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困った私の道標~海の神さまと、私のぬりかべ~  作者: サトウアラレ
二章

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7/25

2 凪視点

博多駅から電車に乗って、家に帰る間、私は電車の揺れと同じように気持ちもゆらゆらと揺れていた。会社で起った事が嘘みたいに感じる。本当にあったのかな?私の勘違いじゃないかな?


そんな風に思うが、あれは紛れもなく現実に起った事だから、私はこうやって電車に乗っているんだ。準快速電車で博多から自宅の最寄り駅まで約四十五分。会社から博多駅の間も歩いている間、ずっと考えていた。そして、この四十五分間もずっと考える事になる。


電車からの風景に田んぼが増えだした頃、母からラインが入った。


『今日のごはん、サバ味噌』


画面を見て、ポチポチと返信をする。


『了解、あと三十分で帰る』


そう送るとすぐに、気を付けて、というスタンプが送られてきた。画面を戻すと、大地とのラインが目に入った。


ひらいてみると、最後のラインは一昨日。忙しいから暫く遊べない、と送られてきている。


「証拠、証拠ね」


私は課長に言われた言葉を思い出し、とにかく画面をスクショして、保存する事にした。証拠って、何だろう。SNSの方も開いてみる。嬉しそうに一緒にパンケーキを食べている姿の写真。この時から嘘をついていたのだろうか?大地の事が分からない。


大地のアイコン、そう言えば変わったのは最近だったか。前は二人で買ったカップをアイコンにしていたけど、今はこの間行った、って言ってたライブ会場の看板になっている。


「いつから?」


上原と付き合ってたって?私とは別れてないのに?こんな事になったら、勿論私ももう、別れたと思っているけれど。


大地のSNSを見ていると、昨日の投稿に誰かがハートを押していた。何でもない、チェーン店のコーヒーの新作の写真。でも、よく見ると画面の隅にもう一つドリンクが映っている。なんとなく、誰が押しているか分かった気がした。


「ああ、もう。なんなん。分けわからん」


SNSも閉じて、外の景色を見ると、トンネルに入る所だった。もうすぐ、駅に着く。


これからどうなるんだろう。でも、私は悪い事は何もしていない。だけど、会社に迷惑をかけているのは事実だ。ゴタゴタを起こして、皆に迷惑をかけたんだから、休み明けには謝らないと。


駅に着き、改札口を通って、駐車場に向かっていると、気持ちは少しだけ落ち着いてきた。大地から何も連絡がない。それが答えだと思った。私から言う事は何もない。大地から説明が欲しいけど、大地が連絡をしてこないと言う事は、私に説明する気も、継続する気もないという事なんだろう。


二つ年上の大地は面白くて、優しい先輩だった。仕事を教えてもらって、少しずつ仲良くなって、そして告白されて付き合った。半年後にマンションの更新だから、同棲しようか、って言われていたのにな。


お母さんとお父さんに言う前で良かった。私は家に帰る前にスーパーに寄って、ジュースとアイスを買った。


「ただいま」


「おかえりー」


家に帰ると、母がスマホを触りながらお茶を飲んでいた。洗面に行って、手を洗ってうがいをすると、そこには酷い顔の私が鏡に映っていた。こんな顔して帰って来たのか。私は思い切りバシャバシャと化粧も落とした。色んな気持ちもこうやって綺麗になったらいいのに。


「はー」


休み明けに会社に行くの、気まずい。でも行かないと。


「よりによって相手が上原って…大地、バカすぎる…」


大地は同じフロアの隣の部署。顔をまったく合わせないと言うのは無理だろうな。しかも上原は席は二つ隣。後輩の上原はとにかく問題児。上原を嫌ってる女性職員は多い。


上原は課長も言ったけれど、コネ入社だ。いくら今が令和の時代と言っても多かれ少なかれ、どの会社にもコネ入社はある。


それは「知り合いの優秀な子がいてね」から「ちょっと親戚に頼まれてしまってね。とりあえず、面接だけでも」とか「社長の息子なんだって」まで。どこでも聞く話だと思う。そして上原は「本部長の知り合いの取引先の娘」というコネで入社してきたのだ。実家は裕福で、我が社の重役にも知り合いは多いらしい。それで、新入社員ではあるけれど、常に貴方達と私は違うんです、というスタンスを崩さなかった。


