地獄の門が開くとき、アレクとの別れ
夢の中で彼は刑務所の小さな独房にいた。
男の手首には何本もの醜い傷がついていた。
ふいに男の顔が私の顔を見た。
その目には絶望,後悔、そして私への憎悪がうずまいていた。
男は私を見て低い声で呟いた「俺を捨てたお前を絶対に許さない、地獄の底まで行ってもお前を必ず連れ戻す」
黒い髪の黒い瞳、直樹君だった。 私は何も言えず、彼の前に立っていた。
そして彼の射るような目から逃げようとしていた。
彼は意を決したように、暗い独房の壁に何度も頭を打ち付けた。
私は声をあげ何度もやめて、と叫んだ。
彼は頭を血だらけにして独房の床に倒れた。 私は彼に駆け寄り、彼をそっと抱いてみた。
彼はだんだん冷たくなり、そして彼の肉体と魂がぐんぐん空に昇って行った。
私も彼について行った。 そして地獄の門の前まで来ると、私の腕を強引に掴んだ。
地獄の門が開いた時、彼は私を連れその門の中入ろうとしていた。
私は彼の腕から逃げ、反対方向に思いきり走った。
その後ろから、彼の苦しそうな私を呼ぶ声が私を追ってきた。
私は夜中に目を覚ました。 体中、汗をかいていた。
私はタオルで汗を拭った。 こんなひどい夢は転生してきてから初めてだ。
それに私の手首には彼に捕まれたような跡がついていてその夢は妙にリアルだ。
私はベッドで体を丸くして震えながら朝が来るのを待っていた。
やがて窓が少し明るくなってきて、ローズがいつものように元気に私の部屋にやってきた。
私はローズに風呂を用意するようたのんだ。
風呂から上がり、肌の手入れをしてドレスを着てローズに髪を結ってもらった。
朝食は食べる気になれず、ローズにお茶を用意してもらった。
心配しているローズに私は昨日の結婚式で張り切りすぎて疲れただけなので、心配しないで、と言い部屋でしばらく休むので一人にしてほしい、とお願いした。
なんだか胸の中が恐怖でいっぱいになり、落ち着かない。
今日、アレクの顔を見たら、少し落ち着くかな、と思っていた。
私が部屋で休んでいると、なんだか屋敷が騒がしい。
その騒がしさはいつもの騒がしさとはまるで違うものだった。
やがて、ローズが私の部屋にやってきて「お嬢様、大変でございます、アンドレ様がお嬢様に合わせろと玄関で騒いでいます。 その様子がとても異常で、、、」私は嫌な予感がして急いで玄関に向かった。
玄関に立っていたアンドレ様はローズが言うように異常な感じだった。
彼はまるで血の気のない顔で、力のない声で「ビビアン、助けてくれ。 僕の体はそのうち、見知らぬ男に乗っ取られてしまう」それだけ言うと彼は、玄関の床に崩れ落ちた。
やはりあれは夢なんかではない。
彼は私を追いかけて来て、アンドレ様の体を乗っ取ろうとしている。
彼は執事と兄様に客室のベッドに運び込まれた。
うわ言のように私の名を呼んでいるようだ。
私は彼のそばについて、彼が目覚めたら彼の身の上に何があったのか、聞いてみようと思った。
しばらくすると、彼の顔に少し血の気が戻ってきた。
額に触ると少し熱い。 私が冷たいタオルを彼の頭に置くと、彼は目を開けた。
そして彼の身に起きて事を話し始めた。
彼は私に貴族学園で会う前日、初めて自分に似た男の夢を見たと、言った。
男はただ自分のことを見下ろしていただけだったが、貴族学園の4年生を担当するようになると、その男は頻繁に彼の夢の中に出てくるようになっようだ。
今まで無言だった男は、小さな声でキョウコ、キョウコと誰かの名を呼んでいるようだった、と私に言った。
彼は前世の私の名を呼んでいた、やはりその男は直樹だ。
彼はこう話しを続けた、私は校長に呼ばれ、来年の王宮アカデミーに推薦状を出してくれるというので、空いてしまった学問のブランクをなくすため、来年に向け猛勉強することに決めた。
私は自分の夢を叶えてくれる侯爵家に感謝してビビアンにも感謝するようになった。
でもそのうち私が勉強を始めると途端、頭が酷く痛くなり、私に似た男が昼でも姿を現すようになった。
その男は日中問わず私の前に現われ、そのたびに頭痛が酷くなり、最近では授業が続けられないようになり学園を休んでいる。
食欲もまるでなくなり、アカデミーに入る勉強も進まない。
度々現れる男は、ビビアンのそばにいれば、頭痛は起きないと言い、自分の言うことを聞けば、悪さはしないと言うが、僕は彼の奴隷になる気はない。
でもこのままではまるで勉強が進まない。
「ビビアン、頼む僕を助けてくれ、僕はそのうち彼にこの体を乗っ取られるか、死ぬことになる」直樹はやはり彼の体に転移をしたいのだ、でもアンドレ様はそれを拒否している。
そしてこんなにもアンドレ様を苦しめている。
私が直樹さんを癒し満足させたら、彼はアンドレ様の体から離れてくれるのだろうか? 彼は成仏してくれるのだろうか?
私は地獄の門の前で私の手を掴んで引き入れようとする、直樹を思い出した。
彼はアンドレ様の体を乗っ取り、私に復讐しようとしているのか?でもそんなことは許さない、私が直樹の暴走を止めてアンドレ様を助けなくてはいけない。
もしここで直樹の暴走を止められなければ、アレクにも被害が及ぶかもしれない。
その時、私は大好きなアレクから離れる決心をしていた。
さよなら、私がこの世界に来て始めた愛した愛しい人。
その日私はアレクとの約束を破り、アンドレ様の屋敷に彼を送って行き、体調の悪そうな彼の世話をすることにした。
そして覚悟を決めて、彼にとりついている直樹が現れるのを待つことにした。




