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俳優の卵と理系大学生  作者: 蓮弥
第2章 クラスアップ?
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番外編 君と見る光 前編

お久しぶりです!

番外編です!前編後編に分かれてます!


作者は最近、海斗モデルのやつと韓国料理屋に行きました~。作者は辛い物が苦手ではあるんですが、頑張ってチゲを食べました。海斗モデルのやつは、涼しい顔して作者より辛い物を食べてました。辛い物食べれる人ってなんだかメロいですよね笑

『今度俺のグループのLIVEも見に来てね~』


 確かに、カフェで別れるときに利也がそう言っていた。でも、あのときは機会があればくらいの社交辞令だろうと思っていた。芸能人は忙しいだろうし、俺も院試や研究で余裕がなかったから。


 でも、利也は覚えていた。


 院試に合格して、しばらく経ったころ。研究室のパソコンに向かっていると、利也からDMが届いた。


【望久しぶり!この日空いている?海斗とLIVE来ない?】


 続けて、横浜のアリーナ会場の名前と公演日が送られてきた。


 開演は十八時だった。


【行きたいけど、今からチケットって取れるもんなの?】

【関係者席用意するから大丈夫!】

【いやいや。海斗は共演者だから分かるけど、俺は一般人なんですけど】

【友達じゃん】

【それはそうだけど、それとこれとは話が違うでしょ】

【俺は友達を呼んでるの。芸能人限定じゃないから笑】


 利也は相変わらずの距離の詰め方だった。でも、その遠慮のなさに少し救われた。


 海斗のついでではなく、俺にも声を掛けてくれた。その利也の気持ちまでを遠慮してしまうのは何だか違う気がした。


【じゃあ、お言葉に甘えて】

【よし!俺の本業、ちゃんと見てってね】

【ありがとう!楽しみにしてる】


 俺はそのまま、海斗へ連絡した。


【利也からライブに誘われた】

【俺も。望、行けそう?】

【行きたい】

【じゃあ一緒に行こうか】


 せっかく横浜まで行くのに、ライブだけで帰るのも何かもったいない気がする。


【その日さ、昼も空いてる?】

【空いてる】

【中華街とか行かない?院試終わったらどっか行こうって言ってたじゃん】

【いいよ】

【あと観覧車】

【ジェットコースターでなければ】

【まだそれ言ってんの?笑】


 すぐに返事が来た。


【一生乗らない】


 俺は研究室で、一人笑っていた。



 ライブ当日。待ち合わせ場所にいた海斗は、黒いハーフジップのシャツに、ゆったりしたパンツを着ていた。開いた胸元にはネックレス。黒縁の眼鏡に帽子を被っていても、背が高いし顔がいいから、すぐに見つかる。


