6 凪視点
翌日、会社に出勤すると早速、柳瀬課長に呼ばれた。
「橘、午後、専務が本社から来ることになった。今回の騒動、専務が動いてくれることになってな。佐々木を中心に、上原の職務怠慢などの証言が沢山出てな…。本部長の推薦のような採用だったが、上原、山本からも話を専務が直接話を聞きたいらしい」
「そうですか。柳瀬課長にも皆にも迷惑をおかけしてすみません」
「いや。迷惑じゃない。佐々木達も凄く考えていたよ。今回の一件でね、俺は俺の部下は皆、良く動くし、思いやりもあるし、そして冷静に仕事も出来ると再確認できた。橘も今迄真面目に一生懸命働いてくれていたからな。有休を使わせたのは申し訳なかったが、少しでもリフレッシュは出来たかな」
「はい。あと、すみません。あの、もし必要なら、私の友人と友人の兄から」
そう言って課長に結海ちゃんと結晴君の名刺を渡した。
「会社がこうやって課長も動いてくれて、私の話も聞いてくれているのは知っています。これは会社に、ではなくて、あの二人に対して私は何かあるとこの二人にお願いをして動くと思います。もしかしたら、会社にも連絡があるかもしれませんので、課長にお渡しをしておきます」
「分かった。ありがとう。君の身を護る為にも、そのことに関しては、相談した方が俺はよいと思う。ただ、会社としては、その時はまた教えてくれるとありがたい。こちらも手助けが出来ると思う」
「はい」
それから、細かい話を課長といくつかして、会議室を出るとアイロンが掛かっていないシャツをきた大地と、イライラした様子の上原が待っていた。
「じゃあ、次。上原、入ってくれるか?」
「…はーい」
面白くなさそうに上原が会議室に入って行った。大地は私を見ると話し掛けようとしたが、周りの目を見て何も言わなかった。ただ、一瞬、凄い目で睨まれた。
午後、専務が本社からやってこられた。専務だけかと思ったら、本社からもう一人、人事部長も来られていた。二人が私達のフロアに専務が入って来た時から、部屋の空気がピリッとした。皆が挨拶をしていくが、専務は「やあ」「うん」「元気そうだね」と返事を返しているが、辺りをすっと見回して誰かを探している様子だった。専務の視線が一瞬だけ私の方に止まった気がして、胸がぎゅっと縮んだ。
「橘、少し時間をいいだろうか。佐々木達も色々聞きたい。佐々木達は橘の後に呼ぶ、準備だけしといてくれ」
「はい」
少しして、私が呼ばれた。専務に人事の人、部長に課長。その前の椅子に座り、朝と似た聞き取りがあった。悪い事は何もしていないけれど、ドキドキして、質問に答えていった。
「では、上原さんが泣きだした時の状況を確認させて貰います」
そう言われ、私は頷いて、説明をした。
「こちらを見て下さい。私の証言が正しいという証拠になると思います。二人からのメッセージです」
私は二人から送られたメッセージのスクショのコピーを提出した。課長が同僚の証言として、佐々木さん達が集めてくれた証拠や他の部署の人の話、具体的な目撃証言等が説明された。
「成程。とても分かりやすい」
証拠が色々と積み重ねられて専務は頷いた。書類を見て専務は一瞬、眉間に皺をよせたが、顔を上げた時にはそんな様子はなかった。
「本部長は橘を異動とお考えの様でしたが、私は橘が希望すればそれはよいと思いますが、本人が希望しないのであれば、うちの課に必要な人材ですし、私は異動しないで貰いたいと思っております」
課長は専務に説明を続けてくれた。
「分かった…。橘君、もし、何か困ったことがあれば、人事部や、顧問弁護士の先生に相談も出来るが」
専務がそう言ってくれたので、私が課長を見ると課長は頷いた。
「有難うございます。私の希望は柳瀬課長の下でこのまま働きたいと思っています。同僚にも迷惑を掛けましたが、大変働きやすい職場です。このような面倒をお掛け致しましたが、どうか、宜しくお願い致します」
「うん、分かったよ」
