番外編 君と見る光 後編
後編です~
ライブ後半。
利也が近くの花道へ来た。俺が思わず大きくペンライトを振ると、こちらを見て笑った気がした。そのまま指を向けられた。思わず変な声が出た。
「……っ!」
「望、今すごい顔した」
「だって!こっち見たよね?」
「見たね」
「ファンサってこういうこと!?」
なるほど。これは好きになる。
俺が妙に納得していると、海斗が横から言った。
「望、利也のファンになった?」
「なったかもしれない」
「早いね」
「ちょっと、待って。今めっちゃかっこよかった」
「さっきからずっと言ってるよそれ」
「だってずっとかっこいいんだもん」
海斗が何か言いたそうな顔をしていた。俺はその表情を見て、少しだけ笑う。
「なに?嫉妬?」
「ライブ見て」
「はいはい」
でも、次に手を下ろしたとき。海斗の指が俺の手の甲へ一瞬だけ触れた。俺はそれに気が付かないふりをして、少しだけ口元を緩めた。
ライブの最後の挨拶で、利也は少し息を整えてから客席を見渡した。
「今日さ、ここに来るまでに色々あった人もいると思うんだよね。学校とか仕事とか、人間関係とか。生きてると色々あると思う。それでも今日ここに来るために沢山頑張ってきた人も、頑張ってくれた人もいると思う。」
会場が静かになる。
「だから今日が、明日からも頑張ろうって思えるような理由になってたら嬉しい」
俺はペンライトを握りなおした。
「ずっと元気で前を向いて歩き続けなくてもいいから。俺らのLIVEで元気をもらって、前を向いて頑張ろうっていう気持ちを持てるように、少しだけでも背中を押してあげられるような、そんなLIVEにできるように俺らも頑張るから。また会いに来てよ。俺らも、そのときもっといいLIVEできるように頑張るから!」
隣のメンバーが利也の背中を軽く叩く。
「Luce、今日は本当にありがとう!またね!」
大きな拍手と歓声が上がる。利也の言葉に涙を流す人までいた。
俺も海斗も、最後まで手を叩いていた。
終演後、スタッフに案内されて待っていると、廊下の向こうから聞き慣れた声がした。
「海斗!望!」
衣装姿のまま利也がやってくる。髪は少し崩れていて、頬もまだ赤い。
「どうだった?」
俺が答える前に、海斗が口を開いた。
「先に一個いい?」
「何?こわ」
「MCの紹介、少しだけって聞いてたんだけど」
「あれくらい少しじゃん」
「全然少しじゃなかったと思うんだけど」
「海斗の反応よかったから、つい」
「人をMCの材料にすんなよ」
利也が笑う。俺も横から口を挟んだ。
「でもめっちゃ歓声上がってたよね」
「ほら!」
「望まで利也の味方しなくていいから」
いつもの三人に戻った気がして、俺も笑った。でも、利也を見る目は、少しだけ変わっていた。
「本当にすごかった」
「お、望から感想いただきました!いえーい!」
「ふざけないで聞いてよ」
「聞いてるって」
利也が笑顔のまま、俺へ向き直る。俺は少し言葉を探した。
「かっこよかったのもそうなんだけど。みんな、めちゃくちゃ嬉しそうだった」
「うん」
「利也が笑うと客席も笑って。歌ってると泣いてる人もいて」
「……うん」
「あんなにたくさんの人の気持ち動かせるの、純粋にすごいと思った」
利也の笑顔が、少しだけ照れたようなものに変わった。
「……それ、嬉しい」
「俺も今日来てよかった」
「よかった。誘って正解」
海斗も頷いた。
「遠くの席まで、ちゃんと見てたよね」
「見えるからね」
「踊って歌いながらだろ。すごいよ」
珍しく海斗が素直に褒めるから、利也が大げさに目を丸くした。
「今日の海斗、なんだか優しい!」
「もう言わない」
「嘘!もっと聞きたい!」
俺は笑った。利也も笑って、それから少し真面目な声になる。
「でも、最初はやっぱり緊張したよ。来てくれた人、ちゃんと楽しめるかなって」
「利也でも?」
「するって。俺を何だと思ってんの」
「ずっと自信満々な人?」
「そんなわけないじゃん」
そう言って肩をすくめた姿は、やっぱり俺と同い年の友達だった。
「でも、二人の顔見えたのも嬉しかった。来てくれてありがとう」
「こっちこそ」
海斗が答える。その顔は、まだ少し熱が残っているように見えた。
「俺も、見た人に何か残せる仕事したいって思った」
「海斗もしてるじゃん。さっき名前呼ばれてたでしょ」
「……うん」
「次は俺が見に行く番ね」
「来られる現場なら」
「また一緒にも仕事したい」
「俺も」
迷いのない返事だった。俺は二人を見ながら、利也が海斗の友達でよかったと思った。
今日は、心からそう思えた。
「あ、写真撮ろ!」
利也の一言で、海斗と利也が並ぶ。SNSに載せる用だと確認してから、スタッフに撮ってもらっていた。お馴染みの、肩を組んだツーショットだ。
そのあと利也が俺を呼んだ。
「次、望も!こっちは記念用」
「俺も?」