「海斗~、お待たせ」

「おはよう。なんで笑ってるの?」

「いや、今日も俺の恋人は顔が良いな~と思って」

「朝からそれ?」

「だって、事実なんで」


 海斗が呆れたように笑う。その顔を見て、今日は一日一緒に居られるんだと思って、また嬉しくなった。


 中華街に着くころには、お腹もすっかり空いていた。店先から上がる湯気。甘い匂いと、香ばしい匂い。どこを見ても食べたいものがある。


「海斗、何食べたい?」

「俺は望が食べたいものでいいよ」

「それ言ったら、全部になっちゃうけど」

「全部は無理」

「じゃあ、適当なことは言わないでください」


 最初に買ったのは焼き小籠包。店先の邪魔にならない場所へ移動して、俺はさっそく箸を伸ばした。


「望、熱いから気をつけて」

「分かってるって」

「中、汁入ってるからやけどしないようにね」

「知ってるって海斗お母さん」


 少しかじった。その瞬間、俺の肩がびくっと上がった。


「……っ!」

「ほら」

「あっつっ!」

「だから言ったのに」


 海斗が自分の飲み物を差し出してくれる。俺はそれを受け取り一口飲んだ。


「大丈夫?」

「だいじょばない」

「望、待つの苦手だよね」

「そういう分析はいりません」


 海斗が笑いをこらえながら、別の小籠包に箸で小さく穴を開けた。中から湯気が逃げていく。


「少し冷ましてから食べなよ」

「……海斗さん、生活力高い」

「望が勢いだけで生きてるから」

「失礼な!ちゃんと考えてます!理系なので」

「今のも?」

「……実験です」

「じゃあ実験失敗だね」


 悔しいけど。海斗の食べ方が正しかった。そのあとも、肉まんを半分にして、ゴマ団子を食べて、気になった店の前で足を止めることを繰り返した。


 気が付けば、買った物はほとんど二人で分け合っていた。


「海斗、一口ちょうだい」

「さっき半分あげたじゃん」

「そっちの方が具が多そう」

「同じでしょ」


 そう言いながらも、海斗は俺の方へ肉まんを差し出してくれる。


 一口かじると、海斗に呆れたように笑われた。


 こういう他愛もない時間がずっと、ほしかったんだと思う。


 食べ歩きを終えた後には、海の方へ向かった。観覧車を見つけて俺が袖を引くと、海斗は何も言わずについてきてくれた。


 ゴンドラがゆっくり上がっていく。


「なんだか懐かしいね」

「そんなに前でもないだろ」

「色々あったじゃん」

「……あったね」


 前に観覧車に乗ったのは、海斗のドラマ出演が決まったお祝いだった。あの後、お互い忙しくなって、すれ違って、勝手に不安になって、喧嘩もした。


 そしてちゃんと話をした。向かいに座る海斗が、俺の方へ手を伸ばす。


 俺はその手を取った。


「今日はちゃんと一日一緒だね」

「そうだね」

「すごく嬉しい」

「俺も」


 短い返事だった。でも今は、その短さを疑わなくていい。


「海斗」

「何?」

「今日は俺がもうお腹いっぱいってなるくらい、俺に構ってね」

「朝から構ってるだろ」

「もっとしてほしい」

「欲張り」

「恋人なので」


 海斗が笑って、つないだ手を少し引いた。顔を近づけると、唇に短く触れられる。


「……そういう不意打ちは聞いてない」

「構ってって言ったの望じゃん」

「言ったけどさ」


 窓の外へ視線を逃がす。窓ガラスに反射した海斗の顔が笑っている。少しだけ腹が立った。


「でもライブ中は利也見るからね」

「そこは見てあげて」


 海斗は拗ねている俺に気が付きながら苦笑していた。



 会場に着くと、さっきまでとは人の流れが違った。


 NocTurneのロゴが入ったバッグ。メンバーの顔が印刷されたうちわや、名前の書かれたうちわ。大切そうに持たれたペンライト。

 ファンのLuce――ルーチェたちが、楽しそうに会場へ吸い込まれていく。


「めちゃくちゃ人いるね」

「うん」

「この人たち、みんな利也たちを見に来たんだよね」


 海斗も会場を見上げていた。あの、カフェで海斗をからかっていた人が、こんなにも多くの人を集める五人のうちの一人なのだ。


 受付を済ませて、案内された関係者席へ向かう。途中、スタッフから海斗へ、MCで紹介してもいいか確認があった。カメラに映すのは海斗だけだという。


「大丈夫です」


 海斗がそう答える。俺は横から小声で聞いた。


「映るんだ?」

「少しだけらしい」

「俳優じゃん」

「まだそれ言う?」


 席に着くと、広い会場を見渡せた。大きなステージと、客席の間を伸びる花道。次々と席が埋まり、あちこちに光が灯っていく。ファンのみんなは、とても楽しそうな表情をしていた。


 俺たちも買ってきたペンライトを取り出した。


「海斗、曲覚えてきた?」

「何曲か利也に送られてきたのがあるからそれ聞いてきた」

「俺も。予習してねって」

「宿題出されたみたいだったね」

「それな。なんかコールみたいなのも送られてきたけど、全部は覚えられなかった」

「コールは流石に難しいよね」

「てか、ドラマの主題歌やるかな?」

「どうだろう。やってくれると嬉しい」


 そう話していたとき、会場の明かりが落ちた。一瞬で、歓声が上がる。床から体へ響く音。スクリーンにメンバー五人が順番に映し出される。映し出される度にさらに歓声が上がる。


