ほんとうの『建国の物語』
白を基調とした部屋に、ぽかぽかとした春の日差しが降り注いでいる。
この数日で季節は進み、動き回れば汗ばむこともあるくらいだ。
「これで最後ね」
アメジストの腕の中には、青いキルトのカバーが抱かれている。
私は部屋を見回した。
フィオナはもちろんハンナも手伝ってくれて、運び込んだ時と同様にてきぱきと荷物が運ばれていった。今頃はもう馬車に積み終わっているだろう。まだ朝といえる時間のうちに、すっかり片付いてしまった。
ベッドは一つに戻り、すべての物がいつもの位置にきちんと置かれている。ほんの数日前の状態に戻っただけのはずなのに、妙に空間が目立っていてさみしい。
「もう少しいればいいのに」
仕方ないこととわかっているけれど、何度となく口にした言葉をまた投げかける。
「私がいないと、荘園の者たちがさみしがるのよ」
同じ数だけ口にした答えを繰り返して、少し首を傾げて困ったように微笑んだ。その仕草はやっぱり小鳥のように可憐で、玉座の間で出会った時と同じように思わず見とれてしまう。
「今度は貴女が遊びに来てちょうだいね。私、ビスケットの焼き方を練習しておくわ。糖蜜も忘れずに用意して」
好きなものを覚えてくれた気遣いがうれしくて、曇った表情をなんとか振り払って笑顔を作った。
「ええ。約束よ」
「じゃあまた、近いうちに、ね」
林檎の花の刺繍がたっぷり施された裾を翻して、彼女は颯爽と去っていく。
その足取りには、迷いがない。
竜の前で頭を下げる私の横に進み出たときのように。
私はしばらく立ち尽くしていたが、思い切って窓に駆け寄った。
身を乗り出すと、アメジストが馬車の前でフィオナと何か話しているのが見える。胸元からペンダントがすべり出て、金のウロコがきらきらと光る。
思い切り息を吸うと、腹筋を意識して声を出した。
「アメジスト!」
彼女は振り返って私を見上げた。
「ビスケットの作り方、練習しなくていいわ」
自分のものとは思えないほど大きな声が出るので、私はおかしくなった。思い切り息を吸って、口角を上げて、こう続けた。
「また一緒に、レシピを見ながら作りましょう。歌を歌いながら」
彼女は丸めたキルトカバーをフィオナに預けると、首からペンダントを取り出して銀のウロコを私に見せた。
「ええ。約束よ」
あるところに、小さな国がありました。
優しい王様とお后様が治めるこの国で、人々は平和に暮らしていました。
王様とお后様には美しいお姫様が二人いました。朝の光のように美しい金糸雀と、夜の帳のように美しい小夜鳴鳥。
二人は皆から愛される、幸せな子供でした。
ある年、小さな国を干ばつが襲いました。井戸は枯れ、川は干上がり、人々はどうすることもできませんでした。神官は毎日神に祈りをささげました。
ちょうどその時、城には一人の聖歌技官が加わりました。金糸雀と小夜鳴鳥は、その銀髪の青年とすぐに仲良くなりました。
焼きたてのビスケットに喜び、お人形の髪をうまく結べないことに悲しみ、子ども扱いされると怒り、二人で遊ぶことを何よりも楽しむ。
金糸雀と小夜鳴鳥の毎日は、歌であふれていました。
銀髪の青年は、二人のためにこの国を救いたいと強く思いました。銀髪の青年の正体は、水をつかさどる青竜だったのです。
でも国を救う水をもたらすためには、城から離れた『水のへそ』と呼ばれる土地に神殿を立て、そこに住まなければなりません。二人とはお別れしなければならないのです。
お別れの日、悲しくて大粒の涙を流している金糸雀と小夜鳴鳥の前で、銀髪の青年の目からぽたりと二粒涙が落ちました。それは不思議な力で形を変え、金色のウロコと、銀色のウロコになりました。銀髪の青年は友情のしるしに、金糸雀には金色のウロコを、小夜鳴鳥には銀色のウロコを渡しました。
二人はそれを握って、こう言いました。
「さみしくなったら、お水を使って知らせてね。私たち、このウロコを持ってぜったいに会いにいくわ。そのときは、あなたのよろこぶ歌を、おみやげにたくさん持っていくわ」
二人の小さな歌姫によって、小さな国は水に恵まれた豊かな土地となり、大きく発展していったのでした。
めでたし、めでたし。
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