第11話:最終決戦、全銀河の再構築(デバッグ)(後編)[リメイク版]
【マザー・コア】の最深部へと到達した、純白の「重力デバッグ・パッチ」。
それは、攻撃のための破壊エネルギーではない。数千年の間、狂ったように銀河の物質を崩壊させ続けていた悪魔のアルゴリズムを、本来の「正常なプログラム」へと書き換えるための、絶対的な論理の光だった。
ピキィィィィィン……ッ!!
銀河系の中心核を覆っていた赤黒い幾何学模様が、一瞬で凍りついたように動きを止めた。
『警告……内部コードの未定義例外を検出……。侵食プロトコル、強制上書き中……。……バグ、検出……消去……消去……』
マザー・コアの巨大な巨体から、おどろおどろしい赤黒い光が剥がれ落ちていく。
代わりに、その内部から溢れ出したのは、温かく澄み渡るような「純白とエメラルドグリーン」の流動光だった。
「バグのパージ(消去)、成功……! マザー・コアの核心アルゴリズム、完全にクリーンアップされたよ、和也!!」
『アーク・プロトタイプ』のブリッジで、アリスが涙ぐみながら叫んだ。
画面に映し出されていたのは、奇跡のような光景だった。
マザー・コアから放たれていた「崩壊粒子」の波動が逆転し、銀河系全域へと広がる「広域復元波」へと変貌したのだ。
その光が触れた瞬間、銀河各地で暴走していた無数の自律侵食兵器ヴォイドたちが、不気味な黒結晶を砕け散らせ、美しいテラフォーミングドローンや環境保全機械へとその姿を変えていった。
「な……なんという光景でしょう……!」
第一皇女セレナ・アルカディアが、胸元に手を当てて息をのんだ。
「数千年の間、我が帝国と銀河を苦しめ続けてきた悪夢の兵器たちが……すべて、平和のための機械へと生まれ変わっていく……!」
『これこそが、我が主の真の力です』
軍服姿のエリスが、可憐な胸を張って晴れやかに微笑んだ。
『破壊ではなく、修正。理不尽なエラーを正し、あるべき未来へと書き換える……エンジニアの創造力です』
ドォォォォォォン……ッ!!
銀河中心核の超巨大ブラックホールを覆っていた暗黒が完全に消え去り、そこには黄金に輝く巨大な「全銀河環境調整プラント」へと再構築されたマザー・コアが静かに佇んでいた。
全宙域の交信回線に、世界中の、そして全星系の生き残りたちの歓喜と涙の声が満ち溢れた。
『勝った……! ヴォイドが消えたぞ!!』
『銀河が……救われたんだ!!』
『最高管理者、佐藤和也万歳!! アーク・テクノロジーズ万歳!!』
決戦から、数ヶ月後。
帝都アルカディアの中心に聳え立つ、黄金の空中宮殿『グランド・サロン』。
そこには、新しく発足した『全銀河技術連盟』の設立式典が開催され、無数の異星人や地球の代表者たちが集まっていた。
檀上に立つのは、白いドレスを纏ったセレナ姫と、いつもの作業服の袖を捲り上げた和也、アリス、そして実体化したエリスのホログラムだった。
「本日をもって、旧銀河帝国の階級制度および技術独占を完全に廃止いたします」
セレナ姫が、力強い可憐な声で全銀河へ向けて宣言した。
「今後は、最高管理者・佐藤和也様のもと、『アーク・テクノロジーズ』を通じて全銀河遺産の技術を無償で開放し、すべての星々が等しく豊かになれる『新銀河時代』を切り拓いていくことを誓います!」
雷鳴のような大拍手が宮殿を包み込んだ。
地球の北海道・神威島からリモート参加していた桐生官房長官も、画面の向こうで涙を流しながら拍手を送っていた。
式典が終わった後の夜。
宮殿の静かなバルコニーで、和也は手すりに身を乗り出し、目の前に広がる何千億もの星々の輝きを見つめていた。
「ふぅ……あいかわらず、大勢の前で挨拶するのは苦手だな」
苦笑する和也の隣に、アリスとエリス、そしてセレナ姫が歩み寄ってきた。
「あはは! 和也ったら、全銀河を救った英雄なのに相変わらず『下請け根性』が抜けないんだから!」
アリスがジュースを飲みながらからかうように笑う。
「ふふっ、そこが佐藤様の素晴らしいところです」
セレナ姫が優しく微笑んだ。
「どれほど巨大な権力を手に入れても奢らず、ただ現場の技術と人々の幸せだけを見つめている……。私は、そんな佐藤様を心から尊敬しております」
『はい。私の自慢のマスターです』
エリスも可憐に胸を張った。
「まあな」
和也は不敵に口元を歪め、夜空へと手を伸ばした。
「全銀河のメインシステムのデバッグはこれでひと段落した。だが……探せばまだまだ、誰も知らない未知の星や、壊れたまま放置されている古代の遺産がたくさん眠ってるはずだ」
「ということは……?」
アリスが目を輝かせる。
「ああ。俺たちの『デバッグの旅』は、まだ始まったばかりだ」
和也は振り返り、アリス、エリス、そしてセレナ姫に向かって力強く笑いかけた。
「行くぞ、みんな。宇宙の果てまで……バグがある限り、俺たちの超技術で全部直してやる!」
『御意、マスター!!』
「おーっ!!」
「はい、どこまでもお供いたします、佐藤様!」
星々の海へ向けて、一隻の漆黒の探査船『アーク・プロトタイプ』が、輝かしい光の尾を引いて駆け上がっていく。
かつて札幌の小さな下請け会社で虐げられていた冴えないエンジニア——佐藤和也。
彼の逆襲と創造の物語は、いまや全銀河の永遠の伝説となって、遥かなる未来へと紡がれて
(第11話・ 完)




