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困った私の道標~海の神さまと、私のぬりかべ~  作者: サトウアラレ
二章

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4 凪視点

パッとスマホを見ると送信主は大地だった。名前を見て開くのをどうしようかとためらってしまったが、もしかしたら『凪、ごめん』『悲しい思いさせて申し訳ない、今迄ありがとう』とかかな。あんな感じだったけど、やっぱりちゃんと最後はきっちりとしたい。


名前をタップするとメッセージが現れた。


『凪、もう、俺ら終わりだろ?なら、俺と四ヵ月前に別れた事にしてくれん?これからは同僚として宜しく。あ、余計な事は言うなよ』


「は?」


これだけ?謝罪も無し。理由も無し。要望だけ。しかもコレ、なに?四ヵ月前って?上原とはずいぶん前から付き合ってることになるってこと?四ヵ月位前から?ふざけるのもいい加減にして。


『さよなら』


私は今迄の大地とのやりとりを綺麗に保存すると、それだけ送り、その内容も保存してブロックした。


なんなの。ちょっとでも期待した私が馬鹿だったけど。「ごめん」とか「悪かった」とか「別れるとか嫌だ」とか、謝罪とか縋りついてくるとかそう言うのがあるかと思ってた。


縋られても嫌だけど、でも、まだこんなメッセージよりは百倍はマシだと思う。


「なんなん、ほんと…」


スマホを置いて、ソファーにもたれかかるとお母さんがお風呂場から戻ってきた。


「凪、何かあったん?」


「うん。元カレからメッセージきた。見る?で、ブロックした」


私がスマホを指さすと、お母さんは「見る、見る」と言ってスマホを私に持たせた。お母さんは私にスマホの画面を開かせた。


「どれどれ」


そう言って私が保存している画面を「見るのは、ここだけね。恥ずかしいから」と言って見せると、「娘のいちゃつくのは、見ないよ」と言って、お母さんはメッセージを見た後に「画面、叩き割りたいっちゃけど」と言った。


「飲まなやってられん。コップ、もう冷えとうよね」


お母さんはすくっと立ち上がると、ビールと日本酒と氷と水と冷えたコップを持ってくると、勢いよくビールを開けて、空の私のコップに氷を入れると水を入れ、「ほら、とにかくクソ男と別れたことに、乾杯」とコップを持ち上げた。


「あ、うん。乾杯」


カチン、と杯を合わせると、お母さんは勢いよくビールを流し込んで、「ぷっはー。よし、少し食べようか。で、凪が話したかったら、話し聞くし、話したくなかったら、ちょっと無理やり聞きたいんやけど」と言ってきた。


「あ、どっちにしても聞きたいんやね」


「そりゃ、母親はそんなもんよ。お父さんには、ぼやかして伝えるけどね」


「お父さんにも伝えるんだ」


「そりゃ、父親やけん。なんだかんだ言っても、知りたいやろうね。ただ、凪も言いたくない事はあるやろうけ、そこは私がぼやかして伝える。だけん、お父さんには、この話はフィクションが含まれますっち言うよ」


「そりゃ、ありがたい」


お母さんと話していると気分は少し落ち着いてきた。


それはお母さんが「は?なんなんコイツ。ピーやろ?。ピーしかないね。ピーして、ピーのピーして流すか」と、規制音が入りそうな言葉連発で文句を言ってくれたからかもしれない。


お母さんは文句を言うのがひと段落着くと、「MVでも、アニメでもドラマでもなんでもいいけど、凪、なんか観たいのある?」と聞いてくれた。


「じゃあ、アニメ見る?」


「分かった。私の好きな声優さんが出とうっち、シマちゃんが教えてくれたのにしよう。凪はオタクにならんやったねえ。お母さんの子ならオタクになるかっち思ったのに」


お母さんは残念そうに言うと、今、流行のアニメを選び出した。


そして二人で、飲んだり(お母さんが主だけど)、食べたり(これもお母さんが主)、愚痴を言ったりしながらアニメを見ているとあっという間に夜になった。


私がお風呂に入り、そしてお母さんはもう少しアニメを見ながらお酒を飲むと言っていると、玄関のインターホンが鳴った。


「誰やかね?」


お母さんが「はーい」と言って、モニターで確認していると、近所に住む、母の友達だった。


「あ、シマちゃん、ちょうどいま、アニメ見よったんよー。一緒に観て飲まん?」と母が玄関に走っていき、何か話して近所に住む、母の友達のシマおばちゃんがキュウリを沢山持って上がってきた。


「凪ちゃん、おじゃまします」


「シマおばさん、いらっしゃい。母が無理やり、すみません」


「シマちゃんちのキュウリって。沢山貰ったけ、さっそく食べようかね。もろキューもろキュー」


母は台所に立って、キュウリを洗い、手頃な大きさに切ると、味噌を持ってきた。


「ゆっくりしていって下さい」


私が歯磨きをして寝ようかなと思っていると、シマおばちゃんとキュウリを食べていたお母さんは、「凪の思った通りにしていいけんね。まだ若いんやけん、おやすみ」と言った。


