有を無に変え無を有に変える
がら空きになったアイファの顔面に、俺はパンチを叩き込んだ。
アイファはマヤが守ってくれると思い油断していたため、避けることが出来ずに直撃した。攻撃を受け、後方へと大きく吹き飛ぶ。
だが、さすがは伝説級、これくらいのダメージではそう簡単にはやられていない。
「ふぅ~ん。そっちのちっこい子は厄介な能力を持っているみたいだね」
目の前にいるマヤが感心したようにつぶやいた。
「まあな。だからお前の能力は通用しない」
ミステの視界に入っているものは、どんなものであろうと消してしまうことが出来る。
「でも、力は強くなさそうだよね?」
「それがどうした。力なんかミステには必要ない」
単純な攻撃力が高ければ高いほど強いなんてことはない。いくら筋肉ムキムキな人だろうと、鉄砲玉一つで死ぬ。
「いやぁ、だったらさぁ。彼女の周りを覆っちゃえばいいだけなんじゃないかなって」
言うや否や、ミステの近くの地面が盛り上がってきた。そして、ミステは盛り上がった地に囲まれ、あっという間に閉じ込められてしまった。
「ミステ!」
死んではいない、とは思う。だがこれでは、ミステが敵の技を見て消すことが出来ない。
「消す方法がどんなものなのかは知らないけどさ。そうやって閉じ込めて今何が起こっているか分からなくしちゃえば、消すことなんてできないよねー?」
「でも、お前が今さっき出したものを消せばいいんじゃないか? ミステは見たもの全てを無にすることができる。今さっきお前が出したやつだって余裕で消せる」
そうすれば、ミステはあの中から出てくることが出来る。
「甘い。すごく甘い! 今まで食べたどんなデザートよりも甘い! マヤの陸地は無限なの。消されたらまた作ればいいだけ。ちびっ子ちゃんが有を無にできるように、マヤは無から有(陸地)を作れる。というわけで、あれは何重にもなって作ってあるし、一つ消したところでまた一つ増やしていくだけだから意味ないよ! あそこから出る方法は、マヤを倒すしかない、みたいな?」
「くっ……」
面倒な能力を持っていやがる。となると、アイファとマヤと赤ちゃんを俺一人が相手にしなくちゃいけなくなったってわけか?
いけるか? マヤと同じように、アイファと赤ちゃんも俺が知っている能力とは違う可能性がある。となると――厳しいかもしれない。
「じゃあマヤ、防御専門だから、後はアイファちゃん頑張ってね!」
「今度はちゃんと守ってよね?」
「分かってる分かってる!」
アイファがマヤに確認をした後、アイファは俺にいくつもの火の玉を飛ばしてきた。一つ一つに威力は無いとはいえ、多く当たるとそこそこ痛い。
剣はまだ遠くにある。取りに行くには結構な距離だ。
このままアイファを相手にするのはきついな。まずはなんとかしてマヤを倒す必要がある。
幸いにも、マヤは防御専門だと言っていた。ならば、マヤ本人からはそれほどダメージを受けることは無いはずだ。
「おりゃ!!」
なるべう気づかれないように、素早くマヤに蹴りを仕掛けた。だが、マヤは俺の攻撃には気づいていたらしく、ピンポイントで陸地を生み出し攻撃をガードした。
チッ、まあそう簡単にはいかないか。
マヤの防御は中々に厄介だ。これを対策しなければ、俺が攻撃を当てることはできない。
「あう!」
「なんだ!?」
突如、俺の体がふわふわと宙に浮かんだ。地に足が付いていないため、上手く身動きがとれない。
「敵はマヤだけじゃないんだよ!」
じたばたと宙の拘束から逃れようとすると、背後から俺の身長の二倍はあるであろう大きな炎が迫ってきた。
「ぐっ……」
上手く避けることが出来ずに、全身に炎を浴びてしまった。焼けるように熱い。
「カリバ、頼む!」
燃えるような熱さになんとか耐えながら、カリバに大声で頼んだ。
「はい! カプチーノ様!」
俺の声に答え、カリバの魔法が全身に降りかかる。
ふぅ……。痛みはスッと引いて、どこにも傷は残っていない。
「何それ! そんな便利な仲間までいたなんてチートすぎでしょ! でもぉ、だったらマヤがさっきのちびっ子と同じようにそのチート女を封じ込めるまで!」
やばい。このままではカリバも閉じ込められてしまう。
「カリバ! 走れ!」
ミステと違い、カリバにはそこそこのステータスがある。俺の仲間の中では俺に次いで足が速い。だから、頑張って走り続ければ捕まらずに済むはずだ。
「くぅぅ、じれったい!」
上手くカリバを閉じ込めることが出来ず、マヤは唇を噛んだ。
どうやらこれ以上何か無い限りカリバは大丈夫そうだな。マヤがカリバを囲もうとするスピードより、カリバの逃げる速度の方が早い。おそらくだが、マヤはミステの無にする能力に対応するのに力を使いすぎていて、カリバに対して思うように力が発揮できていないのだ。
ちなみに、カリバが走るのをやめれば捕まってしまうのだろうが、疲れて走れなくなるなんてことは無い。
なぜなら、カリバは二人いるからだ。互いに無限の魔力で相手を回復し合えば、疲れなんてもんは起きない。
「どうやらまずはあの二人を倒さないといけないみたいだね」
カリバ二人が厄介な相手だと判断したアイファが、ターゲットを俺から2人に変えようとした。
「させねーぞ」
アイファの前に俺が立ち塞がる。あの二人がやられるわけにはいかない。
「赤ちゃん!」
立ち塞がった俺を見て、アイファが叫んだ。すると、先程と同じように俺の体が宙に浮いた。
「くっ……」
これでは身動きが取れない……。
俺が浮いている間に、アイファはカリバのいる方へと突撃した。
「どうやらここは、わたしの出番みたいだね」
今まで部屋の片隅で戦闘を見守っていた萌衣がそう大声で言った。
何をする気だ! お前が何か出来るような状況では――
「やーいやーいこのファザコン野郎! 実の父親が好きとかマジでキモいっての! 普通に引くわ!」
……え?
何をするのかと思えば、萌衣はアイファに向かってくだらない暴言を吐いた。そういや前に萌衣に伝説級の能力者がどんな人達だったか聞かれた時に、アイファは実の父親とそういう関係だって教えたんだっけか。いやいや、だからってそんなことをしたところで――
「あんた、今なんて言った?」
低い声で、アイファが問う。
「だから、ファザコンはキモいって言ったんだよ! というか、そもそもあんたのパパ魅力ゼロだし」
プツン、という音がアイファから聞こえた気がした。
「わたしを馬鹿にするだけじゃ飽き足らず、死んだパパのことまで馬鹿にするなんて……絶対に許さない」
アイファの周りに、メラメラと炎が舞う。あんなに怒ったアイファ見た事が無い。
「お兄ちゃん! アイファちゃんはわたしが引きつけるから、今のうちに赤ちゃんを!」
「引きつけるって、お前にそんなことが――」
「大丈夫! 同じ炎の能力者同士、きっと少しは炎に耐性あると思う。それに、カリバちゃんもいるし。だから、ここは任せて!」
そう言った萌衣の姿は、ちっぽけなのにとてもかっこよく思えた。
俺はまだ、赤ちゃんの対策の仕方を何も思いついていない。今もただ宙にぷかぷかと浮かばされているだけだ。
だが――何の力も無い萌衣だって頑張っているのに、お兄ちゃんが何もしないわけにはいかないよな!




