さよならを教えて、、 悪い星の下でも、、、
ビビアンは自分の部屋に籠りアレクのことばかり考えていた。
私が悪役令嬢のビビアンならアレクのところに乗り込んでいって、あのモジャモジャ頭を捕まえて、絶対離さないと彼に迫るんでしょうけど、今の私にはそんなことは出来ない。
アレクへの愛を手放さなくてはならない私の心はどうしようもなく苦しい。
今日はアンドレ様の部屋にある私の荷物を侯爵家に戻す日だが、こんなグチャグチャな私の姿をアンドレ様に見られたくないのでロミオに午後からアンドレ様の家にいくよう頼んだが、午前中の兄様の用事で遅くなってしまって屋敷の昼食後にも戻ってこなかったので、仕方なくマリオと一緒にアンドレ様の家に行くことにした。
マリオはロメオと違いアンドレ様の家の中に入ったことがない。
いつも玄関前に荷物を置き公爵家に戻ってしまう。
マリオは私とアレクのことをとても応援しててくれたから多分アンドレ様のことをあまりよく思っていなかったようだ。
ロメオはマリオと違いお兄さんだけあって、大人の事情というのを分かってくれていて、私を応援してくれていた。
アンドレ様の家にも入ってきて、家具の移動を手伝ってくれたり公爵家での出来事などを報告してくれていた。
思えばアンドレ様とはいろいろあったが、彼は私にとって、共に目標に向かい戦う戦友みたいな人だった。
今日が彼との最後の日になるなら、彼が好きな料理でも作って一緒に食べてから別れよう。
私は久しぶりに厨房を覗いた。
彼は元公爵家の人なので、贅沢な食事には慣れていたが、体調のせいもあるが、私が作る比較的シンプルな料理を好んで食べた。
今日は彼が好きだった料理、少し凝ったフランス料理風あっさり仕立ての料理を作ろう。
厨房の料理長にお願いして材料を貰い、山葡萄の酒も小さな瓶にわけてもらった。
彼は受験からすぐ、アカデミーに採用され4月からは念願の研究員になれる。
彼は王宮アカデミーで王国の地質や石などの研究をして、建築資材の開発の仕事をするようだ。
2人で頑張って勝ちとった勝利のお祝いにワインで乾杯しよう。
彼の家に着きベッドなど主だったものをマリオに公爵家に運んでもらい、私の迎えは夕方にしてもらうようマリオにたのんだ。
私が使っていたドレッサーは彼のためのものが注文が間に合わなかったので私の物を使ってもらうことにした。
ガランとした私の部屋を見て、アンドレ様は少し寂しそうだったが、私はさっそく彼の料理を台所で作り始めた。
彼とここで暮らした日々を思うと少し感傷的になってしまったが、最後ぐらい笑顔で別れたい。
食事の支度が出来ると彼はいつものように椅子に座り、テーブルの上の料理を食べた。
「ビビアンの料理を食べるのもこれが最後か、なんだか寂しいな」と彼は私に言ってくれた。
食事が終わると私はとっておきのワインを彼のコップに注ぎ、私のコップにもそそいだ。
綺麗なワインレッドの色を見つめていると急にアレクと2人で山葡萄酒を作った日々を思い出し、私は不覚にも彼の前で泣いてしまった。
アンドレ様は「どうしたんだ、アレクサンダーとは上手くいってないのか」と私に聞いてきた。
私はアンドレ様に苦しい自分の気持ちを話した。
彼のことを忘れたいのに忘れられない、毎日悲しくて生きていくのがつらい、そして、今日だけでもアレクのことを忘れさせて、とアンドレ様に抱きつき頼んだ。
いつまでもアレクにサヨナラが言えない私、アンドレ様に抱いてもらい彼とのサヨナラを教えてほしかった。
私のとても我儘なお願いにアンドレ様は「ビビアンは私と一緒に平民になり暮らしてくれるのか」と聞いてきた。
私はハイ、と彼に答えた。
それから彼は私に「ビビアンはアレクサンダーのことを本当に忘れられるのか、僕と暮らし本当に幸せなのか」と聞かれた。
私にはその問いには答えることが出来なかった。
アンドレ様はその美しい顔を私に近づけて、私の頭を優しく撫でてくれて「今、僕にしてあげられるのは、このくらいのことだ」と言った。
そして、「悪い星の下でもビビアンは輝いていてとてもきれいだ、そのビビアンを汚すようなことは出来ない」言ってくれた。
私はその時アレクを忘れるために アンドレ様を利用しようとしている酷い女だと気づき、自分が恥ずかしくなった。
私の涙がワインの中に溶けて、キラキラ光っていた。
アンドレ様との別れのワインはほろ苦い味がした。
やがて迎えの馬車がやってきた。
ロメオが私を迎えに来てくれた、最後に母の宝石が入った宝石箱を持ち私はアンドレ様に別れを告げてアンドレ様の家を後にした。
ビビアンが去った後、アンドレはビビアンの部屋があった場所に一人いた。
どうしてあの時彼女を引き留めなかったのか、2人でまた一緒に住もうと言って抱きしめれば彼女は私のところにとどまってくれたのに、、、いや、それはだめだろう、彼女の心はまだアレクサンダーにある。
心のない人形のようなビビアンを抱いても、寂しいだけだ。
アンドレは彼女のベッドがあったところを見たら、なぜか彼女の美しい白い裸体の幻覚が浮かんできた。
やはり自分は彼女が欲しかったのかと思ったが、自分は彼女との最初の約束通り最後まで彼女を守ったのだと思い。これでよかったのだと思った。




