↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俳優の卵と理系大学生  作者: 蓮弥
第2章 クラスアップ?
PR
32/36

番外編 君と見る光 後編

後編です~

 ライブ後半。


 利也が近くの花道へ来た。俺が思わず大きくペンライトを振ると、こちらを見て笑った気がした。そのまま指を向けられた。思わず変な声が出た。


「……っ!」

「望、今すごい顔した」

「だって!こっち見たよね?」

「見たね」

「ファンサってこういうこと!?」


 なるほど。これは好きになる。


 俺が妙に納得していると、海斗が横から言った。


「望、利也のファンになった?」

「なったかもしれない」

「早いね」

「ちょっと、待って。今めっちゃかっこよかった」

「さっきからずっと言ってるよそれ」

「だってずっとかっこいいんだもん」


 海斗が何か言いたそうな顔をしていた。俺はその表情を見て、少しだけ笑う。


「なに?嫉妬?」

「ライブ見て」

「はいはい」


 でも、次に手を下ろしたとき。海斗の指が俺の手の甲へ一瞬だけ触れた。俺はそれに気が付かないふりをして、少しだけ口元を緩めた。


 ライブの最後の挨拶で、利也は少し息を整えてから客席を見渡した。


「今日さ、ここに来るまでに色々あった人もいると思うんだよね。学校とか仕事とか、人間関係とか。生きてると色々あると思う。それでも今日ここに来るために沢山頑張ってきた人も、頑張ってくれた人もいると思う。」


 会場が静かになる。


「だから今日が、明日からも頑張ろうって思えるような理由になってたら嬉しい」


 俺はペンライトを握りなおした。


「ずっと元気で前を向いて歩き続けなくてもいいから。俺らのLIVEで元気をもらって、前を向いて頑張ろうっていう気持ちを持てるように、少しだけでも背中を押してあげられるような、そんなLIVEにできるように俺らも頑張るから。また会いに来てよ。俺らも、そのときもっといいLIVEできるように頑張るから!」