違うのはいいのだけれど、それは凄く悪い方に徹底していた。例えば、同僚の子供が今年受験という話になった時には。


「えー、受験ですかー?そういうの小学校しかしたことないですー。えー、受験とかダルいのに、皆よくしますねー?お子さんも、小学校受験させてあげたらよかったのにー。高校から受験とか、親の怠慢ですか?」とか、平気で言って「自分だったら」「私の家は」「友達は」と自慢なのか、アドバイスなのか本人はただ話したいだけなのかを、ぺらぺらと話す。


「ちゃんとした学校に行かないと」「私の通った学校には、芸能人がいた。友人の一人はどこそこの社長の娘。ちゃんとした友達が出来る」とか、「家にエレベーターが着いてるのは普通だった」とか。なんだかそう言う話をしてくるのだ。


で、「へー」「ふーん」「すごいねー」と皆が合図地を打っても、思った反応じゃないと「ひがまれる」とか「やっかみがすごい」とか「いじめられる」とか男性職員や上司に言うのだ。


「私、なんでか、女性の友達っていなくってぇ。男性との方が上手く話せるんですよねぇ。女性って、群れるっていうか?なんでも一緒みたいな?そういうのが私とは会わないみたいで?あと、妬みが凄いんです」


と、男性職員に話していたが、上原は自分の話は聞いて欲しいが、他人の話は聞きたくない。聞いても、つまらなさそうにする。だから、皆、上原と話すのを止める。


その上「えー。その話、面白くなーい」「え?まじで三十過ぎて彼氏もいないんですかー?それって寂しすぎない?よく平気ですね?」「こんな詰まんない仕事、私がする仕事じゃないと思うんですけどー。もっと、分かりやすい仕事にしてくれませんかー?先輩達って、仕事振るの、下手くそすぎですよね」と言って来るのだ。


仕事も教えてもメモを取る事もしない。文句のオンパレードの上原がメンタルやられた?いやいやいや。

仕事のメモを取ったら、「先輩、今どき、メモ?」と、ぶふーっと笑われた。


「タブレットやPCでもいいよ?でも、ちょっと書いておくとか、メモの方が効率いい時あるから」


「は?だる」


「仕事の覚え方は人それぞれだけど、今から、言う事は、メモ取っておいてね」


と、言っても、メモは取ってくれなかった。


「なんでメモ取らないの?」


「メモとか取ったら、メモを頼って、覚えないんじゃないかって。私は効率よく行きたいんで、仕事は流れで覚えたいんです。あ、先輩はご自由にどうぞ」


そう言われ、最初は、なるほどね、凄いな。確かに自分の頭で考えて覚えた方が、すっと頭に入るかもしれないと思ったが、その後、何回上原に教えても仕事は覚えていなかった。


そして先輩の一人から「ねえ、私達も同じこと、何回も言えない時があるの。メモ取ってくれる?」と言われて渋々メモを取っていたようだが、本当に取ったのかは分からない。その後は、男性社員に何かと聞いていたり、男性社員経由で仕事を訪ねようとしていたからだ。


その上原と大地…、「あの上原が私にメンタルやられた?ありえないでしょ…」もう勘弁してよ。と私はもう一度顔をバシャバシャと洗った。顔を洗顔でひりひりするまで洗っていると、大地の嘘を思いだした。裏切られた悲しさと情けなさ、それでもまだ嘘だったんじゃないかと思いたい気持ちが胸によぎり、胸の中も顔と同じようにひりひりと痛んで、その痛みに手を置き、深く息を吐いたのだった。





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