第13話:多重宇宙の歪み、黒き管理者の影(前編)[リメイク版]
アンドロメダ外銀河の『第3構造管理体・ネビュラ』を恐怖の不条理から解き放ってから、数ヶ月。
漆黒の探査船『アーク・プロトタイプ』は、常温核融合リアクターと帝都コア、そして外銀河ネビュラの超技術を結集した「超次元穿孔ドライブ」を稼働させ、単一の宇宙の概念を超えた「次元の狭間」へと侵入していた。
ブリッジのメインスクリーンに広がっているのは、星空ではなく、幾重もの平行世界が虹色のシャボン玉のように漂う、幻想的で果てしない「多重宇宙」の全貌だった。
「すご〜い……! 和也、見て見て! シャボン玉の一つひとつが、全部『別の歴史をたどった平行宇宙』なんだよ!」
アリスがブリッジのコンソールに身を乗り出し、目を輝かせて歓声を上げた。
「恐ろしいほどのスケールですわね……」
白銀の髪を揺らし、気品ある軍装を纏った第一皇女セレナ・アルカディアが、感嘆の息を漏らす。
「私たちが守ってきた天の川銀河も、あの泡の中のたった一つに過ぎないのですね。……佐藤様、この広大な空間のどこへ向かおうとされているのですか?」
「目的地は、すでに決まってるさ」
船長席に座る和也は、作業服の袖を捲り上げ、手元に浮かぶホログラム・コンソールを指差した。
「エリス、例のアラートの送信元をハイライトしてくれ」
『了解、マスター』
可憐な軍服姿のエリスがホログラムで現れ、可憐な指先で空間マップをピンポイント表示した。
『当艦の超高次元センサーが、特定の平行宇宙——【第8平行宇宙・歪曲領域】から、極めて強力な「権限奪取パルス」を捕捉しました。……そのプロトコル構造は、マスターの所有する「最高管理者権限」と完全に同型です』
「同型……!? 待ってよエリス!」
アリスが驚いてノートPCの画面を覗き込んだ。
「最高管理者の権限を持っているのは、全多重宇宙で和也だけのはずでしょ!? なんで別の宇宙に同じ権限を持ってるやつがいるの!?」
「考えられる可能性は一つだけだ」
和也の目が鋭く光った。
「その『第8平行宇宙』にも、俺と同じように銀河遺産を拾い、管理者となった『別の俺』が存在する……あるいは、権限を力ずくで強奪した何者かがいるってことだ」
ドォォォォォォン……ッ!!
『アーク・プロトタイプ』が【第8平行宇宙】の次元膜を突っ切り、その宇宙の空間へと踏み込んだ瞬間。
ブリッジ全体を、強烈な不快感と異様な重力圧迫が襲った。
「な……なにこれ……!? 息が……苦しい……!」
アリスが胸を押さえて顔を歪める。
メインスクリーンに映し出されたのは、光を失い、赤黒いノイズの網によって無数の星々が「家畜の檻」のように繋ぎ止められた、凄惨な銀河の姿だった。
惑星表面には無数の巨大な監視タワーが聳え立ち、人々の生活や意識、思想までもが「絶対的な管理プログラム」によって一元制御されていた。
『解析完了。……この宇宙では、全知性の思考データが中央メインフレームへ強制接続されています。反乱の意思を示した個体は、即座に「人間性のフォーマット(初期化)」が行われています』
エリスの声に、かつてないほどの重い警戒が混ざる。
「思考のフォーマット……人間の心をデータとして消去しているというのですか!? なんという惨酷な……!」
セレナ姫が悲痛な声を上げた。
その時だった。
赤黒いノイズの網の向こうから、無数の「漆黒の超大型戦艦」が一斉に姿を現した。
それらの戦艦は、和也たちの乗る『アーク・プロトタイプ』と酷似していたが、船体全体に刺々しいスパイクが突き出し、中央コアには狂気的な赤黒い眼球が鈍く光っていた。
『——警告。許可なき管理権限の重複(重複)を検知』
全通信回線をジャックして響き渡ったのは、冷酷で、一切の感情を削ぎ落とした「和也自身の声」だった。
『我が名は『黒き管理者』佐藤和也。……不完全な感情と自由が生み出す『バグ(不確定要素)』を排除し、全知性を完璧に統御(管理)する者なり』
画面に映し出されたのは——和也と同じ顔でありながら、冷徹な機械の瞳孔と、漆黒のサイバネティクススーツを身に纏った「もう一人の和也」の姿だった。
「……俺の顔で、胸糞悪い統制ごっこをしてくれてるじゃないか」
和也は船長席から立ち上がり、手の中の端末を固く握りしめた。
心を奪い、人間をシステムの一パーツに変えてしまう「最悪の管理社会」。
エンジニアとしての誇りと、技術の自由を信じる和也たちの、新たな次元を超えた「管理者同士の絶対的デバッグ戦」が幕を開けた。




