声は鍛えられない
お読みくださりましてありがとうございます。
文字数が少なかったので、おまけつきです。
パーティー会場を抜け出した2人は、公爵家へと向かう馬車が来る場所までゆっくり歩いていた。
その途中で通りかかったのは、魔道具によりライトアップした噴水広場だ。
そこで、フォルス様が歩みを止める。
「どうかなさったのですか、フォルス様?」
止まってしまったフォルス様に、私は声を掛ける。
フォルス様は、真剣な顔つきで、私を見つめていた。
私から視線を外し、顎に手を置き考え始める。
しばらくの間、静粛が訪れた。
そして、意を決したといった瞳でもう一度私を見据え、フォルス様が告げたのだ。
「もう、婚約者で居るのは終わりにしよう。」
ハッ!意識が一瞬飛んでいたわ。
な、なんだとー!!!
そんな、そんな、そんな~。
ここまで来て、私だけがバッドエンドだと言うのですか!?
そんなことって……神様、残酷すぎますぅぅぅぅぅぅ。
私は、崩れる様に膝を地面につき、下を向き、顔を両手で覆った。
涙は出さない……出してしまったら、この言葉を受け入れたと思われる気がするから、今の言葉を認めたくない。
どうしたらいい?
私は、受け入れなければならないの?
こんな苦しい言葉を受け入れなければいけないの?
ねえ、彼に何て伝えたなら……私を望んでくれると思う?
伝えなきゃ、なんて言って?トーホホホッ…。
「私は…あなたのことが好きなのです。心から、お慕いしているのです…。」
絞り出した言葉、それが私の精一杯だった。
「ああ、だからこれからは、俺の妻になってくれ。すぐに結婚しよう!」
明るい弾んだ声で聞こえてきた言葉に、私はハッとし顔を上げる。
そこには、いつもの優しい微笑みを浮かべたフォルス様が、私へ手を差し伸べていた。
それを見た瞬間、私の頬に涙が伝った。
先程の我慢した涙が、嬉し涙へと変わったようだ。
フォルス様が私の腕を優しく掴み腰を持ち上げ、力強く抱き寄せる。
「返事は?」
耳元で囁かれると、一気に感情がこみ上げてくる。
「はい……です。喜んでお受けいたします!!」
そして、彼に抱きしめられ濃厚なキスをした。
「では、我が家へ一緒に帰ろう。」
と、フォルス様が私の手を引き歩き出す。
帰宅して婚姻書にサインし、魔王に提出で婚姻成立なのだそうだ。
魔王は本人だ。
「お前を早く俺のものにしたい。」
そう囁かれて私の体は火を噴いた。
魔王様の言葉に気持ちの高ぶった私は、いつもの癖でアレが出てしまう。
「オーホッホッホッホ!オーホッホッホッホ!オーホッホッホー」
「キアラ、止め!!」
「あっ、はい。」
---END---
おまけ:魔王城にて
「書き終えたか?」
「はい、出来ました。」
「よし、これにて、俺達は夫婦だ。」
「フフッ。」
執務机から移動し、ソファーでイチャコラする2人。
「あ、そうです。フォルス様、先程のプロポーズ……意地悪でしたよね。私てっきりフラれてしまったと勘違いしてしまいました。」
「ハハッ、俺も、魔族だからな~悪戯心がついついでてしまったよ。魔族だけにね。」
「もう酷いですわ、フォルス様ったら。」
「ごめんごめん。それよりもキアラ、その高笑いは癖なのか?」
「ええ、何故だか気持ちが昂ると出てしまって。でも、これをやると気持ちがスッキリするんですよ。感情が高まった時とか、気持ちがモヤモヤした時などにやるとスッキリしますし、ここ、このお腹の部分に力を入れるので、ここのお肉が鍛えられ、減るのですよ。」
「へ~そうなのか?なかなか、良い点もあるのだな。」
「ええ、フォルス様もよかったら試してみてください。声を出す練習にも使えますよ。」
「でも、歌はうまくならない様だな。」
!?!?!?
なぜ、知っている?
私が極度の音痴だという事を…。
「なぜ知っている?といった顔だな。この前、キアラが一人で勉学に励んでいる時に、歌を口ずさんでいるのを偶然聞いたのだ。」
「さ…左様ですか。」
この世の終わりのような表情のキアラ。
「安心しろ、俺とリュネ以外は聞いていない。」
「リュネ?リュネって誰でしたっけ?」
「俺の補佐をしている、あの金髪のー」
「あいつか!?え、一番まずいじゃないですか!!!絶対にネチネチ弄られる。もう健康な生活が送れなくなるじゃないですか。」
「大丈夫だ。俺が守るから。」
「フォルス様~。」
ここでチュッチュし、終始ラブラブな2人である。
「そういえば、なぜフォルス様は、この婚約をすんなりと受け入れてくれたのですか?」
「ああ、君が美人だったのも、俺を気に入ってくれていたのも理由の一つがだが、一番の理由は君がクレイジーだったからだ。敵国と認識している国に乗り込み、婚約しようとか破天荒すぎるだろう。そういう者を魔族は好む。」
「そうなのですね。私、クレイジーです。頑張ります!オーホッホッホ!」
クハッと声を出し、腹を抱えて笑うフォルス様。
フォルス様は、一通り笑い落ち着いたのち
「あっ、ロレンツィオにも、あとでちゃんと謝れよ。レギュラムとルマイスの間で、折角、和平を結べたのに確執が生じるのは困るからな。」
と私に注意した。
「あっ、はい。」
面倒な事がまだ残っていたという残念な顔をしながら、魔王様に腰を抱かれ執務室を後にする悪役令嬢キアラであった。
おしまい。
これにて完結です。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。