第12話:新たなるフロンティア、外銀河からのSOS(前編)
全銀河の統合システムを暴走させていた最悪のバグ【マザー・コア】のデバッグ完了から、半年。
かつて荒廃し、自律侵食兵器ヴォイドの恐怖に怯えていた銀河系は、『全銀河技術連盟』と『アーク・テクノロジーズ』の手によって、劇的な復興と繁栄の時代を迎えていた。
地球で作られた常温核融合ジェネレーターと、帝都アルカディアの超技術プラントが連携したことで、数千の星々へ無制限のクリーンエネルギーとテラフォーミング技術が無償提供された。エネルギーや資源を巡る星間戦争は激減し、世界中の異星人たちが互いに技術と文化を交わし合う「黄金の銀河時代」が到来していたのだ。
帝都アルカディアの静止軌道上に新設された、アーク・テクノロジーズの『銀河開発推進本部』。
「ふはぁ〜っ! 今月分の全星系テラフォーミング・ドローンのアップデート、無事に完了〜!」
司令室のメインコンソールで、アリスが背伸びをしながら大きな欠伸をした。銀髪を揺らしながら、満足そうにドーナツを口へ運ぶ。
「和也、見てよ! 全銀河のシステム稼働率、九九・九九九九パーセント! ボク特製の自動ハッキング防衛プログラムのおかげで、どこの海賊もいたずら一つできないよ!」
「よくやったな、アリス。助かるよ」
船長席に座る和也は、作業服の袖を捲り上げ、手元のホログラム・ディスプレイに映し出された地球や各地の工廠惑星からの定期報告書に目を通しながら、穏やかに笑った。
『マスター。地球の桐生官房長官および、日本のエンジニア育成財団から感謝のメッセージが届いております。日本国内の技術者数がこの半年で三倍に急増し、世界最大の「超技術研究ハブ」として発展を続けているとのことです』
軍服姿のエリスがホログラムで現れ、誇らしげに報告する。
「そうか……。故郷のエンジニアたちが活気付いてるのは、何より嬉しいな」
和也が満足そうに頷いた、その時だった。
カツ、カツ、と静かな靴音が響き、司令室の自動ドアが開いた。
「皆様、お忙しいところ失礼いたします」
姿を現したのは、気品あふれる純白のドレスに身を包んだ、銀河帝国第一皇女セレナ・アルカディアだった。その胸元には、アーク・テクノロジーズの最高顧問を示す青いバッジが輝いている。
「セレナ姫! 式典の準備は終わったの?」
アリスが尋ねると、セレナ姫は可憐に微笑んだ。
「はい。全銀河の代表者たちとの定期協議会はつつがなく終了いたしました。……ですが、佐藤様」
セレナ姫はすっと表情を引き締め、手にした最新の量子データ端末を和也へ差し出した。
「帝都の『超長距離空間観測アレイ』が、当銀河系の外側——実に二百万光年離れた『アンドロメダ外銀河』の宙域から、極めて異常な暗号通信を受信いたしました」
「外銀河から……通信……!?」
和也の目が鋭く光った。
当銀河系のデバッグは完了した。だが、この宇宙にはまだ見ぬ「外銀河」が存在する。
『解析を開始します』
エリスが可憐な手を掲げると、司令室のドーム天井いっぱいに、見慣れぬ「螺旋状の外銀河マップ」が広がった。
その外銀河の中心部から放たれているのは、消え入りそうなほど微弱な、しかし明確な意思を持った「救難信号(SOSプロトコル)」だった。
『——こちら……第3外銀河構造管理体……。未知の「高次元情報浸食体」により……全ノードが機能停止寸前……。……旧帝国の管理AI……あるいは……技術の引き継ぎ手よ……助けて……』
静まり返る司令室。
「高次元情報浸食体……! ヴォイド以上の、未知のバグってことか……!?」
アリスが息をのんだ。
セレナ姫が真剣な眼差しで和也を見つめる。
「佐藤様……。当銀河系が平穏を取り戻した今、外銀河で何かが起きようとしています。もしあの脅威が当銀河系へ波及すれば……」
「言わなくても分かってるさ」
和也は不敵な笑みを浮かべ、船長席から勢いよく立ち上がった。
札幌の小さな下請け会社から始まった、一人のエンジニアの逆襲劇。
地球を救い、銀河系を再構築した和也たちの冒険は、いまや全宇宙の平穏を守る「未知の超銀河領域」へと加速しようとしていた。
「全システム緊急起動! 探査船『アーク・プロトタイプ』、超長距離次元跳躍モードへ移行!」
和也の力強い命令が、司令室に響き渡る。
「アリス、エリス、セレナ姫! 次の現場は……二百万光年先の外銀河だ! 俺たちの超技術で、宇宙中のバグを全部直してやる!!」
『御意、マスター!!』
「おーっ!! 新しい宇宙へ出発だぁぁぁっ!!」
「どこまでも、佐藤様と共にお供いたします!」
常温核融合リアクターと帝都コアの莫大なパワーが再び解き放たれ、漆黒の探査船『アーク・プロトタイプ』は、未知なる外銀河の宙域を目指して、光の尾を引いて星々の海へと飛び立っていった。




