住宅街を少し上っただけで全然違うわね」
「だろ、なのにあんまり人が来なくて穴場なんだよ」
それに住宅街からは少しは距離があるし、人気もないしある程度騒いでも大丈夫のはずだ。
「よっし、じゃあ早速始めようぜ!」
「たかゆきなにするの?」
急に勢いよく袋をあさり出した俺をメイが不思議そうに見ている。ちなみにメイには今夜何するかをまだ言っていない。しかし残りの二人は俺の声に促されるようにして、俺と同じようにビニール袋の中身をがさがさと取り出している。
「なにこれ、すごいすごい!」
「良いリアクションだな。これは花火だ」
それは昨日、俺が出かけたときに買ってまわっていた花火たちだった。それとは別に宏太とゆりえにも用意してもらっているのでとんでもない量だ。大小さまざまな花火セットのパッケージが並べられていく。
「だいぶ買ったわねえ。今日中に全部使いきれるの、これ?」
「まあ、細かいことは気にすんなって」
「ねえ、はやくやろ!はなび、みたい!」
「任せとけって。行くぞ……ほれ!」
袋から無造作に取り出した花火に点火すると、少しの間をおいて勢いよく火花がほとばしる。夕闇に包まれた丘がその小さくも激しい光の穂に照らされる。その輝きに負けないくらいにメイが明るい笑顔になる。
「うわあ!きれい!」
「あ、ずるい孝之だけ、こっちはまだ準備中だよ」
「うおお、すげえええ」
水をためたバケツを両手に持った宏太の抗議を受け流しながら手のひらをぶんぶんと回して、小さな流星を作る。その軌跡と同じ形の残像を目の奥に感じながら、次から次へと花火を点火する。
「あんた、そんなにたくさん――うわっ」
俺が調子に乗って三本一気に点火すると、その勢いの強さにゆりえが驚愕の叫び声をあげる。
「おわあああ、すっげええええ」
「ちょっと、それやりすぎ、だって……あはははは」
手の中を荒ぶる炎に俺たちの間に不思議と笑いが生まれてくる。俺の手のひらの熱源たちは暴走した電子レンジのようにやたらめったらに周囲に火花を飛び散らせる。しばらくするとその光の濁流も収まり、不意に静寂が訪れる。
「……とまあ、これが花火だ。面白いだろ」
「うん!ねえ、あたしもやってみたい」
「じゃあ、これやってみな」
俺が持っているものとは別の種類の花火を渡してやる。こちらも勢いよく火が出るタイプだ。
「……わああ、ねえみて!たかゆき、みて!」
メイの手の中で暴れ狂うスパーク。その勢いにつられるように彼女も興奮している。元から大きな目をさらに大きくキラキラと輝かせている。
「中々やるな。でもこいつに比べたらどうかな」
そんな彼女の瞳に負けじと、俺は先ほどよりも沢山の花火を一気に着火する。そ一瞬の小さな爆発の後、彩光が溢れだす。
「よっしゃあああ、どうだメイ!」
「ああ、ずるいよ。そんなにたくさん。あたしにももっとちょうだい」
バカ騒ぎする俺に引っ張られたのか、メイもどことなく好戦的になっている。
「ははは、初心者には危ないからやめておいた方がいいぞ」
「ええ、そんなことないもん!できるもん」
「まったく、どうなってもしらないぜ」
不敵に笑いながら、パックから数本取り出しメイに手渡す。
「ちゃんと持てるか?」
「うん、だいじょうぶ」
「よしいくぞ……ファイヤー!」
「う、うわああああ」
覚悟していた衝撃を手元の火薬の勢いが軽々と勝ったようで、メイが大きくのけぞった。前輪がわずかに浮き上がるほどの大きな反応だったが、それでも手に持った花火はなんとか落とさずに済んだようだった。そして気づけば暴れる花火を飼いならしていた。
「ほら、たかゆき、あたしのほうが、すごいよ!」
「やるじゃねえか!こりゃ負けてらんねえな」
「二人ともー!こっちこっち」
俺とメイが互いのプライドをかけて競い合っていると、背中から呼びかけられる。その声のする方向に目を向けると宏太が筒状の物体を地面に並べて設置している。その一番端でゆりえが着火器具をもって待機しており、宏太が並び終えると同時に、小走りで次々と点火し始めた。数舜おいて、乾いた炸裂音と共に小さな光がリズムよく打ちあがっていき、花を咲かせていった。
「おおおお、すごい!」
「意外ときれいに上がるんs!」
「ほら、どんどん行くよー」
再び光の花弁が連続で開いていく。小さいながらも力強い開花を見せつけられて、より一層心が躍る。
「よっしゃメイ、俺たちも負けてらんないぜ」
「え?」
先ほどよりもたくさんの手持ち花火をまとめて点火する。もう手のひらに何本握っているのか自分でもわからない。
「うおおおおお!?」
「わあああ」
もはや制御不能になった閃光爆弾が手の中で暴発する。
「ちょっと大丈夫!?」
「うわうわうわうわ」
「きゃああ、ちょっとこっち来ないで」
パニックになった俺は助けを求めて近くにいたゆりえの方に突撃する。そんな恐慌状態の俺から、ゆりえが同じような状態で必死に逃げ回る。
「あはは、二人とも、なにやってんのさ」
「すごいすごい!あはは」
「うおおお、あっちいいいい」
「ちょっと、来ないでってば、ははは」
「ぬおおお、はは、あはははは」
小さな丘に俺たちの半ば狂乱じみた笑い声が響き渡る。傍から見れば完全に頭の悪い学生の乱痴気騒ぎでしかない。
しかし、それでも俺たちはこの瞬間を心の底から楽しんでいた。皆が当たり前に過ごしている今この瞬間を、体の全て、五感を総動員して味わっている。