 そして照明が開いた瞬間、ステージにNocTurneが立っていた。


「……うわ」


 知っている人なのに。いや、知っている人だからこそ、驚いた。


 俺の知っている利也とは全く表情が違っていた。


 金髪が照明を受けて光っている。音に合わせて動く体も、カメラを見つけて笑うタイミングも、何もかもが迷いなく決まる。利也が前へ出た瞬間、会場の歓声が一段大きくなった。


「海斗、やばくない?」

「……うん」

「俺の知ってる利也じゃないんだけど」

「俺も、こんなの初めて見た」


 海斗も少し興奮していた。それが分かって、俺まで嬉しくなった。


 二曲目は、予習した曲だった。サビが来た瞬間、俺は海斗の腕を叩いた。


「ねえ!これ知ってる!」

「俺も」


 周りに合わせてペンライトを振る。最初は少し遠慮していた声も、途中から普通に出ていた。


 利也が遠くの客席へ手を振る。近くの席の人が、自分のことみたいに喜んで隣の友達と手を取り合っていた。


(あんなに嬉しい顔になるんだ)


 利也は、目の前の相手を明るい気持ちにするのが上手い。実際に俺も明るくさせてもらったことがある。


 それを今、この大きさの会場でもやっている。


 激しい曲の後には、バラード調の曲もあった。さっきまで楽しそうに笑っていた利也が、バラードでは、まっすぐ前を見て、真剣な顔で歌う。その声を聞きながら、目元を押さえている人までいた。


 隣をちらっと見ると、海斗は真剣な顔でステージを見ていた。


 きっと海斗は俺とは違うものも、受け取っているんだと思う。そう思って、何も言わずに俺も前を向いた。


 何曲か続いたあと、MCが始まった。五人が水を飲んだり、汗を拭いたりしながら、楽しそうに話している。


 その途中で、いきなり利也がこちら側を見た。


「あ、そうだ!今日はなんと!俺の親友が来てくれてまーす!」


 隣で海斗が少し姿勢を正した。


「『陽だまりの地図』で一緒だった、朝倉海斗くんです!」


 スクリーンが切り替わる。海斗の顔が、大きく映った。


「きゃー!」


 会場のあちこちから歓声が上がった。「港斗!」と役の名前で呼ぶ声も聞こえる。海斗は一瞬驚いた顔をして、それから照れたように頭を下げて手を振った。


 俺は隣で、笑うのをこらえられなかった。


「海斗、楽しんでくれてる?」


 ステージから聞かれて、海斗が頷きながら、両手で大きな丸を作った。


「良かったー!さっき見たとき、すっごい真剣な顔でステージ見てたから、俺採点されてる!とか思っちゃったよ」


 会場が笑いに包まれた。海斗が首を横に振る。俺は横で普通に笑っていた。


「俺、かっこいいでしょ?」


 利也が自分を指差した。海斗はそれを少し呆れたように笑って、親指を立てる。


 また歓声が上がった。


「今の、あとでちゃんと言葉でも聞くからね!」


 隣のメンバーが、利也の肩を叩いた。


「親友に褒めてもらいたすぎだろ」

「だって来てくれたら嬉しいじゃん!」


 その言い方は、いつもの利也だった。


 画面がステージへ戻ると、海斗がゆっくり息を吐いた。


「……少しだけって言ってたのに」

「めっちゃ映ってたね」

「望、ずっと笑ってただろ」

「面白かったし、それに嬉しかったんだよ」

「何が?」

「海斗の名前呼ばれて、あんなに歓声上がったこと」


 海斗が少し黙った。それから、ステージを見ながら小さく言った。


「役の名前で呼んでくれた人、いたね」

「うん」

「……見てくれてるんだね」


 その声が嬉しそうで、俺まで胸がいっぱいになった。


 画面の中に、俺は映らなかった。でも今日は、それを寂しいとは思わなかった。


 海斗はちゃんと隣にいる。俺にだけ聞こえる声で、今の気持ちを話してくれている。

 それで十分だった。


「そしたら次は、俺の親友の港斗が来てくれてるということで『陽だまりの地図』の主題歌を歌いたいと思います!」


 利也がそう言うと、ドラマの主題歌のイントロが流れ出す。


「海斗!良かったね!歌ってくれるって!」

「うん」


 海斗はとても嬉しそうに、そしてどこか懐かしそうに聞いていた。

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