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困った私の道標~海の神さまと、私のぬりかべ~  作者: サトウアラレ
一章

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3 慎一視点

「ほら。これ」


覗き込んだ写真に写っていたのは、ゆうにいちゃんがしゃがんで帽子を持って、俺の坊主頭をぐりぐりと撫でているような写真だった。幼い俺はゆうにいちゃんの足に抱き着いて、口を結んで、一生懸命に写真の方を見ていた。


「ははは、ゆうにいちゃん、帽子持って、恰好つけちょる」


「恰好つけちょらん、元がいいだけやろが」


そう言いながら、俺が写真を覗いていると、ゆうにいちゃんがグラスを二つ持ってきた。


「まずは乾杯や」


「あ、うん」


「昼やけ、まずは変わったの飲むか。なんか、理恵(りえ)が、シャンパンみたいな日本酒とか言ってな。(よう)さんは飲まんけ、理恵ん所が酒貰ったら、理恵もチューハイとかしか飲まんけ、俺にようくれる。慎一は日本酒は好きやけ、これ、飲んでみようや」


「スパークリングの日本酒?今、こういうの、流行っとうな。ゆうにいちゃん、何貰ったん?澪か?うちの凪が飲みよったが、あれは、甘いで飲みやすい。すいすい飲んでしまう」


「凪坊も、呑み助っちか。今度凪坊も一緒に飲むか、いや、ジジイの相手は嫌か。お、コレは澪っち名前じゃなかったな」


そう言ってゆうにいちゃんが出したのは緑のボトルに青いラベル、七賢(しちけん)と書かれた酒だった。


「コレ、ワインじゃないと?最近は見た目じゃ酒は分からんね」


「やろ?山梨の会社っち書いとうな。あっちは葡萄も有名やけ、こげえ、洒落た感じになるんやろ。冷やしとったけ、飲んでみようや。チーズと豆もあるけ、好きなの食え」


ゆうにいちゃんは小さなグラスに俺と自分の分の酒を注ぐと、用意していたのか、つまみも出してきた。


「乾杯」


「乾杯」


冷たい酒が喉を通ると香りがふわっと立った。


「お、コレ、甘すぎんでいいね。香りがいい」


「ああ、すっと入るな。コレはいいもん、貰ったな」


と、俺達は昼間から飲みだし、ゆう兄ちゃんとうどんを食べ、そして、孫達が遊びに来て一緒に菓子を食べたり、将棋を指したりしていると、あっという間に夜になった。


夜になり母屋に風呂も借り、お茶を飲んだり酒を抜きながら、また酒を飲む。焼きおにぎりと、漬物とみそ汁、それを食べながら、俺達はまた写真を見ていた。


「慎一。お前、四歳の時に迷子になったの、覚えとうか?」


「ん?なんね、ゆうにいちゃん、急に」


「いや、新がな、この間、迷子になり掛けてな。で、この写真見て、お前も迷子になったな、っち思い出したんよ」


「うん。ゆうにいちゃんの友達が、俺を家まで連れて帰ってくれたんやなかったかな。小さかったけど、覚えとうよ」


「……。そうか……」


俺がそう言うと、ゆうにいちゃんは急に考え出した。


「なんね」


「いや、改めて思うとな、不思議やったっち思うんよ」


「不思議っち、なんね?」


「慎一、今から言うのは、酔っとうけやないけな。あのな、俺は、慎一を探しに行きよう時にな、誰か知らん奴に、声掛けられたんや。女の声やったっち思う。でな、そいつが、キュウリ投げろっち、俺に言ったんよ。畑のキュウリをもいでよこせっち。で、俺はその通りにして、慎一を助けてくれっち頼んだんや。で、そいつは消えた」


「は?」


「で、お前は俺の友達っち言われた緑の姉さんと犬に助けられたっち言ったらしい。でな。大家のババ様の言う通り、俺は、河童やないかとずっと思っとう。慎一にもだけ、川とか海とかに感謝せえっち言ったろ?俺は今でも時々キュウリを川に持っていくけどな。」


