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地獄 2

福岡県北九州市 環境科学研究機構九州第一研究所


九一研に到着した私たちは……というかがっさんや双子ちゃんはその雰囲気に圧倒されていた。

胡散臭いビジネスマンに胡散臭い何らかの宗教っぽい格好をした人物、その他諸々胡散臭い老若男女

視線を移せば経済ヤクザに半グレ、そのままヤクザ……

そんな見た目の連中が大勢うろついているのだ。そりゃ圧倒されるよ、というか何回かきたことある私だって多少引いている。

見た目はそんなんだが彼らは九一研が誇る専従捜査戦闘部隊91SOF、通称『マル暴』の構成職員だ。

『機構』において専従戦闘部隊はいくつか編成されているが、その中に全般職種調査員を抱えているのは『マル暴』だけである。

それっぽい見た目の大半は内偵調査にあたるGS職員だが、厳つい見た目の連中は内偵要員半分人相の悪いDS半分といったところだろう。見分けるコツは筋肉量である。肩にちっちゃいジープ乗っけてるのがDS職員だ。

ともかく『マル暴』は事案使用団体の資金源になりやすい反社会勢力の捜査や摘発及び殲滅から事案使用団体そのものの対処まで行っている部隊であり、書類上は専従戦闘部隊であるにもかかわらず専従捜査戦闘部隊という独自の雅号を与えられている特殊な集団なのだ。


「そんな訳だから、見た目は終わっちゃってるけど彼らも立派な『機構』職員です! ちゃんと礼儀正しくするようにね!」


少し離れたところで端末片手に話し合っていた妙に姿勢のいいギャル二人が苦笑いしている。見た目はの部分が気になったのかな?


「大丈夫! ちゃんと盛れてるよ! ウェーイ!!」


「「ウェーイ!!」」


「いやあ流石九一研、ノリがいいね!」


「……あんまりはしゃがないでください、恥ずかしいんで」


ノリノリでいたら藤森ちゃんに呆れられてしまった。


「いやいや、千人塚博士はこうでなくては! 真面目真面目ではどうにもならないことの方が多い世の中です」


私が反論するより早く、そんな援護射撃が飛んできた。

それほど大柄ではないが白衣の上からすら引き締まっていることがわかる体格は猫科の猛獣を思わせる小県ちゃんのような体型とは異なる頑強さの一つの到達点とも言える雰囲気

よく日に焼けた肌とさっぱりとした短髪、風雪を刻んだ肌に残る年齢相当よりいくらか深い皺と相まって熟練の登山家のような印象を抱かせる。

『機構』で最もフィールド調査に長けていると称される鞠智主幹研究員が穏やかな笑みを湛えて立っていた。


「共同研究の申し出を受けてくださってありがとうございます。博士がいれば百……いや千人力ですよ」


「いえいえ、こちらこそお招きいただいてありがとうございます。それで……早速なんですが『6924RA』を発見されたとの事ですが……」


「ええ、現在それに関する調査を行っている最中です。一緒に来られますか?」



同 ホ号702電波遮蔽観測室


鞠智博士についてくるとまさに尋問の真っ最中だった。


「これは……?」


「『6924RA』は我々の情報提供者からその所在情報が明らかになったのですが、正確な保管場所を探らねばならないので情報を集めているのです。また見失いたくはないですから」


そういえば前回『機構』が『6924RA』を追っていた時も担当していたのは鞠智博士だったか……この手の仕事のプロとしては次こそは確実にやり遂げたいという事だろう。


「現在『6924RA』を保有しているとされているのは崇霊会系宗教法人の『ともしびの家』、情報提供者は同じく崇霊会系宗教法人『真灯教』の代表である真灯岐比佐都美、本名木下隆です」


