第二十三話 ツークのお勉強
『すげええええぇぇぇ!!??』
「一体丸々で、大金貨五枚か……」
金貨が十枚で、大金貨一枚。
それが五枚……。
Aランク級の魔物、すごすぎる。
「少ないくらいですよ。もっともらってもいいくらいです」
「そ、そうなのか……」
「わるいねぇ、兄ちゃん! この村の相場は、ハイケアと比べれば八割ってところだからな」
ギルドと廊下で繋がる解体屋。
そのカウンター内から、前掛けを身に着けた筋肉自慢のお兄さんが謝ってきた。
頭がまぶしい。
「そうなんですね」
「村だけでは大都市ほど消費量もないですから。ハイケアに輸送するコストを考えますと」
「あー、なるほどな」
牧場とかもあったし、なにも村で食べるものは魔獣の肉だけとは限らない。
人口も、冒険者を除けば三百人くらいって言ってたし。
【収納】持ちに輸送を依頼するとしても、依頼料がかかる。
そう考えると妥当なんだろうな。
「モリクに聞いたが、クロークテイルがいるんだろ? ハイケアで直接売るって手もあるぞ」
『ムンッ』
俺の肩で胸を張るツーク。
「なるほど。ありがとうございます。状況に応じて考えてみます」
「あぁ!」
ひとまず今後のお金の心配はなさそうだ。
「はい、メナール。半分──」
「私の分は結構です」
「……え!?」
大金貨二枚に金貨五枚。
要らないって……、大金だぞ!?
「い、いや。そうもいかない」
「では、こうしてください」
「ん?」
メナールは元々言おうと考えていたのか、すこし照れた様子で咳払いした。
「あ、あなたのご飯を、そのっ。定期的に、食べさせていただく資金に……させてください」
「……! 律儀だなぁ」
そんなの、受け取る予定もなかったんだがな。
まぁ、そういうことなら大金だけど……もらっておくか。
「じゃぁ、さっそく食堂行きますか」
『フウゥゥゥ!』
「はい!」
獄炎鳥は二時間ほど捌くのにかかるらしい。
その後肉屋に並べるらしいので、メナールに連れて行ってもらうことになった。
◆
宿に戻ればハンナさんはすでに昼食を済ませたらしい。
食堂に向かうと、さっそくツークに必要なものを出してもらう。
「じゃ、簡単なものになるけど」
「構いません。リシトさんの料理はすべて美味しいので」
「そ、そうかな? ありがとう」
すっかり俺の料理を気に入ってくれたらしいメナール。
Aランクで、しかも実家は貴族。
美味しいものをたくさん食べてきたと思う。
そんな彼に言われれば、うれしいに決まっている。
「よーし、ツーク」
『あいよぉ!』
「森で採ったあれ出してくれ」
「アレ?」
「獄炎鳥のいた岩場で見つけたんだ」
夜を越すための準備をしている時に見つけた食材。
「……きのこ、ですか?」
「そ、二段きのこ」
よく食用で見かける茶色のふつうのきのこ。
ただ、こいつは傘の上にもう一段傘が生える。
下段は薄くて柔らかい。
上段は肉厚で噛み応えがあって、いろんな料理に使われるやつだ。
「魔素も十分」
【鑑定】で見れば、下段の方が若干多く含んでいるようだ。
『! あ、アニキ! そう言えばなんスけど……』
「? どうした」
ツークはなにやらハッとして俺に言う。
『先天魔法って、なにかご存知ですかぃ?』
「先天魔法? どうしたツーク、お勉強か?」
『そ、そんなとこッス!』
なんだか慌てた様子のツーク。
どうしたんだ?
「先天魔法っていうのは、人でいうスキル。ツークでいうところ種族特性。生まれた時から素質が備わっていて、スキルによっては少ない魔力で強大な力を扱うことができるんだ。……うーん、それらの総称って言えばいいか? ツークの前でそんな言い方したことはなかったよな」
『なるほどぉ』
「種族特性のことを、固有スキルとも言ったりしますね」
「そうそう。まぁ、呼び方の違いだから深くは考えなくていいぞ。
それとは対照的に、魔力をもとに時間や経験を積み重ねて会得する能力を後天魔法という。ただ、戦闘職に限っては先天魔法の力を使ったほうが遥かに魔力の消費効率がいい。スキルを軸に戦術を組み立てるのが一般的だな」
『はっはぁ~なるほど。だから高ランクの冒険者ってのは、スキルがもとになった呼び名が多いんですかねぃ?』
「そういうことだな」
『……ん?』
何やら食材を広げた机の上で推理を始めたツーク。
「どうした?」
『ってことはですよ?』
「あぁ」
『アニキは後天魔法でサポートしてきたんですよねぃ?』
「? まぁな。スキルは【鑑定】だし、適性が補助魔法だったし」
『……ってことは、一度に三人に補助魔法を掛けてたら……。
消費魔力? てのが、すごいんじゃないですかい?』
「消費魔力が、すごい……?」
「それはそうでしょうね。私も驚いていたところです」
……。そう言われると、そうなのか?
「リシトさんは【鑑定】なので、一度に多くの者に補助魔法をかけることが出来ることにはまだ納得できます。……ですが、後天魔法であれば本来魔力が足りなくなるはずですよね」
『まさかアニキ……。できちゃってたから疑問に思ったことがない……的な!?』
「補助魔法は攻撃魔法とちがって、威力の差が目で見えませんからね。特に他人にばかり使用してきたのでしたら」
な、なんか、メナールに言われると説得力がちがうな。
「……最初から、できてしまっていたからなぁ」
『お茶目さんなアニキも渋いッス!!』
「渋くはないだろ」
「すみません、私もスキル以外の魔法は使いませんので詳しくは分かりませんが……。そうですね、魔術師のような魔法職に話を聞くのが一番でしょう」
魔術師? この村で、知ってる魔術師と言ったら……。
べ、ベルメラ……!?
無理だ。
ゴミを見るような目で門前払いされるにちがいない。
誰か他に高位の魔術師がいればいいんだが……。
「ともかく、リシトさんは何らかの理由があってそれが出来ていて。ひいては料理に補助魔法を掛けることができるのも、それのおかげでしょうね」
「そうか、……意味があることだったか」
付与術師なんて、成り手の少ない職種。
誰かに師事するなんて考えたこともなかったな。
「頭の片隅に置いておくよ。……ツーク、ありがとな」
『♪』
顎の下を指で撫でてやると、尻尾をゆらゆら揺らし始めた。
もしかして……ツーク、俺のことを考えてくれてあんなことを?
俺は、いい従魔に恵まれたな。