結海ちゃん達の話を敢えて出さないでおくと、課長はもう一度頷いた。そして私が会議室を出ると、また朝と同じように、上原と大地も呼ばれたようだったが、私が佐々木さん達と話していると、上原の叫び声が聞こえた。
「はああ?なんでよ!!!!」
その後、何か倒れる音がして、そしてバタン!とドアの音がすると上原が会議室から出てきた。そして、自分のバッグを掴むとさっと会社から出て行った。
「…今のなんなの?」
「さあ…」
「怖…」
それから佐々木さん達も呼ばれ、部長から、「色々と騒がせているが、問題ない」と短い話があり、課長から私達はもう一度話があると定時になった。
帰ろうかと思っていると、課長から「仕事終わりにすまない」と呼び止められた。
「いえ」
「一応、先程の名刺の二人に俺から挨拶の電話だけさせて貰った。必要であればと、俺の電話も伝えている。あと、結海さんの方から、結晴さんに会社に挨拶に来させると言っていたので、今日、少し待って貰っていいか?」
「え。結晴君が?」
「ああ。事務所が近くなんだな。橘に何かあったら危ないと、今日は一緒に帰宅するそうだ。なるべく一人にならないように、会社で待っていて欲しいと言われた。その時に俺は挨拶をさせて貰おうと思う」
「はい」
結海ちゃんも心配性だが、早速、結晴君にも迷惑をかけるなんて。そう思っていると、三十分ほどで、結晴君はやってきて、課長と改めて挨拶をし、そして私は結晴君と一緒に駅へと向かったのだった。
「会社の方は上手く動いてくれそうだね」
「結晴君、ごめんね。仕事、良かったの?」
「うん。今日は後は、大丈夫だから。偶には早く帰る事もいいからね」
「ありがとう」
「課長さん、良い人だね。会社でのこういうトラブルは、結構あるんだ。対応の仕方は凄く分かれるけどね。よくあるのは、個人間の問題だから、で、会社はあまり入らない。なあなあで、なかった事にする、か。で、浮気や不倫をする人達ってね、よく業務中にする事も多いんだ。だから会社も動かざる得なくなる。事が大きくなって、会社の方にも損害があると知って、解雇とか処分が下るの事もある。こんなに早く動くのは凄く珍しいよ。もしかしたらだけど、監査が入るとかタイミングが重なったのかもしれないね。そういう時はすぐに動いたりするから」
「タイミング…」
「うん、奇跡的に色々上手くいった感じがするよ」
「奇跡…」
「まあ、良い方向に行くように僕も手伝うから。それにしても、問題の二人に関して、ポロポロ証拠が出たようだよ」
「本当?」
「うん。課長さんから話しを聞くと、状況証拠も、物的証拠も色々あったみたいだね。証拠として大きかったのがね、凪ちゃんや他の人の証言ではなくてね、会議室の様子を録画していたらしく、そこに二人の浮気現場が偶然映っていたらしい」
「録画?私はそんな設定はPCにしていなかったけど…」
「うん。新人の研修生が誤って、会議室全体の録画ボタンってあるよね?会議の様子を録画するための。それを予約時間を間違えて設定してしまってたみたいなんだ。だから、会議の様子を確認しようと録画を見直したところ、二人の様子がバッチリ映って、凪ちゃんが入ってからの様子も全部映っていたみたいだよ。まあ、その映像には色々問題発言もあったようだ。慌てて部長さんが確認して、今回の証拠になったようだ。もう、他にも専務が本部長の人事に疑問を持っていたりね、不思議と色んな証拠がタイミングよく出てきたと。運がよかったと、課長さんも言ってたよ」
「そうなんだ…」
「あとは二人に接近禁止を含めた、色々な書類を作成しようか。準備しておこう。慰謝料とかはいいんだよね?」
「うん、お金はいい。接触を一切絶ってくれたら」
「分かった。そっちの方で動くよ」
「うん。結晴君、あの、ちゃんと契約を私と結んで下さい」
「うん、分った。明日でも、凪ちゃん、昼休みにうちの事務所これる?俺が言ってもいいけど」
「明日行きます」
「うん。一応ね。事務所に来てくれた方がいいかな」
それから、私は何事もなく、家へと戻ったのだ。




