2 凪視点
宗像大社に着くと、大きな鳥居が出迎えてくれた。久しぶりに訪れた宗像大社は昔の記憶とは少し違って、色々と綺麗になっていた。
「少し前に休憩スペース?も出来たって。カフェかな?」
「へえ、観光バスも沢山とまってるね。流石世界遺産」
私達は駐車場を歩きながら話し、大きな一の鳥居の前で一礼をし、境内に入った。広い境内には橋が架かって、池もあり、そこの太鼓橋では渡りながら心を整えるらしい。私は紋吉の事を考えながら、静かに心を整えていった。
「で、凪は、モヤモヤした気持ちがあったから、宗像大社に来たかったっちこと?」
鯉に餌をあげている親子連れを見ていると結海ちゃんが聞いてきた。鯉は勢いよく餌に飛びつき、その様子を外国人の観光客の人達がスマホで撮影をしていた。
ポケットの上を触ると、バックから移動したのか紋吉の感触がした。こんなに小さいのに私を守ろうとしてくれた優しいぬりかべ。
「うん。それも、あるけど…」
「まだ何か悩みが?」
これから三姫様の所に紋の事をお願いするのに、結海ちゃんに嘘をついていくのはいけないことかもしれない。私は辺りを見回し、池から少し離れた所に結海ちゃんを引っ張って連れてくると、ポケットに手を入れて紋吉を掴み、結海ちゃんの前に出してみた。
「凪?」
「結海ちゃん、あのね、コレ、視える?」
「ん?」
結海ちゃんは、何を言ってるんだ?うん?手のひら?と一生懸命見ては考えているが、その様子から、紋吉の事は視えてないようだ。もし視えてくれたら、話は早かったが紋吉が見えないのならしようがない。
「モン」
紋は困った様に鳴いたが、その声も結海君には聞こえていないようだった。どうしようか、どう伝えようかと迷っていると、紋吉が「モーーン」と言い小さく光って震えた。
「紋吉?」
「今の光は?え?なに?」
結海ちゃんにも光は視えたようだけど、紋吉は光ったあと、くたっとして、私の手のひらで小さく丸まった。
「ああ、紋吉。大丈夫?結海ちゃん、変な事かもしれない。でも、嘘じゃない。ここにね、私の守り神みたいな存在がいるんよ。それが今、結海ちゃんにも伝わるように光ってくれたんだけど、力が無くなって、今、丸まって消えそうになっとうと」
「うん」
「でね。えっと、河童の姐さんって人がいるんだけど」
「え?河童?河童の守り神?ん?紋吉はどこいった?その名前は元から?凪がつけた?」
「いや、紋吉はここにいる。私がつけた。でね、河童は紋吉の友達みたいな人なのかな?その姐さんがこの私の守り神の紋吉、ぬりかべって言われたんだけど、力を宗像の三姫に分けて頂いたら…って」
「え?ぬりかべ?え?ぬりかべって?妖怪?こんにゃくみたいな?あの、でっかいやつ?え。強そうやん。いいね」
「いや、でっかくない。こんにゃくでもない。どちらかというと犬。もうすごく小さくなってて。消えそうになってり。私のことずっと守っててくれたせいみたい」
「…えーっと。そうか。分かった!ぬりかべはデカくなくて、紋吉で犬ね?で、河童の姐さんに言われてきたと。じゃあ、私の力があるか分からないけど、神様に私の力を少しでもその、紋吉?ぬりかべ?犬?に分けれないかお願いしてみる」
「え?」
「凪、私は幽霊も妖怪も分からないし、視えない。でも、いないっち証明も、凪が嘘ついているとも思えん。ぶっちゃけ、頭がおかしくなった可能性はあると思う。仕事とか人間関係のストレスとかでね。でもだからっち、はなから信じないって事もしない。まあ、せっかくだから信じてみようと思う。神様にお願いって、きっと大変っち思う。だから一人でも多い方がお願いするにはいい。私も手伝う。まあ、よく分かってないけど。紋吉も河童の姐さんも会ってみたいけどね。あ、河童。若松競艇のマスコット、河童だったな…」
結海ちゃんは真っすぐに私を見た後に、視えてないだろうけど、手のひらの上の紋吉を見ると頷いた。
「有難う」
「よし。じゃあ、お参りをしよう」
「うん、私も調べたら、ここは、市杵島姫神が本殿にいらっしゃるみたいなの。で、奥の第二宮には田心姫神、第三宮には湍津姫神が祀られているって」
「しっかりお願いしよう。人間でも病気とか、そういうのお願いするし、妖怪の健康願っても良いと思う」
「うん」
私達は御手水で清め、神門を潜るときに一礼をすると私達は本殿へと向かった。宗像大社のお参りの仕方って何か特別な事があるのかな、っと調べてみると、「お参りをする順番は特に決まっていない」とのことだった。
