4 凪視点
宮地嶽神社。光の道と某有名アイドルのCMで一気に有名になったのだが、昔から地元では人気の神社だ。
「私も何回か来た事ある。結海ちゃんは?」
「私もあるな。猿回し見た。今もあるのかな?」
広い駐車場に車を止め、ぐるりと回って大きな鳥居に歩くと、お店が両端に連なっていた。平日はお客さんんが少ないせいか店は半分程しまっていた。
「あ。松ヶ枝餅って。食べよう」
「大宰府の梅ヶ枝餅と似とう」
私がそう言うと、結海ちゃんがスマホを見せながら頷いた。
「うん、似とうけど。でも、大宰府の方が有名。で、梅ヶ枝餅は二百年の歴史があるみたい」
「へー。二百年凄いね」
「で、松ヶ枝餅は宮地嶽神社の氏子が神様に捧げるのが始まりとされたみたいね。宮地嶽神社の歴史は千七百年くらい前から。ネット情報だけど、宮地嶽の松ヶ枝餅は平安時代には売られていたとかなんとか。平安時代ってちなみに今から千二百年から八百年前。だから先年以上前にはこの松ヶ枝餅の原型はあったんだね」
「え。松ヶ枝餅の方が先なんだ!千年。すごい、一気にこの餅にロマンを感じた」
私が驚いていると結海ちゃんは「ロマンを感じて食べようか?」と開いているお店を二軒選び、それぞれ餅を二個ずつ買った。
「食べ比べしたいよね。味も違うし。ヨモギ、ゴマ、白、桜餅…凪、どれがいい?」
「私、ヨモギ」
「じゃあ、私、桜餅、もう一つは?」
「えーと。ゴマ」
「いいよ。はい」
私がゴマとヨモギを貰って松ヶ枝餅を食べた。
「熱い。あんこ沢山」
「うん、おいしいね。でも、飲み物も買えば良かった」
「あ、自販機あるよ」
自動販売機で紅茶とコーヒーを買ってそれぞれ飲む。緑茶を選ばないのが私達らしい。
「あー、美味しい」
「よし、では行きますかね」
「この階段か…結構上るね。宗像大社の奥の階段もまあまあ、あったけど。明日、足、筋肉痛になりそうな」
「凪、普段、運動しないからそんな事言うんよ。ここから見える景色が光の道って。海の方まで一直線のね。さ、階段、登るよ」
結海ちゃんがさっさと階段を上がっていった。どんどん上って一番上までくると、結海ちゃんが振り返った。
「おお、凪、本当に真っすぐだ」
「ええ。ちょっと待って…」
運動不足の私には結海ちゃんのペースで上がるのはキツイ。ひいひい言って上り同じように振り返ると、そこは階段、鳥居、海、と一直線に走る道があった。
「わあ、本当、凄いね…。これが光の道になるんやね」
「光の道は毎年、二月と十月に見られるんだって。夕日が参道を一直線に照らすのが光の道だって」
スマホで調べながら結海ちゃんが教えてくれる。
「そっか。じゃあ、今日は見れないね」
「まあね、じゃ、お参りに行こう」
「うん」
結海ちゃんと光の道を背にして、私達は本殿の方へと向かった。途中、日本一の鈴と、日本一の太鼓を見て、そして、本殿には日本一のしめ縄がでーんと目に入った。
「大きな物ばかり…」
「それだけ裕福な氏子が沢山いたってことやろ、さ、お参りしよ」
「うん」
結海ちゃんと本殿で手を合わせた瞬間、また、ポケットの紋吉が震えた。
『息長足比売命様、どうか私のぬりかべの紋吉を元気にするのに、力を貸して頂けませんか?宗像大社の市杵島姫神様から、こちらに来るようにと言われました。どうか、ぬりかべの紋吉に私の力を分けて下さい』
そうお願いをすると、ふわっと頭を風が撫でた。
目を開け、結海ちゃんを見ると、「奥の宮があるって。そっちも行こう」と言われた。奥の宮には一番社から八番社まであり、『一社一社をお参りすれば大願がかなう』らしい。
奥の宮の方に向かうと奥はちょっとした公園の様に広かった、大きな池もあり、季節によって花も楽しめるらしい。
「一番奥の三番社は古墳だって」
「一番奥なのに三番なんだ?順番は?」
「一番社、七福神社二番社、稲荷神社三番社、不動神社 四番社、万地蔵尊五番社、恋の宮六番社、三宝荒神七番社、水神社八番社、薬師神社。順番通りにお参りしようか」
「分かった」
私達はキョロキョロしながら順番を間違えないようにと、参拝をして行った。一番奥にある三番社は古墳と言うのは本当で、横にあるとか、古墳跡とかではなくて本当に洞窟のような古墳に入っていき、そこで手を合わせたのだ。
凄く不思議な感覚で、紋吉も社を一つずつ巡っていくとその都度震えていた。そして八番社で手を合わせて目を開けた瞬間、ポケットの中の紋吉がふっと消えたのが分かった。
え?いなくなった?消えた?八番社を出て、辺りを見回しポケットを触るが紋吉が側にいる感じがしない。
「凪?」
結海ちゃんが心配そうにしているが、紋吉がどうなってしまったのか、私は気になって仕様が無かった。紋吉は消えてしまったの?私がパッとポケットを触ると耳元で声が聞こえた。
『宗像の三姫様からの頼みならば、わらわも断れぬ。可愛い海の子は力を戻し、戻ったぞ。正しき道、正しき距離、正しい理に戻るがよい』
ハッと顔を上げると、うっすらと影が見え、すっと本殿の方へと消えた。
「結海ちゃん、紋吉、元気になったって」
「そっか。良かったやん」
「うん、で、戻ったんだって」
もう、会えないのかな。海に戻ったって。元気になって良かった。でも、会えなくなってしまうとは思わなかった。「モン」って元気に言って、キュウリを喜んで食べると思っていたけれど。
「凪、それでよかったんよ」
「うん、分かってる」
私達は帰りに梟のおみくじを引いた。かわいい梟の形をしたおみくじだった。
おみくじには『大吉』と書いてあった。
願い事:のぞみのままです。人の言葉に迷うな。
「私、中吉、商売、悪くないね。よしよし。賭け事…の欄はないのか。まあ、良し。凪は?」
「大吉」
「よかったやん」
「うん」
階段を降りながら、私はそっと胸に手を当てた。風が吹くたびに、さっきの影の気配がまだ残っているような気がして、それが不思議と怖くはなかった。
むしろ、優しく背中を押されているような、そんな感覚だった。
「凪、帰りに何か食べて帰ろうよ。せっかく来たんやし」
結海ちゃんが明るく言う。
その声に救われるように私は笑った。
「うん。なんか温かいもの食べたい」
「じゃあ、あそこの海鮮丼の店行く?前に晴と来た時、美味しかったよ」
「いいね。行こう」
歩きながら、私はポケットをそっと触った。もう何も入っていない。でも、そこに紋吉がいた時間は確かにあって、その温もりだけが、まだ指先に残っている気がした。
紋吉は元気になった。海に戻れた。そして私は大吉を引けた。良い事だらけ。なのに、ちょっと胸の中はぽっかりと穴が開いたように寂しく感じた。




