5 凪視点
結海ちゃんとその後、近くの大型商業施設に行く事にした。
「凪、映画、見る?いや、ぶらぶらでもいいし、なんか食べる?餅しか食べてないもんね」
結海ちゃんに誘われて、ショッピングセンターの中の本屋さんに行き、ペットショップを覗き、雑貨を見て、ゲームセンターへと行ってフードコートでたこ焼きを食べた。
「あ。晴から。ちょっと待ってね、もしもーし、なん?」
アイスを食べようか、クレープを食べようかと結海ちゃんが悩んでいると結晴君から電話がかかってきたのだ。
私はフードコートの店を眺めつつ、クレープもいいけど、たこ焼きを食べたからタピオカでも飲もうかな、と思っていると結海ちゃんが私の方をちらっと見てから何か喋って電話を切った。
「凪、今食べるのちょっとストップ。あと三十分したら、晴が来るけ、やつに奢らせよう」
「え?結晴君が?」
「うん、今日仕事終わり直帰になったんて。で、私がさっき、宮地嶽の梟のおみくじあったやん?モマみくじ。あれを写真撮って、晴に送ったら、近くにいるからて電話してきた。だから早く来いって言ったから、一階のスタバと、何処か話せるお店か。でもフードコートの方が楽かな。クレープとドリンク買わせるか、ドーナッツ買わせるか、アイス買わせるかして話し聞いて貰おう」
買わせるのは結海ちゃんの中で決定事項の様で、私達は結晴君を待つ間に新作の映画情報を見たりした。
『フードコート着いた』
結海ちゃんにメッセージが入ると、そこはスーツを着た結晴君が私達を探していた。
「晴、こっちー」
「海、凪ちゃん」
眼鏡をかけて優しそうに微笑む結晴君は三十歳のはずだけど、私達に向ける笑顔はとても優しかった。
「結晴君、久しぶり」
「うん、凪ちゃん、なんか大変って聞いたけど?海、なんだ?」
「飲み物とか買って来る。晴、スマホか財布」
「はー。コーヒー」
「了解。晴はコーヒー、凪は適当でいい?」
「あ。うん」
財布を受け取ると結海ちゃんは「クレープ、ドーナッツ、アイスー」と言って椅子を縫いながら足早に店の方へと消えて行った。それを見て「騒がしい奴だなあ」と言いながら結晴君はノートパソコンを出すと、起動した。
「凪ちゃん、で?僕に相談って海が言ってたけど。せっかくだからメモを取らせて貰ってもいいかな?今後、もし何かあったら何度も聞かなくてすむからね」
「うん、あの、ちゃんと相談料とか払うのでお願いします」
「いや、凪ちゃん、初回相談は無料で大丈夫。まずは受けれるかどうかだから、そこは心配しないで。で、ゆっくりでいいから、ちゃんと話して」
「う、うん。実は…」
そこで、今までの会社と元カレと後輩との事、同僚達からの情報をスマホを見せながら説明した。
「うん、分かった。では、凪ちゃんの気持ちを教えて。凪ちゃんはどう動きたい?何が一番辛かった?この二人に対してなのか、会社に対して動くのか、それとも両方か。民事か刑事か。慰謝料請求するのか…。ごめんね、一気に聞いても難しいかな。ただね、何処迄戦う覚悟があるか、確認したい。裁判とか、話し合いの場って凄く疲れる。消耗すると思う。時間もかかる。お金もね。それは戻ってくるかもしれないけど、割が合わないと思う人も多くいるんだ。だから、凪ちゃんがどうしたいのかをね、僕は知りたい」
私は紋吉がいたポケットを撫でると結晴君を真っすぐに見た。
「会社にはちゃんとした対応を求めたい。しっかり調べてくれるのなら、私は文句はない。異動も正式にあることなら私は文句はない。だけど、罰のような形で私が行くのなら、私は抗議したい。二人については嘘は言わないでほしい。あと、もう二度と会いたくない。慰謝料は今の所考えていない」
「分かった。じゃあ、僕の名刺を渡しておくね。で、そうだなあ。会社にも顧問弁護士とかいると思うんだよね。凪ちゃんの会社の名前と住所、電話番号教えてくれる?」
「はい」
「うんうん、大丈夫だからね。不安だったね。同僚の人達も理解あるみたいだから、凪ちゃんは一人で抱え込まなくていいよ」
結晴君からそういわれて、私は泣きそうになった。小学校一年生の時に結海ちゃんは風邪で早退して、一人で小学校から帰る事になって、寂しくてトボトボ帰っていたら、自転車に乗った中学生の結晴君が通り掛かって、ランドセルを籠に入れてくれたんだ。
「結海は?早退?風邪?バカはなんとかっち言うけど、アイツ、昨日、お風呂上りに服着ないで走り回っていたからなあ。凪ちゃんもしっかり服着なきゃだめだよ?」とゆっくりと自転車を押しながら『どんぐりころころ』を一緒に歌ってくれながら帰ったんだ。
急にそんな事をばーっと思い出して泣きそうになっていると、結晴君が「凪ちゃん…」とオロオロしてしまった。
「ごめん、結晴君、なんだか、無理してたみたい。急に色んな事が起こって。結海ちゃんが助けてくれて、でも、緊張してたのかな。会社に休み明けに行くのが怖くなってて。なんて言おう、とか、何か言われるのかなとか」
「大丈夫、何か言われたらこの名刺見せていいから。で、俺に電話するように言って。ね。大丈夫だから」
「うん、ありがとう」
優しくそう言われて私はどうにか涙を流さずに済んだ。それからも何点か結晴君に質問され、確認をされノートパソコンにカタカタと打ち込むと、パタンと閉じた。
「凪ちゃん、頑張ったね。ちゃんと相談出来るって言うのは良い事だよ。おそらく、会社が動いてくれているのなら、俺の仕事は少ないと思う。さあ、甘い物食べようか。騒がしい奴が帰ってきた」
眼鏡をくいっとあげて私の後ろを結晴君が指さすと、クレープにアイス、ドーナッツの紙袋にタピオカのジュースと、沢山抱えた結海ちゃんがにこにこしながら歩いて来ていた。