「当たり前じゃん」
海斗が横へずれて、場所を空けてくれる。三人で並ぶと、利也が「海斗、もっと笑って」と言った。海斗が言い返して、俺が吹き出したところでシャッターが切られる。
写真の中の三人は、いい顔をしていた。
「今度はゆっくりご飯行こうね」
「焼肉?」
俺が聞くと、利也がすぐに頷いた。
「そう。海斗に奢ってもらおうね~」
「俺、それ了承してないんだけど」
「前から決まってるよね、望」
「そうそう!海斗お兄ちゃん、よろしくお願いします」
「都合のいい時だけ年上扱いするなよ」
三人で笑った。スタッフに呼ばれた利也と別れ、俺たちは会場をあとにした。
夜の空気が少し冷たかった。さっきまでの音が、まだ体の中に残っている気がする。
「楽しかったね」
「うん」
「今日それしか言ってないかも」
「すごいも言ってた」
「語彙なくなった」
駅へ向かう途中、スマートフォンが震えた。利也から三人の写真が届いていた。
そのすぐあと、SNSにも海斗とのツーショットが上がった。
『今日は海斗が来てくれました!港斗、俺ちゃんとアイドルしてたでしょ?』
コメントが次々と増えていく。
『太陽と港斗だ!』
『ドラマ終わっても仲良しなの嬉しい』
『海斗くん会場にいてびっくりした!』
俺は画面を海斗に見せた。
「めっちゃ沸いてる」
「恥ずかしい」
「でも写真、二人の距離近い」
「目の前で見てただろ」
「見てても近いものは近い」
海斗が笑った。前みたいに、一人で画面を閉じなくていい。
少し嫌なら、少し嫌だと言える。それで海斗との距離が離れるわけではないと、今は知っている。
俺はSNSを閉じて、三人の写真をもう一度開いた。誰にも見せない写真でも、嬉しさは変わらなかった。
「海斗も、いつかやるのかな」
「何を?」
「ファンミーティングとか」
海斗が少し驚いた顔をした。
「俺が?」
「うん。今日あんなに歓声上がってたし」
「まだ全然そんな」
「でも、いつかはあるかもじゃん」
俺は想像してみた。海斗の話を聞きたくて集まった人たち。海斗が笑うと、一緒に笑う客席。
少し誇らしくて、少しだけ面白くない。
「開催されたら、俺も行く」
「来てくれるの?」
「当たり前じゃん。超古参なめんな」
海斗が笑った。
「でも、ファンサしすぎたらちょっと嫉妬するかも」
「さっき利也に喜んでたくせに」
「それとこれは別。海斗は俺の恋人なので」
言ってから少し恥ずかしくなった。海斗は何も言わず、俺の手に触れた。人の流れが途切れた道で、そっと指が絡む。
「でも、見たいんだよね」
「うん」
「海斗の演技で、誰かが元気になったり、頑張ろうって思ったりするの」
今日の客席を思い出した。あんなにたくさんの笑顔を、一度に見たことがあっただろうか。
「夢とか希望とかさ。そういうのを誰かに渡せる仕事って、すごいね」
海斗は少し考えてから頷いた。
「俺も、そういう仕事がしたい」
「うん」
「今日見て、改めて思った」
その目が、俺は好きだった。自信がないときも、不安なときもある。それでも、やりたいことを見つめるときの海斗の目は、やっぱり綺麗だ。
「今も少しできてると思うよ」
「何が?」
「少なくとも俺は、海斗見て大学院目指そうと思ったし」
海斗が俺を見る。俺は少し照れくさくなって、前を向いた。
「今日も、利也見て研究頑張ろうって思った。明日はちゃんと卒論進める」
「それはよかった。卒業できなかったら困るし」
「急に現実に戻すなよ」
二人で笑う。駅が近づいてきて、今日が終わるのが少しだけ惜しくなった。
「海斗」
「何?」
「いつかファンミやったら、俺の席も残しといてね」
「関係者席?」
「ちゃんと見えるとこ」
「……いつか呼べるように頑張る」
「うん。楽しみにしてる」
それから、つないだ手を少し強く握った。
「あと、その日は終わったあと俺にも構って」
「そこは譲らないんだ」
「当然でしょ」
「分かった」
電車に乗って、並んで座る。海斗の肩に頭を預けると、笑われた。
「眠い?」
「ちょっとだけ」
「着いたら起こすよ」
「ありがと」
スマートフォンには、利也から短いメッセージが届いていた。
【今日はありがと!楽しめた?】
俺はすぐに返した。
【最高だった。また二人で見に行く】
今日の利也は、会場いっぱいの人を笑顔にしていた。いつか海斗にも、そんな日が来るのかもしれない。そのときは、きっと少しだけ嫉妬する。でも、それ以上に嬉しいと思う。
今はまだ、隣で俺を気遣いながら、肩を貸してくれるこの人を。いつか客席から、誇らしく見つめてみたい。
そして、その帰り道も。
今日みたいに、隣に座っていたいと思った。
Fin
高評価やコメント良ければお願いします。
番外編をさらに書くか、第三章を書くか悩んでるところです~。
一旦また完結に戻しますが、多分また書きますのでまたお会いしましょう。