ただし、参拝とか、心構えみたいなのを調べると、鳥居をくぐる時に軽く一礼をして、手水舎で身を清める。その後、拝殿、第二宮・第三宮の後、高宮祭場へ参るのが良いようだった。
「この、本殿だけじゃなくて、奥にも祀られているんだって。皆、歩いて行ってる、あっちだね」
「ああ。じゃあ、まずは、本殿にしっかりと挨拶をしたらいいんやか?紋吉を元気にして欲しくて来ました。って感じでいいんよね?」
「うん。河童の姐さんはとにかく行けって感じだったから、紋吉を元気にして下さい。どうしたらいいでしょうか?って聞いてみようと思う」
「紋吉…。凪のセンスよ…まあ、名前の事はいいとして、そうか、分かった」
私達は頷きあうと、本殿に進み、二礼二拍手一礼をした。そして心の中で挨拶をした。
『市杵島姫神様、突然すみません。私は橘凪といいます。私の事を守ってくれているぬりかべの紋吉が、小さくなってしまいました。どうか力を分けて頂きませんか?私の力を分けるにはどうしたらよいかお教え下さい。元気にしたいのです』
一生懸命お祈りをしていると、気持ちの良い風が吹いた。ポケットの中がモゾっと動いて、風が本当に不思議なんだけど、頭を撫でていった。
目を開いて脇によけ、結海ちゃんを見ると、結海ちゃんもなんだか不思議な顔をしていた。
「凪、この奥の道が第二宮と第三宮?なんか、さっきから、不思議な感じがするっちゃね。これ、神様が本当にいるんやね。見られている気がする」」
奥に入ると、一気に空気の温度が変わった。森の中に入った感じがする。立派な木があり、そこを少し歩くと第二宮と第三宮はあった。本殿よりは小さい。ここはあくまで分霊が祀られている場所とあったけど、河童の姐さんは「三姫様」って言っていた。だから第二宮の田心姫神様、第三宮の湍津姫神様に挨拶をして、紋ちゃんがどうしたら元気になるか訊ねてみた。
すると同じように風が吹いたけど、今度は海の潮風の感じがした。宗像大社は海からはそんなには遠くないといっても、海の側ではない。少しだけ離れている。磯の香りが届く程ではないと思うのに、確かに海の香りがした。
「凪、奥に、高宮祭場があるんだっけ?」
「うん。市杵島姫神の降臨の地なんだって。社殿がない古代祭場って。そこにも行ってみよう」
「この奥やね」
先を見ると階段と森が続いていた。暗くもなく、階段に手すりもある。明るいけれど、不思議な感じがする。ここがただの森ではなく、神社の一部で、神聖な場所なんだと感じさせる不思議な何かがあった。
平日だけど、参拝する人はそれなりにいて、後ろを振り返ると、観光客のツアーの方達も大勢来ていた。世界遺産という事もあって、宗像大社は外国の人にも人気らしい。
整備された道を歩き、階段を上ると、少し開けた所から海が見えた。宗像大社の敷地が広く、大きな神聖な森の中の一部に神社がある感じだった。そして、高宮祭場につくと、社殿がないと説明にあった通り、本当に建物も何もない、でも、石で祭場の場所が囲われていて、すぐにその空間が特別な場所というのが分かった。
そこでも同じように礼をして手を合わせと、今度は正面からばぁっと風が顔にぶつかって、目を開けると、祭場の中心付近の木がキラキラと光って見えた。
「え?」
そのキラキラが近づいてくるとポケットに吸い込まれていった。驚いたが、後ろに人が待っているのに気付いて礼をして脇に避けると、ポケットの中の紋吉はパンパンに膨れていた。
「おっきくなった?元気になってる?」
私がゆっくりとポケットを触って紋吉に聞くと何処からか波の音がした。
『海の道しるべの可愛い子。河の子からもお願いは聞いている。河からも海からも愛された陸の子よ。息長足比売命にも力を分けて貰いなさい』
「え?は、はい。ありがとうございます」
耳のすぐそばで声が聞こえた。不思議な女の人なのか、風の音なのか、波の音なのか分からないような、透明な美しい音の様な声が。
私が返事をして頭を下げると、結海ちゃんは黙って待っていてくれて、私が頭を上げるとゆっくりと話し掛けてきた。
「凪?無事なのか?すごくなんか、不思議な風が吹いた。どうしよう、私の煩悩まみれが浄化されてしまったかもしれない」
「少し、紋吉、元気になったみたい。でも、。おきながたらしひめのみことの所にも行った方がいいみたい。力を分けて貰いなさいって声がした。でも、誰の事だろうやか?」
私がそう言って結海ちゃんを見ると、「おきながたらしひめのみこと?」と首を傾げた。