「分かった。ありがと」


「うん」


「シマちゃん、明日は休み?あ、じゃあ、家に連絡してさ、ここで少し飲むっち言っとき。一緒に飲もー」


賑やかにシマおばちゃんにお母さんは話し掛けると、私を部屋に、しっしと、追いやった。私は、シマおばちゃんにも「お休みなさい」と言うと部屋へ上がり、スマホを一度だけ見たけど、すぐに寝た。



次の日。


お父さんがゆうおじさんの所から帰って来てから、夜、「付き合っている人と別れたけど、そのせいでちょっとトラブルになっている」ことを伝えた。


「おお。そうか。大丈夫か?」


「うん、多分」


そう言うとお父さんは黙って、お母さんを見た。


「詳しい話は私がしとく」と言って、あとはお母さんがうまく伝えてくれた。


そして休み明け、会社に行くと、課長から呼び出された。


「橘。えっとな。まず、上原がずっと騒いでいる」


「騒いでいるってなんですか?」


「すまん。上原がな…、山本が橘との関係は終わった後に上原と付き合っていた。で、橘がヤキモチを焼いて、上原に嫌がらせをしていた、と言って、精神的に参ったと言って休んでいるんだ」


私が何か口を開く前に課長は手で制して、続けた。


「上原は橘は山本にストーカーまがいの事をしているとか言っている…」


「は?」


「分かる、橘の言いたい事は分かる。で、山本に、本当にそのような事だったら大変だから、警察を、って言ったら、大事はしたくないと言っていた。上原も似たような回答で、橘が謝ってくれたら許すと言っている」


「え?どういうことですか」


「本部長は色々行き違いがあったようだが、仕事に支障は出して欲しくない、問題がある社員は異動にした方がいい、と言ってな。上原は今、健康上の問題があるなら、山本か橘を異動した方がいいが、山本は営業で顧客が多い、しかも上原を支えてやってほしいと言っててな。橘も、元交際相手がいる部署は働きにくいだろうから、北九州支店の方に異動するのはどうか、と言っていた。橘の家からだこの福岡支店と距離的には変わらないだろうって」


なんで私が異動?私が謝るって何?ぐっと拳を握って、課長に言った。


「納得できません。なんで私が謝らないといけないんですか?山本は私に嘘をつけというメッセージも送って来てるんですよ?それなのに、私に謝れ?おかしいと思いますが。相手がそんな事を言うなら、私にだって言い返したいですけど」


「…。橘、そのメッセージ、見せて貰えるか?」


「はい。どうぞ」


私は画面を開くと課長に見せた。


「分かった。申し訳ないが、今すぐに、俺一人の力では何も出来ない。でも、俺もこういう異動は間違っているとは思う。橘が、働きにくくなったから、他の支店に希望出すのなら分かる。でも、本部長の言い方と、上原、そして山本の態度はおかしいとは思う」


「課長…」


「俺も娘がいる。まだ、小さいが。もし、娘が橘の様な目にあったら、俺は、許せんと思う」


課長はぐっと眉間に皺を寄せると、静かに怒ってくれた。


「ただし、本部長の言う通り、業務が滞るだろうというのは事実だ。二人がここにいる以上、橘が異動した方が早いのも。俺も本社に掛け合う。佐々木や坂田、池内がこの事で俺に相談してきた。…橘、全然休み取ってなかったよな?」


「はい」


「そうか、二日…今週一杯、有給取ってくれるか?橘がいない方が山本と上原に話しが聞きやすい。橘が休んだと言ったら上原は出てくると思うんだ」


「はい」


「三人とももう一度話を聞く。人事部とも話をする。部長は本部長とは考えが違うはずだ。部長に話をもう一度して、部長を通して本社とも話をする」


「課長、本部長のこと、大丈夫ですか?」


「中間管理職の仕事だ。大丈夫。有休使わせてすまんが、しっかり休んでくれ」


「分かりました。ご迷惑おかけします」


私はそう言い、会社を出た。


会社を出る時に大地が私を見ているのに気付いた。私が大地を見ると慌てて逸らされたが、なんで私がこの時間に帰るのか気になるのだろう。異動の準備で早退したと思うかもしれない。


私は会社を出て、歩きながら考えた。


本部長は、上原を自分のコネで採用して入社させた。だから、その上原問題を起こすと不味い。取引先とも揉めたくない…。福岡支店、北九州支店の異動はよくある。同じ県内という事で、急な人事も珍しくはなかったりもする。


「本部長権限ってこと?九州ブロックだから?本社になにも通してないって事?内内にすませようという魂胆?とにかく穏便に?」


電車に乗って、家に帰る間、どうしようもない、やり場のない怒りが頭の中をぐるぐる回っていた。






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