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ギルド騒然



リナは黙り込んだ。


しばらくの間、視線を下へ落としたまま動かない。


やがて我に返ったように、何事もなかった顔で視線を逸らした。


「……まあ、よくあることよ」


声音はいつも通り平坦だった。


まるで、ごく普通の戦闘知識を説明しているだけのように。


「激しい運動をすれば血流も良くなるし、身体も興奮状態になる。そういう生理現象が起きること自体は、別に珍しくないわ」


ほんの一拍。


「あなたは……少しここで休んでなさい」


それだけ言うと、リナは訓練場の反対側へ歩いていき、長椅子へ腰掛けた。


腕を胸の前で組み、目を閉じる。


いつも通り背筋は真っすぐ。


けれど。


どことなく、動きがぎこちなかった。


ノアは黙ってその後ろ姿を見る。


銀白色の長い髪が肩から流れ落ち、訓練場の暖かな灯りを受けて冷たい光を帯びていた。


椅子に座っていても姿勢は崩れず、その姿はまるで鞘に収められた一本の剣のようだった。


ノアは鼻先を軽く掻いた。


――いや。


――運動のせいじゃないんだけどな。


――原因、たぶんリナ姐さんだから。


そう思った、その時だった。


リナの頭上に。


淡い光の文字が、すっと浮かび上がった。


【エルフ・リナ】


【コピー可能特性:《並列思考》】


「……!」


ノアの目が一気に輝いた。


《並列思考》。


名前だけでも、かなり当たりっぽい。


戦闘で最も危険なのは、一つに気を取られて他を見失うことだ。


敵の動きを読みながら魔力を制御する。


剣を振りながら次の魔法を組み立てる。


複数の敵を同時に警戒する。


もし文字通り、二つ以上のことを同時に高い精度で処理できる特性なら。


戦闘での価値は、とんでもなく高い。


しかも。


相手はリナだ。


どう見ても、そこらの冒険者とは格が違う。


こんな相手が持っている《特性》なら、名前が地味でも中身まで地味とは限らない。


ノアは興味津々で文字を見つめた。


だが。


すぐに一つの疑問が浮かぶ。


――待てよ。


――なんで今なんだ?


もっと前でもよかった。


もっと後でもいい。


なのに。


よりによって、あんな気まずすぎる事故の直後。


システムの仕様では。


相手から一定以上の好意を持たれていなければ、《特性》自体が見えない。


ということは。


「…………」


ノアはゆっくり頷いた。


――今ので、好感度上がったのか?