「……崇霊会系ですか? 何年か前に丸ごと摘発して壊滅したはずですが」


「ええ、確か『コトリバコ』を作成したとかでウチの『マル暴』も外郭団体の摘発には人員を出していましたね」


コトリバコ騒動の後に崇霊会に連なる宗教団体はまとめて潰してある。

本家本元の崇霊会自体は『機構』のフロント団体として確か西研の管轄になっているはずだ。


「『真灯教』は『崇霊会』とは戦前に流血を伴う形で分派しています。戦後『機構』が出来てからは業界における情報提供者として飼われている団体ですので崇霊会系とはいってもあまりあの団体とは関わりがないんです。『ともしびの家』は『真灯教』からの分派で元は穏便な暖簾分けだったようですが最近は些かきな臭い情勢ではあるようですね」


「なるほど……『崇霊会』というより『真灯教』の方の内ゲバですか」


「流石は千人塚博士、お分かりになりましたか?」


「そりゃあまあその手の胡散臭い連中が考えそうなことではあるな、と」


アーティファクトの確保はスピード感が大事である。大抵の場合健康被害やらに目を瞑れば可搬性に優れていることがその理由だ。

もちろんその辺りを鞠智博士ほどの人物ならば理解していないはずがない。

それでもなおこうして確実な裏どりを行うのは、確保が必達事項であるということ以上に齎された情報の確度に不安があるということなのだろう。


「その真灯というのは随分と肝の座った人物のようですね。我々の事を知って尚内輪の争いに利用しようなどとは」


呆れ半分関心半分といった様子の諏訪先生


「単独で『機構』と『保全財団』を共倒れさせようとしてた諏訪先生にそんな風に言ってもらえたら彼も光栄だろうね」


諏訪先生に関しては実際に半ばまでそれを成功させてしまったのだから事前に疑われている真灯とは役者が違うだろうが……


「肝が座っている……というのはどうなんでしょう?」


しかしながら鞠智博士的には納得のいく評価ではないようだ。


「小細工には長けているのでしょうが、『機構』を向こうに回して大太刀廻りできるような器量があるようには思えませんよ」


その上で尚謀を警戒している。

そもそも鞠智博士は限定的状況下においては静代さんをも凌駕しうるESP能力者だ。

自分たちに降りかかる危険という面ではそこらのカルトやらセクトやらなど問題にもならないだろう。

状況と関係性を鑑みれば長く飼ってきた情報提供者ということもありそこまで手荒なこともできない(当社比)のだろうが……

と、考えていたら閃いてしまった。

静代さんの方を振り向くとウインクで返してくれた。


「鞠智博士、ちょっとうちで真灯のインタビューさせてもらってもいいですか?」



福岡県太宰府市 環境科学研究機構山陰研究所・関西研究所太宰府天満宮合同出張所


太宰府天満宮の程近く、表向きは『NERO』の運営するコミュニティーセンターと周辺の民間ビルという体をとっている施設ではあるが、その実としては太宰府天満宮に座す強大な神格性事案である『菅原道真』もしくは『天満大自在天神』とその眷属たる神格性事案を監視し、必要に応じて『機構』の連絡窓口となるよう設けられた施設である。

運営は山陰研と西研宗教部が合同で行っており、本来業務と並行して周辺地域における新興宗教勢力の監視等の業務も手広く行っている。

似たような出張所は島根県と京都府、大阪府、奈良県を除く日本各地の主要な神社仏閣の近傍に設けられてはいるが、ここは些か特殊な施設と言えるだろう。

何せ表のコミュニティーセンターで監視対象である神格性事案が和歌や漢詩の教室を開いているのである。梅花の香りを漂わせたダンディでロマンスグレーな知的で素敵な紳士が教えてくれるということで地域のマダム達にはめっぽう評判が良いそうだ。

本来であればそんな事を認めるなど以ての外ではあるのだが日本三大怨霊のうちの一柱であり、神仏習合によって設定が盛りに盛られた挙句、学問の神様ということで尋常ではない量の新鮮な信仰を集める『機構』からすれば厄介極まりない危険なカミサマである。

機嫌よく紳士してくれている現在の状況を守るためにはある程度本人の希望を叶えてご機嫌取りをするのは非常に重要な事項であろう。


「……そんなにやばい相手なんですか?」


「やばいね。実際の関連性はともかく神上るのと前後して異常気象やら飢饉やらが続いた上、当時高級官僚だった道真公の左遷に関わる関係者が大勢死んでる。そこには天と人との盟約そのものの皇室関係者もいたってんだからその辺の御霊信仰を一身に受けた状態で神格性事案になったんだからもう手なんかつけられるレベルじゃないよ」


