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困った私の道標~海の神さまと、私のぬりかべ~  作者: サトウアラレ
三章

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20/25

4 凪視点

宮地嶽神社。光の道と某有名アイドルのCMで一気に有名になったのだが、昔から地元では人気の神社だ。


「私も何回か来た事ある。結海ちゃんは?」


「私もあるな。猿回し見た。今もあるのかな?」


広い駐車場に車を止め、ぐるりと回って大きな鳥居に歩くと、お店が両端に連なっていた。平日はお客さんんが少ないせいか店は半分程しまっていた。


「あ。松ヶ枝餅(まつがえもち)って。食べよう」


「大宰府の梅ヶ枝餅(うめがえもち)と似とう」


私がそう言うと、結海ちゃんがスマホを見せながら頷いた。


「うん、似とうけど。でも、大宰府の方が有名。で、梅ヶ枝餅(うめがえもち)は二百年の歴史があるみたい」


「へー。二百年凄いね」


「で、松ヶ枝餅(まつがえもち)は宮地嶽神社の氏子が神様に捧げるのが始まりとされたみたいね。宮地嶽神社の歴史は千七百年くらい前から。ネット情報だけど、宮地嶽の松ヶ枝餅(まつがえもち)は平安時代には売られていたとかなんとか。平安時代ってちなみに今から千二百年から八百年前。だから先年以上前にはこの松ヶ枝餅(まつがえもち)の原型はあったんだね」


「え。松ヶ枝餅(まつがえもち)の方が先なんだ!千年。すごい、一気にこの餅にロマンを感じた」


私が驚いていると結海ちゃんは「ロマンを感じて食べようか?」と開いているお店を二軒選び、それぞれ餅を二個ずつ買った。


「食べ比べしたいよね。味も違うし。ヨモギ、ゴマ、白、桜餅…凪、どれがいい?」


「私、ヨモギ」


「じゃあ、私、桜餅、もう一つは?」


「えーと。ゴマ」


「いいよ。はい」


私がゴマとヨモギを貰って松ヶ枝餅(まつがえもち)を食べた。


「熱い。あんこ沢山」


「うん、おいしいね。でも、飲み物も買えば良かった」


「あ、自販機あるよ」


自動販売機で紅茶とコーヒーを買ってそれぞれ飲む。緑茶を選ばないのが私達らしい。


「あー、美味しい」


「よし、では行きますかね」


「この階段か…結構上るね。宗像大社の奥の階段もまあまあ、あったけど。明日、足、筋肉痛になりそうな」


「凪、普段、運動しないからそんな事言うんよ。ここから見える景色が光の道って。海の方まで一直線のね。さ、階段、登るよ」


結海ちゃんがさっさと階段を上がっていった。どんどん上って一番上までくると、結海ちゃんが振り返った。


「おお、凪、本当に真っすぐだ」


「ええ。ちょっと待って…」


運動不足の私には結海ちゃんのペースで上がるのはキツイ。ひいひい言って上り同じように振り返ると、そこは階段、鳥居、海、と一直線に走る道があった。


「わあ、本当、凄いね…。これが光の道になるんやね」


「光の道は毎年、二月と十月に見られるんだって。夕日が参道を一直線に照らすのが光の道だって」


スマホで調べながら結海ちゃんが教えてくれる。


「そっか。じゃあ、今日は見れないね」


「まあね、じゃ、お参りに行こう」


「うん」


結海ちゃんと光の道を背にして、私達は本殿の方へと向かった。途中、日本一の鈴と、日本一の太鼓を見て、そして、本殿には日本一のしめ縄がでーんと目に入った。


「大きな物ばかり…」


「それだけ裕福な氏子が沢山いたってことやろ、さ、お参りしよ」


「うん」


結海ちゃんと本殿で手を合わせた瞬間、また、ポケットの紋吉が震えた。


息長(おきなが)足比売命(たらしひめのみこと)様、どうか私のぬりかべの紋吉を元気にするのに、力を貸して頂けませんか?宗像大社の市杵島姫神(いちきしまひめのかみ)様から、こちらに来るようにと言われました。どうか、ぬりかべの紋吉に私の力を分けて下さい』