――美人のお姉さんの心って、奥が深いな。


訓練場に。


しばし静かな時間が流れた。


やがて。


身体の妙な熱もようやく落ち着く。


ノアは軽く咳払いして立ち上がった。


「リナ姐さん」


「もう大丈夫です」


長椅子に座っていたリナの睫毛が、ぴくっと揺れた。


目を開く。


そして。


どこか不自然なくらい素早く立ち上がると、そのまま扉まで歩いていった。


ガチャッ。


訓練場の扉を開く。


「行くわよ」


「はいはい」


ノアは笑いながら、その後ろについていった。


◆


冒険者ギルドの大厅は、相変わらず賑わっていた。


さっきノアを笑っていた冒険者たちも。


まだ帰っていない。


むしろ受付の近くに集まり。


安い麦酒を飲みながら、ノアがどんな姿で戻ってくるのかを待っていた。


「なあ」


髭面の大男がジョッキを傾ける。


「もう結構経ったよな?」


「なんでまだ運ばれてこねえんだ?」


隣の痩せた男が、にやにや笑う。


「とっくにリナ教官に蹴り飛ばされて気絶してるんじゃね?」


「今頃、中で神官待ちだろ」


「そもそもよ」


別の男が鼻で笑った。


「あの優男が新人試験?」


「腕なんか俺のジョッキより細かったぞ」


「酒場で皿運びしてるうちに、自分まで強くなった気でいたんじゃねえの?」


どっと笑いが起こる。


別の冒険者が机を叩いた。


「だから言ったろ!」


「あいつ、試験なんか口実だって!」


「目的はリナ教官に近づくことだよ!」


「レックス様ですら贈り物持って行って追い返されたんだぞ?」


「ただの貧乏給仕が、何を勘違いしてんだか!」


「顔じゃね?」


「ははははは!」


また笑い声。


受付の中。


エイミーの長い兎耳が。


少しだけ後ろへ倒れた。


彼女は唇を結び。


ついに耐えきれず、口を開く。


「皆さん」


「そんなに暇でしたら、依頼を受けたらどうですか?」


「採取でも採掘でも、ここで人の悪口を言っているよりずっと有意義ですよ」


だが。


すぐに笑い声が返ってくる。


「おいおい、エイミーちゃん」


「何ムキになってんだよ?」


「まさかさっき、あいつにちょっと褒められたくらいで惚れたのか?」


「ははっ! 口だけは上手いみたいだからな!」


「でもよ」


「ダンジョンの魔物は、口説いたって照れてくれねえぞ!」


「……っ」


エイミーの頬が僅かに強張る。


反論しようとした。


その時。


訓練区画へ続く廊下から。


足音。


コツ。


コツ。


コツ。


一定の間隔で。


ゆっくりと。


けれど不思議とよく響く。


騒がしかった大厅が。


少しずつ静かになっていった。


廊下の暗がりから。


長身の女性が姿を現す。


リナ。


身体にぴたりと沿う黒い訓練着。


肩から流れる銀髪。


長く鍛えられた脚が、迷いなく床を踏んでいく。


先ほどの模擬戦の余韻なのか。


まだ身体には、鋭い戦士の空気が残っていた。


彼女が現れただけで。


空気が一段引き締まる。


さっきまで大声で笑っていた冒険者たちが、慌てて姿勢を正した。


机に足を乗せていた男は、そっと下ろす。


ジョッキを置く者。


髪を整える者。


腹を引っ込めて胸を張る者。


誰もが。


急に“頼れる冒険者”らしい顔を作り始めた。


だが。


リナは一人として見なかった。


そのまま受付まで歩く。


そして。


エイミーへ淡々と告げた。


「ノア」


「合格よ」


「冒険者証を発行してあげて」


「…………」


大厅が。


静まり返った。


数秒。


誰も声を出せない。


やがて。


「……は?」


一人が間抜けな声を漏らした。


「合格……?」


「誰が?」


「ノア?」


「酒場の給仕の?」


「嘘だろ!?」


その瞬間。


リナの後ろから。


ひょこっ。


ノアが顔を出した。


