伝説級との戦いの幕開け
四人が階段から降り終わると、階段はスッと消えた。
「なんで、伝説級の能力者四人が……!?」
こいつらも俺と同じように俺達の世界から連れてこられたのか? いや、そんなはずはない。
おそらくこの伝説級の能力者四人は全員、平行世界の方の住民だ。そもそも、俺達のいた世界のウトは俺の隣にいるし。
というかそれ以前に、萌衣の復活の為に協力してくれた皆が敵側にいることなどあり得ない。
「へぇ、私達が伝説級の能力者だって知ってるんだぁ。有名になったもんだなぁ」
平行世界のアイファが、嬉しいのか悲しいのかよく分からない顔をして言った。
「伝説級だって知ってるどころか、名前もよく知ってるっての。な、皆」
俺の言葉に、カリバとミステとシュカは大きく頷いた。知らないわけがない。俺達にとって大事な存在を。
「名前まで知ってるって、マジで有名人じゃん。マヤ、有名人になりたいって思ってたからチョー嬉しい!」
マヤは俺達のいた世界と同じで、ギャルっぽい話し方だった。
「アノ、ソンナコトヨリモチョットマッテクダサイ。ソコニイルノハ……!」
こっちのウトを見て、あっちのウトは驚愕で目を瞬かせた。そりゃ驚くに決まっている。自分がそこにもう一人いるのだから。
一方こっちのウトは、あっちのウトよりは驚いていない様に見える。既にカリバを二人見ていたのもあって、もしかしたら平行世界で自分自身と会うかも知れないとある程度予想していたのかもしれない。まあ敵として出てくるなんてことは絶対に予想できていなかっただろうが。
「ちょ、ウトが二人いるとかマジウケるんだケド。何、あんた双子だったの?」
げらげらと腹を押さえて笑いながら、マヤは聞いた。
「チ、チガイマス。ダレデスカ、ソコニイルノハ! ワタシノヘンソウヲシナイデクダサイ!」
なるほど、変装だと思ったのか。まあ、普通平行世界の自分だなんて答えにはたどり着けないよな。
「ワタシハアナタデス。アナタトオナジ、ウトデス」
しっかりと相手の目を見て、ウトは真実を答えた。
「ワ、ワタシ? スミマセン、イミガヨクワカリマセン」
予想通りの反応だ。誰だって同じ立場なら似たような反応をするだろう。
「ワカラナクテモカマイマセンヨ。アナタトワタシガデアウノハ、キョウガサイショデサイゴデスカラ」
そう言ったウトからは、絶対に負けないという自信が伝わってくる。俺も、仲間のウトが負けるはずないと確信できる。なんてったって、長齢樹を使っているからな。
「さて、じゃあさっさと通してもらうぞ。悪いけど、俺達は既にお前達の能力がどんなものなのか知っているからな」
全員の能力はしっかりと覚えている。まずマヤは、正直無視ししていいと思う。海を陸地に変える能力とか、ここでは意味をなさない。
となると他の三人だが、ウトはこっちに完全上位互換がいるから大丈夫だ。警戒するべきは赤ちゃんとアイファ。最強の風と、最強の炎。
「カリバ二人はいつでも回復が出来る準備をしておいてくれ。ウトはウトを頼む。ミステ、他の相手はお前と俺で行く。いいな?」
俺の指示に、各々が頷いた。この四人は今までの雑魚のように甘くは無い。負けるつもりは全く無いが、負ける可能性だってある相手だ。もしかしたら、本気を出すことになるかもな。
「私はどうすればいい?」
俺の指示が無かったシュカが、不安そうにたずねた。
「シュカは言うならば俺達の最終手段だ。もしシュカの目から見て俺達が勝てないと判断したら、俺達を連れてトタース第二支部へ戻れ」
「分かった。カプチーノ、頑張ってね」
「おうよ!」
全員(萌衣を除く)の役割が決まり、俺達は動き出した。
「ミステ、敵の武器全部消してくれ!」
『誰も武器は持っていない』
「何? 確かに、言われてみれば……」
剣や銃などを彼女達は持っていなかった。そういや、アイファや赤ちゃんの戦い方に武器は必要なかったな。
となると、ミステの能力は今は使えないか。いや、そんなことは無い。ミステの能力は大いに役に立つ。
「よし、じゃあ俺があいつらを攻撃してくる! ミステは援護を頼む!」
『了解』
ミステが頷いたのを確認すると、腰から剣を抜いてアイファ達に向けて突っ込んだ。
「あの男、速い!」
そりゃまあ一応、俺のスピードのステータスはカンストしているからな!
「おらぁああああ!!」
まずはアイファの腹部目掛けて剣を振るった。当たったところで命を失う場所ではないが、間違いなく当たれば行動不能になる位置だ。戦闘というのは、敵が複数の場合、殺すよりも怪我をさせる方が足手まといを増やさせてこちらが有利になる。
ガギィィイイン!
当たることを確信していた俺の剣は、意外にもいとも簡単に防がれてしまった。
「なんだそれは!?」
突如、目の前に大きな岩のようなものが出来ていたのだ。俺の剣は、その岩へと当たっただけである。岩に弾かれた剣は、遠くまで飛んで行ってしまった。
「ふっふっふ。アイファちゃんは攻撃させないよーだ」
そう言ってニヒヒと笑ったのはマヤだ。あいつがこれをやったってのか?
そんなはずはない。あいつの能力は海を陸地に変えるだけで……。
「マヤ、あらゆるところを陸地に変えるって能力者なんだけどぉ、知ってるんじゃなかったの?」
あらゆるところをだと? 俺が知っているマヤの能力と違う!
「お前、海以外も陸地に変えられたのか……」
「え? あったりまえじゃん。いや、まあ昔は海を変えることくらいしかできなかったけど、ここで働く以上いつまでもそのままじゃまずいっしょ。だからマヤ頑張ったってわけ。そしたら、何も無い空中だろうとあら不思議。陸地が現れるようになっちゃいました! まあもうこれ陸地って言わなくねって感じなんだけど」
くっ……。唯一無視して良いと思っていた敵まで、敵として認識しなくてはいけないとは……。
だが――
「ミステ!」
俺が叫ぶと、アイファの前にあった地面から伸びていた岩はどこにもなくなった。
「お前の能力、ミステの能力と比べれば屁でもないね!!!」
形あるものならば、ミステの能力で容易に消せる!