「俺も、持っていっとう」


俺がそう言うと、少し険しい顔をしていたゆうにいちゃんの表情はふっと柔らかくなった。


「そうか。この辺から河童は昔からおったらしい」


「ゆうにいちゃん、河童っち頭に皿があるやつのことか?本当に俺を守ってくれたのは河童なんやろか?」


「ああ」


「でも、俺、顔は覚えてないけど、姉さんやった気がする。河童は男やないで、女もおるんか?」


「俺もな、あれからちょっと調べた。俺が知っとう河童は、相撲取るとかそんなんやったけな。尻子玉抜くとか、馬を川に引きずり込むとかするとかな。でな、女の河童がおらんか調べたら、おったぞ。なんか本州の方に有名な女の河童の親分がおったらしい。だから女の河童はおるっちことや」


「へえ、河童の女親分」


「お、お前信じてないな?」


「いや、信じとうよ。ただ、不思議な感じがして、自分の事なのになぜかテレビの話とかそんな風に思うんよ」


「まあ、確かに突拍子もない話ではあるけんな」


俺はキュウリの漬物を見て、河童を想像しながらポリポリと食べた。そして、キュウリを見ると、俺もうっすらと思い出してきた。


「あ、そう言えば、俺、キュウリ貰った気がするな」


「河童にか?」


「半分食いかけのキュウリ、俺に分けてくれた。うーん、あと、大きな白い犬に乗ったような…」


「犬に乗れるか?乗るほどでかい犬やったんか?」


「うーん、五十年も前のことやけん。もう、詳しくは覚えとらん。でも、姉さんの手は冷たくて、犬は毛が多い感じがした」


頭をひねったがやはり、ぼんやりとしか思い出せなかった。


「そうか…。やっぱり河童なんやろうな。慎一、お前、河童の姉さんに何かお願いした事あるか?俺はない。あれからお願いごとはしたことないが、時々キュウリは持っていってる」


「うん、お願い事はした事ないな。昔、ゆうにいちゃんから、言われたけ。俺、お願いはしてない」


「うん、ただな、もしかして、なんだけどな。お前が困ったことじゃなくてな、お前の大切な人が困っとんやったらお願いしてみろ。海か川の所で、河童の姉さんか、その白い犬にな。ちゃんとキュウリを持ってな」


「大切な人?」


「ああ、俺な、新が戻って来た時もな、まあ、その時は河童にお願いしてなかったけんどな。キュウリ持ってお礼に行った。俺が声掛けられた場所も、大体しか覚えとらんけどな、そこの川の近くにキュウリを置いてな。で、置いて帰ろうとして振り返ったら、もう、キュウリはなかった。もしかしたらやけど、新も河童の姉さんに助けて貰ったのかもしれん」


「キュウリ、川に落ちたとかやなくて?」


真面目な顔して、話す、ゆうにいちゃんに俺は聞いた。


「ああ。俺もそれ思って、川覗いたけど、キュウリは浮いてなかった。まあ、沈んだ可能性もあるっち思う。で、キュウリ置いた所、見たらな濡れとった」


「濡れとった?」


「そこだけ、雨降ったみたいに、地面が湿とった」


俺は腕を組むと考えた。


「ふうん。不思議な事やけど。とにかく新も帰ってきて良かった。俺も、何か大切な人の事で困ったらお願いしてみる」


「ああ、俺もそう思う。で、お前もな何か良い事があったらな。河童の姉さんと白い犬のおかげかもしれんからな。お礼しとけよ」


「ふむ。分かった」


俺は、頭の隅に凪の事が浮かんだが、何か困るとしたら凪のことだなあ、早速、凪の事を守って下さいとお願いをしてみようかと思って、その日はゆっくりと酒を飲んで寝たのだ。







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