第9話:銀河の門(ゲート)、開戦の狼煙(前編)[リメイク版]
眩いばかりの空間跳躍の光線が収束し、ブリッジの視界がクリアになった瞬間。
探査船『アーク・プロトタイプ』のメインスクリーン一杯に広範囲に映し出されたのは、地球や太陽系とはまったく異なる、幻想的で異質な星空の光景だった。
背景には、エメラルドグリーンと紫色のガスが渦を巻く美しい「オリオン大星雲」。
そして、その星雲の光を背景にして、目の前に鎮座していたのは——不気味な赤黒い金属の光沢を放つ巨大な人工惑星だった。
「ここが……『オリオン腕・第7星系』……!」
アリスが息をのんで画面を見つめた。
「和也、見て! 惑星の表面全体が機械と工場で埋め尽くされてる! 大気圏の代わりに、幾重もの巨大な防衛リングが惑星を囲んでるよ!」
「古代帝国の叛乱派が築いた、自動兵器工廠惑星……か」
船長席の和也は、目の前の巨体を凝視した。
地球の数倍の規模を誇るその工廠惑星は、かつて将軍ヴォルコフ率いる暗黒艦隊が、銀河系を牛耳るための無制限な自律兵器を量産していた危険極まりない要塞だ。
『マスター。当艦の量子レーダーに、多数の動的反応を捕捉しました』
可憐な軍服姿のエリスがホログラムで可憐な表情を強張らせ、画面上に警告赤マーカーを次々と立ち上げた。
『敵識別ID:【旧帝国暗黒艦隊・第4全自動防衛群】。数が……増え続けています!』
「なっ……何あれ!? 空間からどんどん湧き出てくるよ!?」
アリスが悲鳴を上げた。
工廠惑星の周回リングから、ハニカム状のハッチが一斉に解放され、そこから漆黒の自動無人戦闘艦隊が押し出されるように現れ始めたのだ。
鋭利な短剣のような形状をした小型攻撃艦、巨大な幾何学的フレームを持つ重巡洋艦、そして不気味な赤黒いコアを明滅させるヴォイド級巡洋戦艦。その数、瞬く間に数百隻、数千隻。
宇宙の暗闇を埋め尽くすほどの無人艦隊が、和也たちの乗る『アーク・プロトタイプ』たった一隻を全方位から完璧に包囲していた。
『警告:敵艦隊、高密度の崩壊粒子砲および位相干渉ミサイルの照準を当艦へ固定。……発射まで、あと十秒です』
「たった一隻に対して、数千隻で集中砲火する気!? 容赦なさすぎるよぉ!!」
アリスが頭を抱えて叫んだ。
通常であれば、宇宙戦艦の全艦隊に一隻で囲まれた時点で全滅確定の絶望的な状況だ。地球の現代兵器はもちろん、銀河帝国の標準的な戦艦であっても数秒で蒸発するほどの火力。
だが——和也の瞳には、一切の恐れも怯みもなかった。
「あいつらの攻撃パターン……完全に決まりきった『アルゴリズム』だな」
和也の口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「数千隻あろうが、中身は数千年前の古い自動制御プロトコル(プログラム)だ。……エリス、アリス! 敵艦隊の全通信ノードへ『逆ハッキング(オーバーライド)』を仕掛ける!」
『了解、マスター!』
エリスが可憐な手を高く掲げた。
『当艦の常温核融合リアクター出力を一二〇パーセントへ開放。当機直伝の「銀河標準・量子クラッキング波」を全周波線へ射出します!』
「アリス、敵の旗艦ノードの防御壁の位置を特定してくれ!」
「任せて! ボクの量子ノートPCの演算力を全開にして……あった! 工廠惑星の北極リングにある大容量メインフレーム! あそこが全部の無人艦隊に命令を出してる親機だよ!」
「よし……敵の攻撃が届く前に、親機の制御を書き換える!」
和也の指先が、船長コンソールの鍵盤の上を疾風のごとく駆け抜けた。
かつて札幌の小さな会社で、何万行もの複雑なエラーコードを徹夜でデバッグし続けた和也の超人的な集中力。それが、いまエリスの量子AIと合体し、光速を超える「ハッキング波」となって宇宙空間へ放たれた。
ブツンッ——!!
無人艦隊数千隻が一斉に崩壊粒子砲を発射しようとした、その直前。
包囲していた数千隻の自動戦闘艦の赤黒いメインカメラが一斉に点滅し、青白い光へと書き換わった。
『な……なに……!? 敵艦隊の砲撃が止まった……!?』
アリスが目を見開いた。
画面の中で、和也たちを狙っていた数千隻の無人艦が、ピタリと動きを止め、次々と砲身を収容し始めたのだ。
『システム上書き完了。……敵防衛艦隊の全権限を、マスター『佐藤和也』へと移管しました』
エリスが可憐な胸を張り、誇らしげに報告した。
「す……すごすぎる……! 数千隻の最新鋭宇宙艦隊を、一瞬で自分の味方にしちゃった……!」
アリスが呆然と口を開けた。
「言っただろ。中身がプログラムである以上、俺たちエンジニアの敵じゃない」
和也は不敵に笑い、奪い取った数千隻の無人艦隊を工廠惑星へと向けさせた。
「さて……挨拶代わりに、手に入れた艦隊で工廠惑星の『玄関』をこじ開けてやる!」
味方となった数千隻の艦隊が回頭し、工廠惑星の防衛リングへ向けて一斉に青い重力砲を放ち始めた。
銀河の覇権を賭けた、和也たちの「超技術開戦」の狼煙が、オリオン大星雲の闇の中に高く打ち上げられた。




