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困った私の道標~海の神さまと、私のぬりかべ~  作者: サトウアラレ
三章

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2 大地視点 

「は?なんだこれ?」


凪と別れ、色んな事がいっぺんに起きて暫く経った。会社に居辛いのに、頑張って仕事に行ってるのに、そんな時に自宅に内相証明郵便が届いた。なんだこれ?と思って読んでみると、凪に対しての嫌がらせ?嘘?法的措置?とか書いてあった。


何でこんなことになったんだよ。頭を抱えていると、上原から電話が掛かってきた。


「ちょっと!大地さん!どういうこと!あの女がなんか手紙とか送ってきてんだけど!親にも色々バレて、本部長にも連絡して、なんかもう、すっごいダルイんだけど!なんでこんな事になってんの?あの女、騒ぎすぎじゃない?」


「俺に言われても」


「は?大地さんの責任でしょ?あの女が異動するか、辞めて終わりじゃないの?なんで私がこんな、怒られてんの?早くどうにかして!」


「とにかく、俺、ちょっと調べてみるから!」


俺がそう言って電話を切り、書いてあった弁護士事務所に電話をして、凪の担当弁護士と言う奴に電話を繋いで貰った。


「あのさ、俺に送られて来たコレ、どういう事?一体なんなの?」


イライラして俺が聞くと、弁護士の藤本という男は淡々と説明をし出した。で、なんだか難しい言葉が出てきたが、損害賠償責任とか、裁判所の仮申し立て?凪の陳述書?会社の照会書?なんだよそれって感じの話だった。裁判って俺、訴えられるのか?


「あのさ。凪がなんて言ったか知らないけど、ただの別れ話のもつれだから。それでこんな裁判とか大袈裟でしょ。あとさ、一緒に上原って女の子にも送ってるんでしょ?その子もショック受けてんの。嫌がらせってさ、凪の方じゃない?何か間違ってるでしょ?」


「いえ、何も間違っておりませんが」


「はー。あのさ、こうやってすれば、金かなんかとれると思ってんの?俺の方が逆に訴えるよ?」


「分かりました。依頼人からは接触禁止、また今迄、嘘の発言や誹謗中傷をされた事について謝罪があればと言われていますが…。もし、そちらが訴えると言うのであれば、こちらも然るべき措置を取らせて頂きます」


担当弁護士の男はそんな風に淡々と返してきた。


「もういい!」


俺は電話を切って、上原に電話した。


「上原、なんかやっぱ、面倒な事になってる。ちょっと出れる?直接会って話した方がいい」


「面倒?マジ、だる。何処で会う?」


「あんま、人が多い所とか不味いだろ。海の中道の方にドライブするか?そこで話せばいいだろ?」


「え。ドライブ?海?いいじゃん、何時?」


「一時間後でいい?帰りは俺の部屋来る?」


「もー。いいよ。家から少し離れた所に止めれる?親煩いから。じゃ、準備して待ってる」


上原はそう言うと機嫌よく上原が電話を切った。


とにかく俺も気分を変えたい。むしゃくしゃしている。不安もある。凪のせいだ、別れ話なんてどこにでもあるのに、凪が大げさにしただけだ。さっとシャワーを浴びて、準備をし、上原を迎えに行くと機嫌よく助手席に乗り込んだ。


二人で海の中道の方へ向かい、そして志賀島に入った。夜は昼の賑やかさが無くなり、静かになる。波の音が聞こえて、不気味な感じがした。駐車場に車を止めて、海の音を聞いていたらなんだか胸騒ぎがした。


「ね。せっかくだからちょっと下りてみよう」


「…ああ」


俺はなんだか嫌な予感がしたが、上原に誘われて砂浜に座った。上原は身体をくっつけてきたが、その間も凪の悪口や、今後の事、会社を辞めようかと思っている事等を話す。


「ねえ、なんかさ。もう、あの人の悪口、SNSとかの書き込もうかな。それか、あの人に成りすまして、すっごい馬鹿な発言をすんの。で、あの人のせいにするとか。そういうのウケない?あの人のアカウント、大地さん知ってるでしょ?あの人の乗っ取れないかなぁ」


「おい、今はとにかくジッとしていた方がいいって。なんか、色々不味い事になってるからさ」


「えー。でも、むしゃくしゃするじゃん!なんで、私がこんな思いしないといけないの?あの人は今頃、なんも心配とかしてないでしょ?弁護士はなんて言ったの?」


「いや、詳しい事はまた今度聞いてみる。まあ、なんかあっても謝ったら終わりって感じかな、上原もさ、とにかく申し訳なさそうにして、『ごめんなさい』って言っとけば終わるって」