服には埃がついている。


髪も少し乱れている。


だが。


手足は全部ついている。


しかも。


普通に元気だ。


むしろ。


妙に機嫌がいい。


「リナ姐さん!」


「手加減してくれて、ありがとうございました!」


「…………」


リナの足が止まった。


振り返る。


じろり。


「馴れ馴れしく呼ばないで」


「まだそんなに親しくないでしょう」


ノアは素直に頷いた。


「分かりました」


一拍。


「じゃあ、リナお姉さん」


「ごほっ!」


リナが。


珍しくむせた。


すぐに顔を横へ向ける。


そして。


ノアの視界。


【《並列思考》コピー進行度:5%】


「…………」


ノアの口元が。


僅かに上がった。


一方。


周囲の冒険者たちは。


完全に固まっていた。


手にジョッキを持った男など。


口を開けたまま。


麦酒が縁からズボンへ零れていることにも気づいていない。


「……今」


「リナ教官、何もしなかったよな?」


「ノアの奴」


「なんて呼んだ?」


「リナお姉さん……?」


「しかも生きてる……?」


「前に新人が一回『リナ姉さん』って呼んだだけで、訓練場から入口まで飛ばされただろ!」


「あれ以来、誰も馴れ馴れしく呼ばなくなったのに!」


「こいつ」


「二回言ったぞ……?」


「なのに」


「睨まれただけ……?」


誰かが。


ごくりと唾を飲む。


「お前ら」


「さっき見たか?」


「リナ教官」


「……むせたよな?」


「見た」


「っていうか」


別の男が。


さらに声を落とす。


「耳」


「ちょっと赤くなかった?」


「馬鹿!」


「聞かれたら殺されるぞ!」


声を潜めながらも。


全員。


ちらちらと二人を見る。


平静を装うリナ。


楽しそうに笑うノア。


その光景は。


彼らにとって。


ゴブリンが禁呪を詠唱しているのを見るより、よほど現実味がなかった。


リナは。


周囲の視線など気にも留めず。


横目でノアを見る。


「あなた」


「私から少し習ってみる?」


ノアの目が。


ぱっと輝いた。


「もちろん!」


背筋を伸ばす。


「ぜひ!」


「好きなだけ鍛えてください!」


リナの目尻が。


僅かに動いた。


「……そう」


「なら明日」


「同じ時間に、第六十九訓練場へ」


そして。


受付を見る。


「料金はエイミーに払って」


「はい!」


受付の中。


エイミーの兎耳が。


ぴんっ!


勢いよく立った。


すぐに満面の笑顔になる。


カウンターの下から一枚の請求書を取り出し。


両手でノアへ差し出した。


赤い瞳が。


きらきらと輝いている。


――すごい……!


――リナ教官から直接誘われた!


――この町で初めてじゃない!?


ノアは笑いながら紙を受け取る。


そして。


数字を見る。


「…………」


一秒。


二秒。


目が。


見開かれた。


「いくら!?」


紙を持つ手が。


僅かに震えた。


【個人指導・全10回:銀貨15枚】


「十五……?」


「銀貨?」


ノアは。


もう一度見る。


見間違いではない。


銀貨十五枚。


この世界へ来てから三ヶ月。


毎日酒場で皿を運び。


机を拭き。


空いた時間にはこっそり“大人向け芸術作品”まで書いて。


朝から晩まで。


真面目に。


こつこつと。


働いてきた。


そして現在の総資産。


約銀貨四十枚。


それが。


十回の授業で。


十五枚。


「…………」


ほぼ四割。


一気に吹き飛ぶ。


ノアの視線が。


紙の少し上へ動いた。


そこには。


一本の線で消された数字がある。


【通常価格:銀貨20枚】


「…………」


ノアは黙った。


――待って。


――これ。


――割引後なの?