 隣のメンバーが利也の背中を軽く叩く。


「Luce、今日は本当にありがとう!またね!」


 大きな拍手と歓声が上がる。利也の言葉に涙を流す人までいた。


 俺も海斗も、最後まで手を叩いていた。



 終演後、スタッフに案内されて待っていると、廊下の向こうから聞き慣れた声がした。


「海斗!望!」


 衣装姿のまま利也がやってくる。髪は少し崩れていて、頬もまだ赤い。


「どうだった?」


 俺が答える前に、海斗が口を開いた。


「先に一個いい?」

「何?こわ」

「MCの紹介、少しだけって聞いてたんだけど」

「あれくらい少しじゃん」

「全然少しじゃなかったと思うんだけど」

「海斗の反応よかったから、つい」

「人をMCの材料にすんなよ」


 利也が笑う。俺も横から口を挟んだ。


「でもめっちゃ歓声上がってたよね」

「ほら!」

「望まで利也の味方しなくていいから」


 いつもの三人に戻った気がして、俺も笑った。でも、利也を見る目は、少しだけ変わっていた。


「本当にすごかった」

「お、望から感想いただきました!いえーい!」

「ふざけないで聞いてよ」

「聞いてるって」


 利也が笑顔のまま、俺へ向き直る。俺は少し言葉を探した。


「かっこよかったのもそうなんだけど。みんな、めちゃくちゃ嬉しそうだった」

「うん」

「利也が笑うと客席も笑って。歌ってると泣いてる人もいて」

「……うん」

「あんなにたくさんの人の気持ち動かせるの、純粋にすごいと思った」


 利也の笑顔が、少しだけ照れたようなものに変わった。


「……それ、嬉しい」

「俺も今日来てよかった」

「よかった。誘って正解」


 海斗も頷いた。


「遠くの席まで、ちゃんと見てたよね」

「見えるからね」

「踊って歌いながらだろ。すごいよ」


 珍しく海斗が素直に褒めるから、利也が大げさに目を丸くした。


「今日の海斗、なんだか優しい!」

「もう言わない」

「嘘!もっと聞きたい!」


 俺は笑った。利也も笑って、それから少し真面目な声になる。


「でも、最初はやっぱり緊張したよ。来てくれた人、ちゃんと楽しめるかなって」

「利也でも?」

「するって。俺を何だと思ってんの」

「ずっと自信満々な人?」

「そんなわけないじゃん」


 そう言って肩をすくめた姿は、やっぱり俺と同い年の友達だった。


「でも、二人の顔見えたのも嬉しかった。来てくれてありがとう」

「こっちこそ」


 海斗が答える。その顔は、まだ少し熱が残っているように見えた。


「俺も、見た人に何か残せる仕事したいって思った」

「海斗もしてるじゃん。さっき名前呼ばれてたでしょ」

「……うん」

「次は俺が見に行く番ね」

「来られる現場なら」

「また一緒にも仕事したい」

「俺も」


 迷いのない返事だった。俺は二人を見ながら、利也が海斗の友達でよかったと思った。


 今日は、心からそう思えた。


「あ、写真撮ろ!」


 利也の一言で、海斗と利也が並ぶ。SNSに載せる用だと確認してから、スタッフに撮ってもらっていた。お馴染みの、肩を組んだツーショットだ。


 そのあと利也が俺を呼んだ。


「次、望も!こっちは記念用」

「俺も?」

「当たり前じゃん」


 海斗が横へずれて、場所を空けてくれる。三人で並ぶと、利也が「海斗、もっと笑って」と言った。海斗が言い返して、俺が吹き出したところでシャッターが切られる。


 写真の中の三人は、いい顔をしていた。


「今度はゆっくりご飯行こうね」

「焼肉?」


 俺が聞くと、利也がすぐに頷いた。


「そう。海斗に奢ってもらおうね~」

「俺、それ了承してないんだけど」

「前から決まってるよね、望」

「そうそう!海斗お兄ちゃん、よろしくお願いします」

「都合のいい時だけ年上扱いするなよ」


 三人で笑った。スタッフに呼ばれた利也と別れ、俺たちは会場をあとにした。



 夜の空気が少し冷たかった。さっきまでの音が、まだ体の中に残っている気がする。


「楽しかったね」

「うん」

「今日それしか言ってないかも」

「すごいも言ってた」

「語彙なくなった」


 駅へ向かう途中、スマートフォンが震えた。利也から三人の写真が届いていた。


 そのすぐあと、SNSにも海斗とのツーショットが上がった。


『今日は海斗が来てくれました!港斗、俺ちゃんとアイドルしてたでしょ?』


 コメントが次々と増えていく。


『太陽と港斗だ!』

『ドラマ終わっても仲良しなの嬉しい』

『海斗くん会場にいてびっくりした!』


 俺は画面を海斗に見せた。


「めっちゃ沸いてる」

「恥ずかしい」

「でも写真、二人の距離近い」

「目の前で見てただろ」

「見てても近いものは近い」


 海斗が笑った。前みたいに、一人で画面を閉じなくていい。


 少し嫌なら、少し嫌だと言える。それで海斗との距離が離れるわけではないと、今は知っている。


 俺はSNSを閉じて、三人の写真をもう一度開いた。誰にも見せない写真でも、嬉しさは変わらなかった。


「海斗も、いつかやるのかな」

「何を?」

「ファンミーティングとか」


 海斗が少し驚いた顔をした。


「俺が?」

「うん。今日あんなに歓声上がってたし」

「まだ全然そんな」

「でも、いつかはあるかもじゃん」


 俺は想像してみた。海斗の話を聞きたくて集まった人たち。海斗が笑うと、一緒に笑う客席。

 少し誇らしくて、少しだけ面白くない。


「開催されたら、俺も行く」

「来てくれるの?」

「当たり前じゃん。超古参なめんな」


 海斗が笑った。


「でも、ファンサしすぎたらちょっと嫉妬するかも」

「さっき利也に喜んでたくせに」

「それとこれは別。海斗は俺の恋人なので」


 言ってから少し恥ずかしくなった。海斗は何も言わず、俺の手に触れた。人の流れが途切れた道で、そっと指が絡む。


「でも、見たいんだよね」

「うん」

「海斗の演技で、誰かが元気になったり、頑張ろうって思ったりするの」


 今日の客席を思い出した。あんなにたくさんの笑顔を、一度に見たことがあっただろうか。


「夢とか希望とかさ。そういうのを誰かに渡せる仕事って、すごいね」


 海斗は少し考えてから頷いた。


「俺も、そういう仕事がしたい」

「うん」

「今日見て、改めて思った」


 その目が、俺は好きだった。自信がないときも、不安なときもある。それでも、やりたいことを見つめるときの海斗の目は、やっぱり綺麗だ。


「今も少しできてると思うよ」

「何が?」

「少なくとも俺は、海斗見て大学院目指そうと思ったし」


 海斗が俺を見る。俺は少し照れくさくなって、前を向いた。


「今日も、利也見て研究頑張ろうって思った。明日はちゃんと卒論進める」

「それはよかった。卒業できなかったら困るし」

「急に現実に戻すなよ」


 二人で笑う。駅が近づいてきて、今日が終わるのが少しだけ惜しくなった。


「海斗」

「何?」

「いつかファンミやったら、俺の席も残しといてね」

「関係者席?」

「ちゃんと見えるとこ」

「……いつか呼べるように頑張る」

「うん。楽しみにしてる」


 それから、つないだ手を少し強く握った。


「あと、その日は終わったあと俺にも構って」

「そこは譲らないんだ」

「当然でしょ」

「分かった」


 電車に乗って、並んで座る。海斗の肩に頭を預けると、笑われた。


「眠い?」

「ちょっとだけ」

「着いたら起こすよ」

「ありがと」


 スマートフォンには、利也から短いメッセージが届いていた。


【今日はありがと!楽しめた?】


 俺はすぐに返した。


【最高だった。また二人で見に行く】


 今日の利也は、会場いっぱいの人を笑顔にしていた。いつか海斗にも、そんな日が来るのかもしれない。そのときは、きっと少しだけ嫉妬する。でも、それ以上に嬉しいと思う。


 今はまだ、隣で俺を気遣いながら、肩を貸してくれるこの人を。いつか客席から、誇らしく見つめてみたい。


 そして、その帰り道も。

 今日みたいに、隣に座っていたいと思った。


 Fin

高評価やコメント良ければお願いします。


番外編をさらに書くか、第三章を書くか悩んでるところです~。

一旦また完結に戻しますが、多分また書きますのでまたお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。