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第5話:超技術国家の誕生(中編)[リメイク版]

神威島からの歴史的生配信から、わずか四十八時間後。


神威島の沖合には、海上保安庁の巡視船と海上自衛隊の護衛艦が数隻、警戒ラインを形成するように遊弋ゆうよくしていた。


和也たちが公開した『常温核融合ジェネレーター』の設計データは、全世界で数億回ダウンロードされ、世界中の主要な大学や企業の研究炉で相次いで「再現成功」の報告が上がっていた。もはや「捏造」や「詐欺」と呼ぶ者は一人もおらず、全地球が「エネルギー革命の現実」に震撼していたのだ。


だが、その裏で激化していたのは、創始者である佐藤和也という存在の「争奪戦」だった。


米国の情報機関、中国の国家安全部、欧州の諜報網が、不法に暗殺者や工作員を日本へ送り込もうとしていたが、それらはすべてアリスのサイバー防衛網と、神威島の防衛システムによって影で完膚なきまでに撃退されていた。


そして——ついに、日本政府のトップが動いた。


「まさか……このような場所へお招きいただくことになるとは思ってもみませんでしたよ、佐藤代表」


神威島の地下工廠。鏡のように磨き上げられた会議室で、一人の初老の男性が汗を拭いながら深々と頭を下げた。


男の名は、内閣官房長官を務める桐生きりゅうだ。日本の政権の中枢を担うトップ政治家が、お供のSP数名とともに、一民間ベンチャーに過ぎない和也の前で緊張に身を固めていた。


「遠路はるばるお越しいただき、ありがとうございます、官房長官」


和也は静かに椅子に座り、お茶を差し出した。


和也の隣には、パーカー姿でノートPCを抱えた楠木アリス、そして空中には完璧な実体感をもって可憐に佇むエリスのホログラムがある。SPたちがホログラムの精度に息をのむ中、桐生官房長官は意を決したように身を乗り出した。


「佐藤代表……単刀直入に申し上げます。総理からの指示を受け、私は政府の全権大使として参りました」


桐生はテーブルの上に重々しい書類を差し置いた。


「我が国は現在、アメリカ、中国、そしてEUの覇権国家群から激しい外交圧力を受けております。『常温核融合のコア技術を国際管理下に置け』『佐藤和也の身柄を国際査察団へ引き渡せ』と……。彼らは経済制裁や軍事威嚇すらちらつかせてきているのが現状です」


「予想通りですね」


和也の表情はピクリとも動かない。


「政府としては、俺にどうしろとおっしゃるのですか? アメリカに身柄を渡して、技術を差し出せと?」


「とんでもない!!」


桐生はテーブルを叩く勢いで叫んだ。


「過去の我が国なら……あるいは弱腰になって要求に屈していたかもしれません。かつて我が国の優れた半導体産業や造船業が、海外の圧力によって叩き潰された歴史と同じように! しかし……今回は違います!」


桐生の目に、政治家としての並々ならぬ執念と熱量が宿っていた。


「我が国は長年、資源を持たない弱小国として、海外からの石油やガスに莫大な国富を搾り取られてきました。ですが……君が世界に与えたこの技術は、日本が数千年ぶりに世界の頂点に立つための『神から授けられた奇跡』だ! 我が政府は、アメリカの脅迫にも、中国の威嚇にも屈するつもりはありません!」


「ほう……」


和也は少し意外そうに目を細めた。


「政府の本気度を見せていただけるのですか?」


「もちろんです!」


桐生は胸を張り、提示された書類を開いた。


「内閣直属の国家プロジェクトとして『次世代超技術推進庁』を発足させます。佐藤代表、あなたをその最高技術責任者(CTO)兼・全権大使に任命したい。神威島周辺を『国家特別技術特区』に指定し、防衛省のイージス艦と陸上自衛隊の特別警備隊を配置して、諸外国のいかなる妨害からもあなたを完全ガードします!」


さらに桐生は言った。


「予算は無制限。税制上の優遇措置は極限まで適用。政府はあなた方の指示に従い、日本全体のインフラを『常温核融合ベース』へと一瞬で全面改修します! 我が国を……世界で最初の『エネルギー完全自給自足の超技術国家』へと作り替えるために、力を貸していただきたい!」


官房長官の必死の訴え。


それは、かつて「技術の日本」と呼ばれながらも、失われた三十年で衰退しきっていたこの国の政治家たちが吐き出した、魂の叫びだった。


『……ふむ。未開人の政治屋にしては、見事な腹括りですね』


静観していたエリスが、可憐な唇に不敵な笑みを浮かべて呟いた。


『マスター。彼らの提案に乗るのは合理的です。我々単体でインフラの物理設置を行うよりも、国家の行政組織と警察・軍事力をインフラ(足回り)として利用する方が、銀河標準技術の普及速度は百倍以上に跳ね上がります』


「そうだな」


和也はゆっくりと頷き、桐生官房長官に向かって手を差し出した。


「官房長官。一つだけ条件があります」


「な、なんでしょうか!?」


「俺は政治の泥臭い権力闘争に興味はありません。主導権はどこまでも俺たち『アーク・テクノロジーズ』に置くこと。官僚や利権政治家が途中で口を出して技術を歪めようとした瞬間、俺はこの国を見捨てて撤退します」


「約束します! 開発現場への政治介入は一切許さないと、総理の名において誓いましょう!」


桐生は感極まった様子で、和也の手を両手で固く握りしめた。


その日の夕刻。


首相官邸からの緊急記者会見が、全世界へ向けて同時中継された。


画面に現れた総理大臣と桐生官房長官の隣には、新設された『次世代超技術推進庁』の初代CTOとして、堂々たる佇まいの佐藤和也が並んでいた。


「本日、日本政府は『アーク・テクノロジーズ』との全面的な国家パートナーシップの締結を発表いたします」


総理大臣が力強く宣誓した。


「我が国は本日より、国内のすべての火力発電・原子力発電の廃止プロセスに入り、三年以内に全電力を『常温核融合ジェネレーター』へと全面移行します。さらに、全国の高速道路および主要港湾設備に無償の急速充電・エネルギー供給拠点を整備し、日本の全電力を『タダ同然』で国民および企業へ開放することを宣言します!」


会見場にいた海外メディアの記者たちが、悲鳴のような大声を上げた。


『日本政府は狂ったのか!? アメリカからの経済制裁を覚悟の上か!?』

『電力をタダ同然で供給すれば、世界中の企業が日本へ本社を移転してしまうぞ!!』


混乱する記者たちに対し、和也はマイクを引き寄せ、静かに、しかし世界を平伏させるような鋭い瞳で言い放った。


「制裁をしたければ、ご自由にどうぞ。ですが、我が国がこれから生み出す『超技術』の恩恵を受けられなくなるのは、制裁を科したあなた方の国です」


和也の不敵な宣言。


それは、かつて世界の後塵を拝していた哀れな島国・日本が、地球上で唯一無二の「超技術国家」へと覚醒を遂げた、輝かしい歴史の第一歩だった。

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