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暴風を起こす赤ん坊


 ふわふわと宙に浮いたまま、俺は考える。

 今の俺には特別な能力は何もない。攻撃力や防御力、そんなものがいくら高かろうと伝説級の前では何の意味も持たない。


 さて、どうする?


 赤ん坊はゲラゲラと笑いながら、俺を風に乗せて移動させている。ダメージというダメージは今のところないが、これでは攻撃を与えることが出来ない。

 にしても、なんでこんなに隙だらけの俺を攻撃してこないのだろう。いくらでもすることが出来るはずなのに。


「まさか、遊んでいるのか?」


 こんな戦争状態で、この赤ん坊は遊んでいるというのか……?

 なんて恐ろしい子なんだ。この子には恐怖という感情が無いのだろうか。


 無いんだろうな、きっと。

 生まれた時から最強の能力を持っている彼女には、そんな感情は必要ないのかもしれない。


 ただ、遊んでいるのだったらこっちにもやりようがある。


「なあ赤ちゃん!」


 頭上から赤ちゃんに呼びかけた。すると、俺の声を聞いて赤ちゃんはプカプカと俺の目の前まで浮かんできた。


「あう?」

 

 悪い心を全く感じない。純粋な目で俺を見ている。


「お前さ、俺と遊びたいんだよな?」


「あうあう!」


 嬉しそうに手を挙げた。俺の予想通りだ。この赤ちゃんは他の四天王の皆と違って、あくまで遊んでいるだけだ。


「よし、ならいっぱい遊ぼうじゃないか!」


 と言っても、この赤ちゃんを満足させるには何をすればいいか。


「どんな遊びがしたい?」


「あうあう!!」


 いきなり風が強風へと変わり、俺は壁に叩き付けられた。


「お、お前が遊びたい遊びってこういうのかよ……」


 悪意の無い純粋なじゃれ合いのつもりなのだろう。だが、今はこんな遊びをさせるわけにはいかない。


「あうあう!」


 俺が壁にぶつかったのを見て、赤ちゃんはキャッキャと笑った。楽しそうだなおい。こっちはちっとも楽しくないってのに。


「なあ赤ちゃん、この世界にはさ、こんなことよりももっと楽しい遊びがいっぱいあるんだぞ」


「あう?」


 興味ありげに赤ちゃんは首を傾げた。


「だけどさ。今のままじゃこの世界では楽しい遊びができないんだ」


「あうあう?」


 なんで? と言っているのだろうか。


「お前がここにいる理由が何なのかは知らないけどさ。この城のてっぺんにいる、今この世界を牛耳っている人はすごく悪い奴なんだよ。本来お前が楽しめたはずのものを、そいつはこの世界から無くしてるんだ」


 そう伝えた瞬間、風が変わった。

 強いなんてレベルじゃない、暴風だ。それに、風そのものが痛い。風が吹くごとに、体に傷が増えていく。


「おい! どうしちゃったんだよ!」


 なんで突然こんな凶暴になったんだ。今の赤ちゃんからは、遊んでいる感じはしない。


「あーあー。やっちゃったねー」


 カリバ二人を封じ込めようとしながら、マヤは俺に言った。


「何をやっちゃたって言うんだよ」


 そんな大きなことをやった覚えは無いんだが。


「あんた達が倒そうとしている、この世界でいーちばん偉い人。彼を冒涜することは、私達四人にとって最大のタブー。彼女、普段はいつも笑ってるだけの赤ん坊なんだけど、ああなっちゃうともう誰も手が付けられないよ」


「そんな……」


 なぜそれほどまでにその人物を崇めているのか。俺には理解できない。


 風はどんどん強力になっていき、俺以外のここにいる全員が巻き込まれ始めた。一緒にミステもあの地面の檻から出てくれたらよかったのだが、それは無かった。きっと、あの小さな地面の中で、ミステは右に左に叩き付けられているのだろう。


 なんとかしなければ!

 赤ん坊の暴走を止めねば、俺達は先に進めない。


 考えろ。考えるんだ。


 部屋の両端に、俺は叩き付けられ続けている。左に叩き付けられたと思ったら、次は右に。右に叩き付けられたと思ったら、次は右に。

 今の俺に、何ができるのか。


 今の風の流れは、規則的になっている。右から左、左から右に一直線だ。その一直線に流れる風の中心に、赤ん坊がいる。

 つまり、俺は端から端へ行くのに、一度赤ん坊とすれ違っている。

 この状況を、上手く使えないだろうか。


 風はかなりの勢いがある。ならば……この風の勢いに、俺が乗る!

 敵だと思っていたこの風を、味方につける。


 俺は何度目か分からないまま、左端に叩き付けられた。

 そして風の向きが変わり、今度は右端へと飛ばされる。


 その勢いを利用し、俺は風に乗って、中心にいる赤ちゃんの方まで迫るのを、拳を構えて待った。


 赤ちゃんへの距離が、ぐんぐん縮まっていく。そして――


「おおらぁあああ!!」


 風の勢いのまま、俺は赤ちゃんの顔面を殴った。

 

 ――風は、止まった。

 赤ちゃんを殴るというのはあまり気持ちのいいものではないが、前に進むためには、こうするしかなかったのだ。幸い、死んではいなさそうだ。


「まさか、あの子がやられるなんて……」


 赤ちゃんがやられたのがよほど衝撃的だったらしく、マヤは大きく目を見開いた。


「というかマジ、これって絶体絶命じゃね?」


「だろうな。アイファとあんたを倒せば、俺達の勝ちだ。一方、俺達はまだ誰もやられていない」


 辛い戦いだったが、勝つことが出来そうだ。


「ぐぬぬぬぬ。こうなったら……赤ちゃん! ウト! 起きろっての! アイファもこっち来て、もうあれやるから!」


「え? あれをやるの?」


「それしかもう勝つ方法無いっしょ?」


「いや、私あの女の子追いかけてただけだし、まだピンピンしてるけど……」


「ウトの戦い見てなかったの? あんたがあれに勝てるわけないでしょ?」


「うぅ……。確かに……」


「じゃあやるよ! 私達四人の、合体技を!!!」

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