エイミーも。


そこでようやく気づいたらしい。


ノアは。


冒険者資格を取ったばかり。


そもそも本職は。


《宵星亭》の給仕だ。


銀貨十五枚。


現役冒険者にとっても。


決して安い金額ではない。


「……あ」


エイミーの耳が少し下がる。


周囲の冒険者たちは。


ようやく。


少しだけ心の平衡を取り戻したようだった。


数秒後。


あちこちから。


小さな笑い声。


「十五枚か」


「ぷっ……まあそうだよな」


「リナ教官の個人指導なんて、庶民が受けられる額じゃねえよ」


「さっきまでリナお姉さん、リナお姉さんって嬉しそうだったのに」


「現実見えたか?」


「才能を認められたって、金がなきゃ意味ねえんだよ」


「俺なら今すぐ紙返すけどな」


「そのままじゃ、パンツまで売ることになるぞ!」


笑い声。


ノアの口元が。


少し引きつる。


高い。


確かに。


かなり高い。


ただ。


リナの実力は。


ついさっき。


身体で思い知ったばかりだ。


自分が《鉄山靠》で壁まで利用して。


必死に時間を稼いだ。


それでも最後には。


簡単に背後を取られ。


一瞬で制圧された。


この強さなら。


銀貨十五枚も。


ただのぼったくりではない。


むしろ。


本物の強者による一対一指導。


他の場所なら。


金を積んでも受けられない可能性だってある。


「…………」


ノアは少し迷い。


懐へ手を入れた。


財布。


ごそごそ。


「…………?」


さらに探す。


そして。


動きが止まった。


――あ。


今日。


急いで出てきたせいで。


ほとんど持ってきてない。


貯金の大半は。


《宵星亭》の自室。


今の手持ちは。


細かい銅貨だけ。


銀貨一枚分すら。


あるか怪しい。


ノアは。


顔を上げた。


「エイミーさん」


「……これ」


「明日払ってもいい?」


エイミーが瞬きをした。


すぐに。


ふわっと笑う。


「もちろんですよ」


「いつでも大丈夫です」


「無理しなくていいですからね」


優しい。


本気でそう思っている顔だった。


請求書も。


少しだけ引っ込める。


だが。


周囲。


すぐに笑い声。


「明日払う?」


「出た!」


「明日払うやつ!」


「明日どころか二度と来ねえんじゃねえの?」


「今晩荷物まとめて」


「夜逃げだな!」


「はははは!」


その時。


すでに歩き出していたリナの足が。


止まった。


ゆっくり。


振り返る。


冷たい視線。


男たちへ。


それだけで。


笑い声が。


小さくなった。


「強い者は」


静かな声だった。


だが。


大厅の端まで。


はっきり届いた。


「自分より強い相手に挑む」


一拍。


「弱い者だけよ」


「自分より下だと思った相手を笑って、自尊心を満たすのは」


「…………」


大厅が。


完全に静まり返った。


先ほどまで笑っていた男たち。


一人。


また一人。


顔色が変わる。


視線を落とす。


誰も。


反論できない。


何か言おうと口を開いた男も。


リナの瞳と目が合った瞬間。


静かに閉じた。


ノアは。


その横顔を。


じっと見ていた。


冷たいくらいに整った顔。


真っすぐな背筋。


淡々とした声。


なのに。


言っていることは。


誰より真っ当だった。


「…………」


胸の奥を。


何かで。


軽く叩かれた気がした。


模擬戦の最中より。


心臓が。


少し速く鳴る。


リナが。


視線に気づいた。


横目。


「……何?」


「そんな顔で見ないで」


「ちょっと気持ち悪い」


「ひどくないですか?」


リナは気にせず続ける。


「お金が足りないなら」


「ツケでいいわ」


「…………え?」


ノアが目を瞬く。


「その代わり」


「あとで私の用事を少し手伝って」


さらに。


淡々と。


「新人のうちは、持ってる金を全部訓練費に使うべきじゃない」


「防具」


「回復薬」


「食料」


「雪山へ行くなら防寒具」


「一つ欠けるだけで死ぬこともある」


リナは。


散らばった装備の残骸を見る。


「訓練に全部使って」


「酒場の制服のまま《霜雪山》へ行くなんて」


「ただの自殺よ」


そして。


エイミーへ。


軽く手を振った。


「十回分」


「先に登録しておいて」


「……!」


言い終えると。


リナはそのまま歩き出した。


長い脚。


揺れる銀髪。


颯爽とした背中。


すぐに。


ギルド奥の通路へ消えていく。


エイミーは。


一瞬呆然としていた。


だが。


すぐ。


兎耳が。


ぴーん!


「は、はいっ!」


嬉しそうに。


羽根ペンを取る。


さらさらさら。


名簿へ。


ノアの名前を書き込んだ。


一方。


冒険者たち。


「…………」


石化。


全員。


石化したように動かない。


ツケ?


リナ教官が。


自分から。


ツケでいい?


さらに。


あとで自分の用事を手伝えばいい?


何だ、それは。


誰かのジョッキが。


ゆっくり傾く。


麦酒が。


机へ。


だらだら。


本人。


気づかない。


別の男は。


顔が。


熟していない果実でも丸飲みしたような色になっている。


また一人。


ノアを見つめたまま。


魂が抜けたような顔。


さっきまで。


金がない。


払えない。


諦めろ。


そう笑っていた。


なのに。


数十秒後。


リナ本人が。


先に十回分の枠を押さえた。


さらに。


装備や補給品まで。


気にしていた。


「…………」


これ。


普通の教官と新人の距離か?


