アレクの過去の亡霊
ビビアンは自分に媚薬を飲ませたラインハルトを怒っていた。
僕も今回のことでビビアンを傷つけた彼に怒りを感じたが同時に自分の過去の出来事に媚薬に負けた自分自信をひどく怒りを感じた。
もう自分の過去の過ちは心の奥にしまって、忘れていたはずなのに今回のことで自分の心に深く影をおとしていた。
ビビアンは王家の媚薬という最上級の媚薬にも負けずに自分を守り、フェルナンドを守った。
それに引き換えこの僕は、、、自分が作った媚薬に負けてしまった。
アレクサンダーは心の奥に押し込めていた苦い体験を思い出した。
アレクサンダーが王宮アカデミーに勤めていた時、兄から「今度公爵家に婿に行くことになったが、昔のことが忘れられない」と相談をうけた。
兄のことが好きだった人は公爵家から兄に縁談があることを知り、自ら離れ子爵家に嫁いでいったが、兄はそのことに深く傷ついていた。
アレクサンダーに「公爵家のたっての願いの婚姻だったので、貴族社会の自分は拒むことが出来ないが、このままでは、自分は公爵家の令嬢を愛することも公爵家に子孫を残すこともできないと思う、どうか彼女を愛することが出来るように媚薬を自分に作ってくれ」と兄は懇願した。
貴族にとり初夜や子孫を残すことは大切だと私も教えられていたが、彼はそんな薬は作れないと一度は断ったが、兄の苦悩を思い一度だけ兄のために媚薬をアカデミーの研究室で作った。
薬は出来たが、治験など到底行われていないので、兄の体に影響がないか、心配だった。
彼は兄の結婚前にそれを渡すことにためらっていた。
その頃彼のアカデミーの受付に子爵家の貴族の令嬢がいた。
彼女は長らく愛していた平民の恋人と家のために別れ、このアカデミーの受付に結婚が決まるまで採用された女性だった。
年齢はアレクサンダーよりかなり年上でアレクサンダーの研究室にも良く出入りしていた。
アレクサンダーは彼女には何も好意を持っていなかったが、彼女は彼に親切だった。
彼が研究室残り遅くまで灯がついていると、よく自分のためにお茶を持って来てくれた。
そんな彼女に新しい結婚が決まりこの職場をあと一週間でやめることになったと研究室の話題になった。
その話の中で彼女と今度結婚する人はかなり年のいった、子供が2人いる伯爵家に嫁ぐようだが、彼女はその結婚を良く思ってなかったが、しぶしぶ婚姻を承諾したようだ、という話があった。
そして、彼女が研究室をやめる3日前にその事件は起きた。
私は研究室に残り兄に渡す媚薬が兄の体に影響を及ぼすのを恐れ、自分の体で試してみたのだ。
瓶に作った薬をすべては飲まず、半分は残しておいた。
媚薬を飲んだ私は薬のせいで悶々としていたが、明日になれば薬も切れてもとにもどうだろう、研究室にあるベッドで早めに休むことにした。
そんな時、研究室に灯がついていたので、私に最後の別れを告げようとお茶をもってきてくれた彼女が研究室に来た。
私がベッドで苦しむ姿に彼女は介護してくれようとしたが、薬の威力は凄まじく私は自分の欲求に勝つことが出来ず、彼女を自分のベッドに引き入れた。
私は初めて女性の体に触れた。
幸い薬は半分しか飲んでいなかったし私も体とはうらはらに好きでもない女性との関係を拒否する心もあったので、最後まではいかなかったが、彼女は初めての私に女性の体のことをいろいろ教えてくれた。
私と彼女は抱き合い朝を迎えたが、彼女は何も言わず私のベッドから起き、着替えをしてさっさと私の研究室から出て行った。
私が彼女を見たのはそれが最後だった。
その日彼女は少し予定を早めアカデミーをやめてしまい結婚したようだ。
私には何とも苦い思い出だけが残ったが、彼女への罪悪感から私はもう女性を愛することは自分には無理だと思っていた。
アカデミーをやめ兄の代わりに伯爵家を継いだ後も、ビビアンに会うまではそう思っていた。
私の渡した薬で兄は、無事公爵家の後継者を産むことができたが、私は貴族社会を憎んだ。
そしてビビアンの貴族社会にとらわれない自由で型破りなところを愛した。
今回のことで話してくれたビビアンの公爵夫人になりたくないとの話を聞き、今回の媚薬の亡霊のせいで、私ははっきりビビアンと私のため、貴族社会と決別したいと思った。
フェルナンドが公爵家に無事に戻ったら、私は自分の伯爵家の領土のことを侯爵家のエドモンド様に相談しようと思った。
そして彼は自分の過去の亡霊のことをビビアンに悩みながら話した。
アレクの媚薬は王宮の宝よりすごいかもしれないね、私の前で飲んでくれたら面白そうでよかったのに、とのビビアンの意外過ぎる言葉にアレクサンダーは驚きを隠せなかった。




