第9話:銀河の門(ゲート)、開戦の狼煙(中編)[リメイク版]
ドォォォォォォン……ッ!!
オリオン大星雲の眩い光芒を背景に、無数の重力波光線が交差し、真空の宇宙空間を切り裂いた。
和也が「逆ハッキング」によって一瞬で支配下に収めた数千隻の自動戦闘艦隊。その青く輝く砲門が一斉に放たれ、工廠惑星を覆っていた幾重もの高出力重力バリアを、外側からズタズタに引き裂いていく。
「防衛バリアの第一層、第二層、同時に突破! 外郭の主砲塔を完全に無力化したよ、和也!」
『アーク・プロトタイプ』のブリッジで、アリスが疾走感あふれる笑顔で叫んだ。
画面には、かつて絶対不落と謳われた暗黒工廠惑星の防御陣地が、自分たちの造り出した兵器によって内側から崩壊していく凄絶な光景が映し出されている。
「よし! このまま外郭リングの亀裂を突き抜けて、工廠惑星の中央コアへ突入する!」
和也は船長席で力強く命じた。
『了解。——重力歪曲バリア全開。当艦を先頭に、突入陣形を維持します』
軍服姿のエリスが凛とした声で応じ、可憐な手を掲げる。
乗っ取られた無人艦隊が『アーク・プロトタイプ』を護衛するようにV字陣形を組み、爆炎と光の粒子が舞い散る要塞の亀裂へと突き進んでいった。
工廠惑星の内部。そこは、直径数百キロメートルにおよぶ空洞空間であり、見渡す限り「自動組み立てライン」と「超巨大ドック」が延々と続く無機質な機械の要塞だった。
ラインの上では、地球を滅ぼそうとしていた『ヴォイド』と同型の黒結晶戦艦が、何千、何万隻と並べられ、最終組み上げの時を待っていた。
「な……なにこれ……!? ヴォイドの量産工場……!? こんな数の怪物が宇宙に解き放たれたら、銀河中の星が全部滅んじゃうよ!!」
アリスが恐怖に声を震わせた。
「そうはさせないさ。……俺たちがここに来たのは、そのための『デバッグ』だ」
和也の目が冷たく冴え渡る。
だが、その時だった。
ズズズズズ……ッ!!
工廠惑星の中央ドックから、地鳴りのような重低音と、空間そのものがきしむような強力な重力波が噴出した。
『警告:超高密度の崩壊粒子反応および重力偏光磁場を捕捉! 次元位相の深層から、超巨大目標が接近中……!』
エリスが鋭く告げた。
中央ドックの巨大なハッチが開き、中から静かに姿を現したのは——全長数十キロメートルに及ぶ、黒漆黒の「超巨大戦艦」だった。
これまでに遭遇したどのヴォイドよりも巨大で、凶悪。
船体全体が幾重もの幾何学的結晶で覆われ、中央のブリッジ部には、不気味な赤い巨大眼球のようなコアが禍々しく光り輝いていた。
『ふはははは! 逃がさぬぞ、未開の害虫ども!!』
要塞全体に、かつて火星のホログラムで聞いたあの男——将軍ヴォルコフの増長した合成音声が轟き渡った。
『この超巨大ヴォイド級旗艦【ラグナロク】こそが、我が暗黒艦隊の最高傑作! 貴様らが手に入れた程度のザコ無人艦隊など、我がラグナロクの「主制御波動」一発で再ハッキングし、灰にしてくれるわ!!』
ラグナロクの巨大眼球コアから、赤黒い強力な「制御上書き波」が全方位へと拡散された。
バチバチバチッ……!
「きゃああっ!? 和也、ボクたちが乗っ取った無人艦隊の制御が奪い返されていく……! 相手の量子演算力が桁違いすぎるよ!!」
アリスが悲鳴を上げた。
画面上で、せっかく味方にした数千隻の自動戦闘艦たちが、再び赤黒い光を宿し、和也たちの乗る『アーク・プロトタイプ』へと砲口を向け直し始めていたのだ。
「フハハハ! 観念するがいい! 知識の浅い未開人が、銀河帝国の最高技術に敵うはずがないのだ!!」
ヴォルコフの高笑いが響き渡る。
数千隻の元・味方艦隊と、超巨大戦艦ラグナロク。
完全な前後不覚の絶体絶命の危機。
だが——。
和也は船長席で深く息を吐き出すと、静かに口元を歪め、笑った。
「知識の浅い未開人、か。……よく言われるよ」
和也はポケットから改造スマホを取り出し、コンソールへカチリと接続した。
「だがな、ヴォルコフ。……エンジニア(俺たち)を舐めるな」
和也の瞳に、圧倒的な自信とエンジニアの誇りが宿る。
「お前の自慢のその超巨大旗艦……大きすぎて『セキュリティホール(構造的欠陥)』がガバガバじゃないか」
『何……!?』
ヴォルコフの音声が一瞬固まった。
「巨大なシステムであればあるほど、データ処理の遅延と熱放散のボトルネックが必ず発生する。お前は全無人艦隊を支配するために、ラグナロクの演算リソースの九十パーセントを『外部通信』に割り振っている……そうだろ?」
和也の指先が、光のキーボードの上で神速の連続入力を開始した。
「つまり……ラグナロク自体の『内部セキュリティ』は、今スカスカだ!」
『マスター! 思考同期完了! 相手の通信ポートの間隙へ、当機の量子ナノパケットを直接打ち込みます!』
エリスが可憐な手を掲げ、輝く光の束を射出した。
「アリス! 敵の主制御波の波形を逆位相でぶつけて、通信をショートさせろ!」
「了解っ! ボクの全ハッキングスキル……受けてみろ、古代の悪魔めぇぇぇっ!!」
和也、エリス、アリスの三人のスキルが完璧な一つの「超高度プログラム」となって結晶化し、超巨大戦艦ラグナロクの防衛壁を一瞬で打ち破った。
ズガガガガガガッ……!
『な……なに……!? ボクの……ボクのラグナロクのメインフレームが……!? 制御不能だとぉぉぉ!?』
ヴォルコフの悲鳴が要塞内に響き渡る。
圧倒的なデバッグとハッキングのカタルシス。
銀河の覇権を誇る巨大要塞が、いま、一人の日本のエンジニアの手によって、完全に沈黙しようとしていた。