「一般的には清涼殿落雷事件やらの印象で雷神としての側面ばかりが取沙汰されますが本来的にはあらゆる禍をもたらしうる祟り神です。怒らせるのは得策ではないでしょう」


諏訪先生が補足する。そういえば昔諏訪先生が敵だった頃ちょっとあのカミサマと仲良くなってたんだよなぁ……今でも時々和歌で風流にやりとりはしているというがやはり災害同士合い通ずる部分があるのだろうか?


「ぼ、僕も……その、西研に、その……いた頃に何度か、会ったことが……」


「そうなの? でもその頃って不平衡力場の四次元的モデリングとシミュレーションの担当だったって言ってなかったっけ」


「えっと、み、道真公が、その……AIに興味を持った、ことが、その……あって、教えに……」


「あー……ありそうかも……それっぽいの作ってあげた感じ?」


「いえ、その……自分で作る方に興味が、えっと、あったみたいで……」


なるほど……家庭教師にしちゃだいぶ贅沢な人選だがともかくその向学心は学問のカミサマの面目躍如といったところか


「そんなやばい……というかすごい神格性事案のところに来て何するんです?」


私たちの説明を頭では理解しているのだろうがそこまで実感できていなさそうながっさんがよく分かんない話はそこまでとばかりに言ってくる。

まあ受験程度で手こずるようなタイプではなさそうだから天満宮の合格祈願のお守り買ったりはしたことなさそうだしなぁ……


「アオハル味が足んないよ! いや、割とみんなそうか……」


せっかく青春まみれの現代に生きてるんだから漫画みたいな学生生活を送れば良いものを……これだから天才って困る。


「失礼な! 私だって大学受験の時に合格祈願のお守りくらい持ってましたよ! 地元の友達がくれたやつなんでどこのかは分かんないですけど!」


「お、いいね友達にってのがアオハルポイント高いよ」


どこのか分かんないってのはがっさんらしいが、この際そこはどうでもいいだろう。


「私たちは主任昇格試験の前に九州まで買いに来ました」


「事案としての菅原道真公のことは知ってたので何かしら+不平衡が良い方に働いてくれないかなって」


「割り切ってんねぇ……まあらしいっちゃらしいけど」


双子ちゃんは相変わらずだ。


「ちょっと待ってください!!」


「どうしたの藤森ちゃん……」


「なんで諏訪大社のお守りにしないんですか!!」


ああ、うん平常運転だ。無視無視。


「そういえば何でここにって話だけどさっきも言った通りここでは新興宗教勢力、特に事案使用の疑いのある団体の監視も行ってる。情報提供者との面会なんかもこういう施設でやることになってるわけ」


情報提供者なんて言っても所詮は何処の馬の骨かもわからないような連中が大半である。

そんな連中を支部や統合管理局みたいな重要な施設に招き入れるわけにはいかないし研究所なんてもってのほかだ。

とはいえフロント企業オフィスやらだと情報的な面でもフィジカル的な面でもセキュリティに不安が残る。

だがこういう施設であれば神格性事案に関わる業務を遂行する上で情報保全体制はしっかりとしたものが用意されているし、緊急対応部隊も常駐している。

さらにここに関しては強大な祟り神のお気に入りの場所でもあるのだから迂闊な事をすればどうなるかなんて火を見るより明らかだ。


「特に真灯自体は小物でも私たちが探してるアーティファクトはあの鞠智博士ですら最近まで尻尾を掴めなかったほどの大物だからね、大事を取ってここでインタビューをすることにしたわけ」


最悪静代さんに真灯の記憶をマルっとぶっこぬいてもらうのでも良いのだが、せっかく表面上は協力的な姿勢を見せているのだ。

他の形も含めて安全かつ確実に仕事を進めていこうじゃないか!

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