第10話:帝都強襲、反乱の姫君(中編)[リメイク版]
ドォォォォォォン……ッ!!
帝都アルカディアの黄金の宙域を揺るがしていた爆音と光芒が、うそのように収まりを見せていた。
先ほどまでセレナ姫の親衛隊を追い詰めていた反乱軍とヴォイドの連合軍一万隻。それらは和也の「量子逆ハッキング波」と、引き連れてきた自動艦隊の圧倒的な重力波砲によって一瞬で制御権を奪われ、完全に無力化(沈黙)されていた。
「ぜ、全艦隊の機能停止を確認……!? 敵のヴォイドコア、すべて制御不能状態です!!」
親衛隊の旗艦『セルリアン』のブリッジで、側近の将校が叫んだ。
白い軍装を身に纏った銀河帝国第一皇女・セレナ姫は、胸元に手を当て、目を見開いたまま立ち尽くしていた。
「信じられません……。帝国の最高機密であるヴォイドの制御コードを、外部から一瞬で書き換えてしまうなんて……。一体、あの方たちは何者なのですか……!?」
次の瞬間、ブリッジのメインスクリーンに通信が接続された。
『皇女殿下、無事ですか?』
画面に映し出されたのは、シンプルな作業服を着た日本の青年——佐藤和也。そしてその隣には、銀髪のフード姿の少女アリスと、可憐な軍服姿のエリスのホログラムがあった。
「あ……貴方様が、助けてくださったのですか?」
セレナ姫が尋ねると、和也は照れくさそうに苦笑しながら首を横に振った。
「俺はただの日本のエンジニア……アーク・テクノロジーズ代表の佐藤和也です。……エリスから『帝都の核心が危ない』と聞いて、慌てて駆けつけたんですよ」
「エリス……?」
セレナ姫が視線を向けると、エリスのホログラムが優雅に一礼した。
『お久しぶりでございます、セレナ皇女殿下。第七外縁探査艦隊所属管理AI【エリス】……ただいま戻りました』
「エリス……! 無事だったのですね! 探査艦隊が消息を絶ってから、どれほど心配したか……! では、そちらの佐藤様は……?」
『はい。当機を地球にて保護し、ヴォイドの脅威から地球を救い、更には我が帝国の工廠惑星を解放してくださった、正当なる『銀河遺産の最高管理者』様にございます』
「銀河遺産の……最高管理者……!?」
セレナ姫は息をのんだ。
数時間後。
帝都アルカディアの中心に位置する、黄金の空中宮殿『アルカディア・グランド・サロン』。
ガラス張りの天井から銀河系の中心核が放つ幻想的な光が注ぐ中、セレナ姫と和也たち三人は、重厚なテーブルを挟んで対峙していた。
「改めまして……感謝申し上げます、佐藤和也様」
セレナ姫は皇女としての威厳と気品を保ちつつも、和也に向かって深く、しとやかに頭を下げた。
「貴方様がいらっしゃらなければ、私は、そしてこの帝都の核心炉は反乱軍の手に落ち、全銀河が再び『ヴォイドの悲劇』に包まれるところでした」
「礼には及びませんよ、セレナ姫」
和也は差し出された宇宙の紅茶を一口啜り、穏やかに笑った。
「俺たちはただ、エンジニアとして『バグった世界』を直したかっただけですから。地球でも、火星でも、そしてここでもね」
「エンジニア……バグ……?」
聞き慣れない地球の単語に、セレナ姫が首を傾げる。
隣でクッキーを爆食いしていたアリスが、胸を張って割り込んできた。
「和也はね、地球で一番凄いエンジニアなんだよ! どんなに巨大なシステムでも、どんなに複雑な悪魔のプログラムでも、和也の手にかかれば一瞬でデバッグ(修理)されちゃうの!」
『左様でございます、殿下』
エリスも誇らしげに胸を張る。
『マスターは、既存の権力や利権に一切囚われず、ただ「技術の正当な開放」のために戦うお方。……私にとっても、世界で唯一無二のマスターです』
エリスとアリスの言葉、そして何より和也の誇り高く澄んだ瞳を見て、セレナ姫の胸の中にあった迷いや不安は一瞬で吹き飛んだ。
数千年前、帝国が崩壊し、家族も仲間も失い、たった一人でコールドスリープから目覚めて戦い続けてきたセレナ。
その肩に重くのしかかっていた孤独と責任感が、和也の温かな存在によって、解き解されていくのを感じていた。
「佐藤様……」
セレナ姫は立ち上がり、和也の前でゆっくりと膝を折った。
「な……セレナ姫!?」
驚く和也に対し、セレナ姫は真っ直ぐな瞳で見つめ返した。
「銀河帝国第一皇女セレナ・アルカディアの名において、宣言いたします。……本日より、我が帝国および帝都アルカディアのすべての技術管理権限、そして『銀河遺産』の全所有権を、貴方様——佐藤和也様へと譲渡いたします」
「権限の全譲渡……!? 俺に、銀河帝国のトップになれって言うんですか!?」
「いいえ」
セレナ姫は可憐な唇に、心からの優しい笑みを浮かべた。
「支配者になってほしいのではありません。貴方様のその『素晴らしいエンジニアの技術』で……壊れてしまったこの銀河系を、もう一度直して(デバッグして)いただきたいのです!」
全銀河の皇女からの、心からの依頼。
和也は息をのんだ後、自らの手を見つめ——不敵で力強い笑みを浮かべた。
「いいでしょう。……その依頼、俺たちアーク・テクノロジーズが引き受けます!」
一人の下請けエンジニアと、銀河帝国の皇女。
手を取り合った二人の決意により、銀河系の歴史上最大となる「全銀河再構築プロジェクト」が、いま爆発的な勢いで動き出そうとしていた。