そうお願いをすると、ふわっと頭を風が撫でた。


目を開け、結海ちゃんを見ると、「奥の宮があるって。そっちも行こう」と言われた。奥の宮には一番社から八番社まであり、『一社一社をお参りすれば大願がかなう』らしい。


奥の宮の方に向かうと奥はちょっとした公園の様に広かった、大きな池もあり、季節によって花も楽しめるらしい。


「一番奥の三番社は古墳だって」


「一番奥なのに三番なんだ?順番は?」


「一番社、七福神社(しちふくじんじゃ)二番社、稲荷神社(いなりじんじゃ)三番社、不動神社(ふどうじんじゃ) 四番社、万地蔵尊(まんじぞうそん)五番社、恋の宮(こいのみや)六番社、三宝荒神(さんぽうこうじん)七番社、水神社(すいじんじゃ)八番社、薬師神社(やくしじんじゃ)。順番通りにお参りしようか」


「分かった」


私達はキョロキョロしながら順番を間違えないようにと、参拝をして行った。一番奥にある三番社は古墳と言うのは本当で、横にあるとか、古墳跡とかではなくて本当に洞窟のような古墳に入っていき、そこで手を合わせたのだ。


凄く不思議な感覚で、紋吉も社を一つずつ巡っていくとその都度震えていた。そして八番社で手を合わせて目を開けた瞬間、ポケットの中の紋吉がふっと消えたのが分かった。


え?いなくなった?消えた?八番社を出て、辺りを見回しポケットを触るが紋吉が側にいる感じがしない。


「凪?」


結海ちゃんが心配そうにしているが、紋吉がどうなってしまったのか、私は気になって仕様が無かった。紋吉は消えてしまったの?私がパッとポケットを触ると耳元で声が聞こえた。


『宗像の三姫様からの頼みならば、わらわも断れぬ。可愛い海の子は力を戻し、戻ったぞ。正しき道、正しき距離、正しい理に戻るがよい』


ハッと顔を上げると、うっすらと影が見え、すっと本殿の方へと消えた。


「結海ちゃん、紋吉、元気になったって」


「そっか。良かったやん」


「うん、で、戻ったんだって」


もう、会えないのかな。海に戻ったって。元気になって良かった。でも、会えなくなってしまうとは思わなかった。「モン」って元気に言って、キュウリを喜んで食べると思っていたけれど。


「凪、それでよかったんよ」


「うん、分かってる」


私達は帰りに梟のおみくじを引いた。かわいい梟の形をしたおみくじだった。


おみくじには『大吉』と書いてあった。


願い事:のぞみのままです。人の言葉に迷うな。


「私、中吉、商売(あきない)、悪くないね。よしよし。賭け事…の欄はないのか。まあ、良し。凪は?」


「大吉」


「よかったやん」


「うん」


階段を降りながら、私はそっと胸に手を当てた。風が吹くたびに、さっきの影の気配がまだ残っているような気がして、それが不思議と怖くはなかった。


むしろ、優しく背中を押されているような、そんな感覚だった。


「凪、帰りに何か食べて帰ろうよ。せっかく来たんやし」


結海ちゃんが明るく言う。

その声に救われるように私は笑った。


「うん。なんか温かいもの食べたい」


「じゃあ、あそこの海鮮丼の店行く?前に晴と来た時、美味しかったよ」


「いいね。行こう」


歩きながら、私はポケットをそっと触った。もう何も入っていない。でも、そこに紋吉がいた時間は確かにあって、その温もりだけが、まだ指先に残っている気がした。


紋吉は元気になった。海に戻れた。そして私は大吉を引けた。良い事だらけ。なのに、ちょっと胸の中はぽっかりと穴が開いたように寂しく感じた。



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