第10話:帝都強襲、反乱の姫君(前編)[リメイク版]
オリオン腕の工廠惑星を無力化し、味方につけた数千隻の銀河自動艦隊を従えた探査船『アーク・プロトタイプ』は、次なる大跳躍を敢行した。
光のトンネルを突き抜け、視界がクリアになった瞬間。
ブリッジのメインスクリーンいっぱいに広がったのは、息をのむほど美しく、同時に凄絶な光景だった。
「うわぁぁぁ……! これが……銀河帝国の首都……!?」
コンソールにかじりついたアリスが、感嘆と驚愕の入り混じった声を上げた。
そこは、銀河系の中心領域に位置する超巨大星系【帝都アルカディア】。
三重のダイソン球(恒星を覆う巨大構造体)によって包まれた黄金の人工主星を中心に、無数の軌道都市や宇宙ステーションがリング状に連結されている。かつて一兆人以上の人口を抱え、銀河全体の政治・経済・文明の頂点として君臨していた伝説の帝都だ。
だが——その黄金の光景は、激しい「戦火」によって赤く染まっていた。
ドォォォォォォン……ッ!!
宇宙空間を交差する数千本の光線と、爆発する宇宙戦艦の光芒。
「な……なにこれ!? 争いが起きてるよ! 休眠中じゃなかったの!?」
アリスがキーボードを打ち鳴らし、戦況スキャンを実行した。
『マスター。交戦中の双方の識別信号を補捉しました』
軍服姿のエリスがホログラムで現れ、可憐な表情を引き締めて報告した。
『一方は……旧帝国第4暗黒艦隊の残党および「自律侵食兵器ヴォイド」の連合軍。その数、およそ一万隻! そして、それに応戦しているのは……帝国皇室親衛隊の残存艦隊です!』
「皇室親衛隊……!? 帝国の生存者がいるのか!?」
和也が船長席から身を乗り出した。
画面には、黄金の美しい装飾が施された数本の超大型宇宙戦艦が、群がり襲いかかる黒結晶のヴォイド群によって、包囲され、防衛バリアをジリジリと削られている凄惨な映像が映し出されていた。
『くっ……! 押し切られるな! 帝都アルカディアの「中央管理核心」は絶対に渡してはならん! 全艦、皇女殿下を死守せよ!!』
親衛隊の通信回線から、緊迫した悲鳴のような絶叫が聞こえてくる。
黄金の旗艦『セルリアン』のブリッジ。
激しい被弾の衝撃で天井から火花が散り、警報が鳴り響く中、指揮壇に立っていたのは一人の少女だった。
背中まで伸びた白銀の美しい髪に、気品あふれる皇室の軍装。胸元には銀河帝国の紋章が眩く輝いている。
彼女こそ、数千年前の帝国の崩壊を逃れ、コールドスリープから目覚めて反乱軍と一人戦い続けていた、銀河帝国の第一皇女——【セレナ・アルカディア】だった。
「くっ……反乱派の残党どもめ! ヴォイドの増殖炉を完全起動させ、この帝都のコアを奪うつもりか……! 親衛隊の残存戦力では、もう持ちません……!」
側近の将校が血を流しながら訴えた。
「諦めてはなりません!」
セレナ姫は、その凛とした美しい瞳に強い意志の光を宿し、腰の儀礼剣を固く握りしめた。
「私は帝国最後の血族……! この帝都コアが奪われれば、全銀河の星々が再びヴォイドの恐怖に晒されます! 最後の最後まで……この身が砕けるまで戦い抜きます!!」
だが、現実は残酷だった。
敵のヴォイド級超大型戦艦三隻が、セレナの乗る旗艦『セルリアン』の至近距離まで接近。無数の崩壊粒子砲の砲門が、死の宣告のように向けられた。
『フハハハ! 哀れなセレナ姫よ! 帝国は今日、完全に滅びるのだ!!』
反乱軍の通信が割り込み、嘲笑が響く。
「ここまで……なのですか……」
セレナ姫は悔しさに唇を噛み締め、静かに目を閉じた——その瞬間だった。
ズドォォォォォォン……ッ!!
漆黒の宇宙空間を切り裂いて、圧倒的な威力を誇る「青純白の重力偏光波」の太い光柱が突如として放たれた。
セレナの旗艦を狙っていたヴォイド級超大型戦艦三隻。
それらが、光線に触れた一瞬で分子レベルで砕け散り、跡形もなく消滅したのだ。
「な……なに……!?」
セレナ姫が驚愕して目を見開いた。
戦場に突如として現れたのは——黄金の輝きを放つ、数千隻の整然とした大宇宙艦隊。
そして、その中央で圧倒的な存在感を放つ、一隻の漆黒の探査船『アーク・プロトタイプ』だった。
『全通信回線へ割り込み(割り込み)。……こちら、アーク・テクノロジーズ代表、佐藤和也』
セレナの旗艦のメインモニターに、一人の若い日本人男性の映像が割り込んで投影された。
作業服の袖を捲り上げ、不敵な笑みを浮かべた和也の姿。
「反乱軍の皆さん。俺たちの『銀河遺産(工廠)』から勝手に兵器を持ち出そうとしても無駄だよ。……その戦艦たちの制御コード、全部こっちで書き換えたから」
『な、何だとぉぉぉぉっ!?』
反乱軍の悲鳴が響き渡る。
次の瞬間、反乱軍を包囲するように展開した和也の艦隊から、一斉に青いハッキング波と重力パルスが解き放たれ、一万隻の敵艦隊が一瞬でパニックと沈黙へと陥っていった。
「す……すごすぎる……! たった一隻で、あの一万隻の反乱軍を……!?」
セレナ姫は息をのんだまま、モニターの中の和也を呆然と見つめていた。
冴えないエンジニア佐藤和也の圧倒的な介入劇。
帝都アルカディアを舞台にした、新たな出会いと運命の歯車が動き始めた。