親しい弟子でも。


ここまでしてもらえるのか?


ノアは。


そんな視線を。


全く気にしていなかった。


ただ。


リナが消えた通路を。


しばらく見ていた。


そして。


視界。


【《並列思考》コピー進行度:10%】


「…………」


胸の奥が。


少しだけ。


温かくなった。


ノアは視線を戻す。


受付。


「エイミーさん」


「今日はありがとう」


笑いながら。


出来たばかりの冒険者証を、ひらひら振る。


「明日」


「ご飯でも奢りますよ」


「え?」


エイミーが瞬きをした。


その隙に。


ノアは。


彼女の手を取った。


「……!」


白く。


柔らかい手。


そっと持ち上げ。


少し身を屈める。


そして。


手の甲へ。


ちゅっ。


軽い口づけ。


「…………!」


エイミーの身体が。


ぴくっと震えた。


次の瞬間。


手で口元を押さえる。


「もう……」


「ノアさんったら」


くすくす。


笑う。


声も。


表情も。


嬉しさを隠せていない。


頬は赤い。


長い兎耳は。


楽しそうに左右へ揺れる。


髪を左右で束ねたツインテールまで。


動きに合わせてぴょこぴょこ跳ねた。


そして。


ノアの視界。


【《高速ピストン》コピー進行度:12% → 18%】


――よし。


ノアの気分が。


さらに良くなる。


ただし。


今日はもう。


身体が限界だった。


体力試験。


武器適性。


模擬戦。


全身。


今にもバラバラになりそう。


本当なら。


もう少し残って。


この兎人族のお姉さんと。


じっくり仲良くなりたいところだが。


今日は無理だ。


――《高速ピストン》か。


ノアは。


少しだけ想像する。


――エイミーさんが持ってる時点で。


――たぶん色々すごい。


――でも。


――これ俺につけたら……。


「…………」


嫌でも。


妙な未来が。


頭に浮かぶ。


――持久力まで乗ったら。


――俺、とんでもないことになるんじゃないか?


「…………」


これ以上考えると。


また身体に良くない。


ノアは。


強制的に思考を打ち切った。


「じゃあ」


「また明日」


エイミーも。


にっこり笑う。


「はい」


「また明日です、ノアさん」


ノアは。


軽く手を振り。


冒険者ギルドを出ていった。


その姿が。


完全に外へ消えたあとも。


さっきの冒険者たちは。


入口を見つめていた。


全員。


何とも言えない顔。


言葉が出ない。


一方。


エイミーは。


まだ少し熱い頬を。


両手で包み。


受付台へ。


ぺたん。


頬杖をつく。


そして。


楽しそうに。


ノアが消えた方向を見つめていた。


◆


夜が明けた。


朝。


カーテンの隙間から。


柔らかな日差しが入り込み。


床へ。


細い金色の線を作っていた。


「起きなさい!」


「この大バカ!」


澄んだ声が。


耳元で響く。


「ん……?」


ノアは。


半分眠ったまま。


目を開けた。


だが。


周囲を確認するより先に。


脚へ。


柔らかな感触。


ぽふ。


ぽふ。


「…………?」


ヴィラが。


ベッドの横に立っていた。


片足を。


ベッドの縁へ。


もう片方の足で。


薄い掛け布団越しに。


ノアの脚を。


軽く。


踏んでいる。


今日のヴィラは。


真っ白なニーハイソックスを履いていた。


柔らかな布地が。


つま先から。


膝上まで。


すらりとした脚を包んでいる。


朝日を受け。


眩しいくらい白い。


足を乗せるたび。


布団が。


少し沈む。


小さなつま先が。


きゅっと伸び。


また。


ゆっくりと戻る。


細い足首には。


綺麗な曲線。


足の甲も。


柔らかく。


滑らかに伸びていた。


そして。


軽く力が入るたび。


白い布地が。


ぴたりと張る。


その向こうに。


小さく整ったつま先の輪郭が。


うっすらと浮かんだ。


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