第10話:帝都強襲、反乱の姫君(後編)[リメイク版]
帝都アルカディアの黄金の空中宮殿『グランド・サロン』。
銀河帝国第一皇女セレナ・アルカディアからの、全銀河技術管理権限の譲渡という「爆弾発言」に対し、ブリッジは一時、静寂に包まれた。
アリスは口に入れたクッキーを噛むのを忘れ、エリスのホログラムは驚きにわずかに揺らぎ、和也は手の中のティーカップを静かにテーブルへと置いた。
「俺に……全銀河の『管理人(管理者)』になれ、と?」
「はい、佐藤和也様」
セレナ姫は立ち上がり、気品あふれる動作で和也の前へと歩み寄ると、その美しい瞳に一点の曇りもない決意を宿して、和也をまっすぐに見つめた。
「帝国の崩壊から数千年。私はたった一人、コールドスリープと孤独な戦闘を繰り返し、この帝都の中核炉と『ヴォイドの最終封印プログラム』を守り続けてきました。……ですが、私だけでは、もう限界なのです」
セレナ姫は、腰の儀礼剣に刻まれた帝国の紋章に手を当てた。
(第10話・完)
「反乱軍の魔の手は、銀河中に眠る未開放の遺産へと伸びています。もし、帝都の中核炉が奪われ、ヴォイドの最終管理コードが書き換えられれば……銀河は二度と立ち直れないほどの暗黒に包まれます。……私には、あの方たちに対抗できるほどの『デバッグ(修理)』の力も、新たな技術を創造する力もありません」
セレナ姫は深く、心からの敬意を込めて、和也に向かって頭を下げた。
「しかし、貴方様にはそれがある! 地球で、火星で、そしてこの帝都で貴方様が見せた、理不尽なバグを打ち破り、世界をあるべき姿へと直す、その圧倒的なエンジニアとしての力……! それこそが、いまの銀河が必要としている『新しい王の資質』なのです!!」
「王、ですか……」
和也は苦笑した。
かつて札幌の小さな会社で、何万行もの複雑なエラーコードを徹夜でデバッグし続けた日々。上司の嫌がらせに怯え、サービス残業に追われ、技術の進歩など微塵も信じていなかった、冴えない下請けエンジニア。
その自分が今、全銀河の皇女から「新しい王」として指名されている。
(笑っちゃうな……人生、何が起きるか分からないもんだ)
和也はゆっくりと立ち上がり、セレナ姫の前に立った。
「セレナ姫。俺は王様や皇帝なんてちっぽけな権力には興味はありません。……俺が興味があるのは、『未解明のエラー』と『正当な技術の普及』だけだ」
和也の瞳に、エンジニアとしての揺るぎない誇りと野望の火が灯る。
「だが、俺たちが拾ったエリスの探査船、そして火星やオリオン腕で目撃した『ヴォイド』の残骸……それらが、この銀河全体の安定を脅かす『最悪のシステムエラー』であるならば、それを放置することはできません」
和也は不敵な笑みを浮かべ、セレナ姫の差し出した手に、自らの手を重ねた。
「俺たちアーク・テクノロジーズが、全銀河のバグを全部叩き潰して、最高の未来を作ってやる! ……その依頼、謹んで引き受けます!」
「佐藤様……!」
セレナ姫の瞳に、心からの安堵と歓喜の涙が浮かんだ。
『――システム認証:佐藤和也。……銀河遺産・最高管理者権限の譲渡を受理。当帝都星系および、全銀河系に眠る帝国遺産の管理コードを更新します』
宮殿内に、銀河帝国の黄金の中央管理核心炉の、澄み渡るような概念音声が響き渡った。
「和也、すごいよ! これで全銀河の『遺産』の場所と状態が全部、ボクの量子PCに表示されるようになった!」
探査船『アーク・プロトタイプ』のブリッジ。
アリスが、モニターに映し出された何千、何万もの青く輝く「銀河遺産マーカー」を見て、歓声を上げた。
『おめでとうございます、マスター。これで名実ともに、貴方は銀河の主となりました』
軍服姿のエリスが、誇らしげに胸を張る。
「よし」
和也は船長席に深々と腰掛け、メインスクリーンに映る帝都アルカディアの黄金の輝きを見つめた。
下請けエンジニアとしての鬱屈した日々。
エリスとの出会い。地球の救済。日本の「超技術国家」への脱皮。火星の紅い森。工廠惑星の解放。
そして、帝都での皇女との邂逅。
すべての準備は整った。