誰にも明日が来ることが約束されているわけでは無い。そうじゃない人間と、そういった人間を身近に以って、初めて感じることが出来る、ありふれた日常への感謝。無数の閃光に彩られたこの空間は、そんな俺たちの感情を具現化して、一生忘れないように心の中に刻みつけてくれていた。
「あー。いやあ、笑った笑った」
「ホント、すっごい贅沢だったよね」
気づけば最後になった花火をバケツの中に放り込む。無尽蔵とも思えた在庫は俺たちの無節操な浪費によってあっとういうまに底をついた。先ほどまで盛り上がりが嘘のように、静寂が訪れる。その静けさは愉快な時間の後に訪れる、対極の感情を否応なしに呼び起こす。
「……メイ、今日は楽しかったか?」
バケツの中に山の様に放られた使用済みの花火たちを、名残惜しそうに見つめているメイに声をかける。
「うん……たのしかった」
「そっか、それなら良かった」
自然と言葉が少なくなる。それが、楽しい時間の終わりを告げているようで、胸が切ないため息を吐き出した。
「俺さ、今まで生きてきて目標とか全然なくて、だから今までの人生そこそこに勉強して、そこそこに遊んで。なんていうか、無気力に生きてきたんだ」
俺の真面目な語りに、宏太とゆりえも口を開くことなく、耳を傾けてくれていた。
「それが、メイと出会ってから色んな事が輝いて見えた。いつもの日常がメイと一緒だと全部が楽しかった」
メイも俺の言葉を真剣に聞いてくれている。先ほどは伏せがちだった瞳も今ではまっすぐ俺の瞳を捉えている。だから俺は安心して言葉を続けることが出来た。
「だからお返しがしたくて、俺がメイにしてあげられることって何だろうって考えたんだ。そしたら、メイずっと花火見れてないなって。初めて四人で集まったときに見たいって言ってて、結局この前見れなくてさ。それで今日、いっぱい花火買い込んで、宏太ととゆりえにも都合つけてもらって……なんていうか、俺ができるお前への贈り物ってやつ、でさ」
「……そっか」
「まあ、本物と比べたら、だいぶしょぼいかもしれないけどな」
「そんなことない……すっごくきれいだったよ」
メイはそんな俺の言葉を、優しく否定した。
「すごくうれしかった……さいご、みんなとはなびがみれて、ほんとうにうれしかった」
一切の飾り気のない言葉たち。しかしシンプルな言葉はとてもメイらしくて、それだけに俺たちの心に暖かな体温を伴いながら染み込んでいく。
「たかゆき、こうた、ゆりえ……ほんとうに、ありがとう」
そういって俺たちに笑顔を向けた。その笑顔は、初めて二人でこの丘に来た時に見せてもらったときと全く同じで。暗闇の中でもただひたすらに、彼女は純粋だった。
「……ああ、俺の方こそ――」
言いかけて、視界の端で何かが点へと昇っていくのが見えた。それの方向へ顔を向けると同時に、雲一つない夜空に一輪の巨大な花が咲いた。
「うわあ……」
その圧倒的な光景にメイが、声を上げる。
地上から登る閃光の軌跡は鮮やかな花柱のようで、その梢では大小カラフルな光の花びらが舞乱れる。黄金の枝垂れ桜。極彩色の向日葵。それらは澄み切った空気を切り裂き、空に煌めく星たちを覆い隠す。
「すっごい……きれい」
「ああ、ほんと、きれいだな」
以前、花火の日程について話し合った時に、地元の花火が一日違いで予定されているものだった。昨日手持ち花火を買いながら、俺はそれをこの丘で見れないかと考えていた。時間帯は合わせることができるが、花火の上がる方向とこの丘の地理関係まではわからなかった。しかし、今こうして俺たちの目の前には鮮やかな花火が打ち上げられている。
次々と打ちあがる煌びやかな火薬の宝石を眺める。規模としては昨日の大会の方が遥かに大きいのだろう。それでも、俺たちにとっては今この瞬間の夜空を彩るそれこそが至高だった。
「……」
俺は、メイをを後ろから抱きしめた。
しばらくの間、二人で上空から放たれる光に身を任せる。その光線が届ける熱を浴びながら、俺は腕の中に感じる体温を何よりも感じていた。
「たかゆき」
「……なんだ?」
思わず声が震えそうになるのを必死でこらえる。これが、メイとの最後だ……だから、笑わなきゃ、いけないんだ。
「……ありがとう」
「……さっきもいってたじゃねえか。あんまり言われると……照れるぞ」
「えへへ……でも、これは、いちばん……だから」
「え?」
「いちばん、だいすきな……たかゆきに、だから」
「……メイ」
必死に絞り出されるメイの思いの丈に、痛みを伴うほどに目頭が熱を帯びる。それをぐっと瞼に力を込めてせき止めた。
「わたしにとって……いちばん……の、ありがとう……なんだよ」
火薬の花が開く音の隙間をぬって、メイの声が俺の鼓膜を小さく揺らす。それは今にも消え入りそうなくらい切なく掠れていて、言葉は途切れ途切れだった。それは、彼女が初めてみた花火に感動してくれて、今日俺が考えたサプライズに感極まっているからなんだと……その他に一切理由なんてないって、自分に何とか言い聞かせる。
「……なんだよ、それ」
「はなびって……ほんとうに……きれいなんだね」
「だろ……?」
「たかゆきと……いっしょに……みれて、よかった」
「……ああ」
「……」
メイはもう、それ以上は何も語ることなく、俺の腕に体重を預けてきた。
そして、ただ静かに。
俺は次々と打ちあがる花火を、腕の中のメイと共に、最後まで見続けた。