「ふーん。でも、謝るの?あの人に?マジ最悪。あの人が消えればいいのに、弁護士とか雇うとか、マジ性格ブス!」


そんな事を言いながらも上原は俺に身体をくっつけていた。


「なあ…車に戻る?部屋に来るか?」


「えー。うふふ、そうしようかな…って、あれ?あそこ、誰かいない?」


急に上原が少し先の波打ち際を指さした。


「あ。本当だ」


一人の女が海の側を歩いている。こんな時間に一人か?まさか?自殺?俺は嫌な予感がしたが、上原は、面白そうに見ているだけだ。


俺は上原の手を引いて立たせると車に戻る事にした。


「ほら、もう帰ろう」


「もう、急に引っ張らないでよ」


チラリと女の人を見ると、海の上を歩いてこっちに来ていた。なんだ?なんだ?幽霊か?


「お、おい。やばいって」


そう言って、歩き出すとゴンっと何かにぶつかってこけた。


「いた!」


上原も頭を押さえている。なんだ?目の前に見えない壁がある。後ろを見ると、潮が満ちて来ていて、女が少しずつ近づいてきている。


「わああ!!!」


少しでも後ろに下がろうとするが、後ろにも、右にも左にも動けない。押しても叩いても、そこに“何か”がある。


焦っていると、海の上を歩いていた女の横の波が急に盛り上がり、ドロリと溶けたような人間の坊主頭が顔を出した。


「きゃああ!!なんなの!!なんなのよ!いやああああ!!!!」


坊主頭が女を抱え、波を起こして俺らの方へと少しずつ近づいて来る。


「止めろ!止めろ!来るな!」


「やめてえええ!!!!」


砂を掛けて必死に逃げようとするがどこにも逃げられない。


「止めろ!!!」


大声でそう言った瞬間。女と坊主はピタっと止まり、海の中へと消えて行った。


「な、なんだったんだ…」


俺は、泣いている上原を立たせ、とにかく急いで逃げようと車に戻った。さっきまで会った見えない壁も無くなっている。


急いで車に戻り、エンジンをかけて車を発車させようとライトを照らすと、フロントガラスに緑色の化け物と、三つ目の大きな白い物が張り付いていた。


「「ぎゃあああああああ!!!!!!」」


思い切り叫び、俺は車を発進させると、次の瞬間、「ドン!!!!!」っと俺は何かにぶつかった。そして気付いた時には俺は病院のベッドの上だった。


後から聞いた話だと、俺は、アクセルを思い切り踏んでしまい、ガードレールにぶつかってしまったらしい。幸い、ガードレールとの距離が短かったので、怪我は首のむち打ちと腕の骨折。上原も頭を打ったが、エアバックが作動したおかげで軽いけがで済んだらしい。


親が車を見てくれたらしいが、親から「後部座席、海藻が凄かったけど、何か買ったの?」と聞かれ、俺は二度と海には近寄らないと思ったのだ。


退院してからの数日は、正直、何も手につかなかった。病院の白い天井を見上げていると、あの夜の光景が何度も頭に浮かぶ。


海の上を歩く女、溶けたような坊主頭、フロントガラスに張り付いた緑色の化け物と三つ目の白い獣。


夢じゃない。


だって、車の後部座席には本当に海藻が残っていた。親が「潮の匂いがすごかった」と言っていた。あんなの、現実に決まってる。


けれど、誰に話しても信じてもらえないだろう。上原でさえ、退院してからはあの夜のことをほとんど口にしなくなった。


最初は「なんか、夢だった気がする」とか言っていた上原だったが「怖い、怖い、三つ目と緑の怪物が夢に出てくる!謝れって!どうしよう!」と電話を掛けてきた。


俺だって忘れられない。忘れられるわけがない。


夜になると、あの三つ目が暗闇の中でじっと俺を見ている気がして、電気を消せなくなった。風呂に入ると、湯船の底から何かが足を掴む気がして、シャワーだけで済ませるようになった。


海の映像を見るだけで、吐き気がする。テレビの天気予報で「波の高さ」という言葉が出るだけで、心臓が跳ねる。


そんな時、部長から急に呼び出された。「異動したいか?」と聞かれたのだ。


俺はそう言われて、すぐに頷いた。


「海の無い所に異動したいです」


そして異動の日。


会社を出る時、ふと背中に視線を感じた。振り返っても誰もいない。けれど、風が吹いて、潮の匂いが一瞬だけした。


海から遠いはずのこの場所で。確かに潮の匂いがした。


俺は震えながら、その場を足早に離れた。もう二度と、あの世界に触れたくない。


そう強く思いながら、俺は海から遠い奈良へと向かった。



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