1 凪視点
次の日の朝、お父さんに翡翠の姐さんの事や、紋吉の事をききたかったけれど、お父さんは早出だったらしく、私が起きるともう家を出た後だった。紋吉もベッドの中にはいず、海に帰ったようだった。お父さんには夜にでも聞こうかな、と思い、身支度を整えて準備を終えると、結海ちゃんはやっぱり時間ぴったしに向かいに来た。
「凪、おはよう」
「おはよう、結海ちゃん、今日はありがとう」
「いいや、私も行きたかったから」
挨拶をして車に乗った。結海ちゃんと会うのは中学までは毎日の様に会っていたけど、高校が離れて大学も別になってからは一年に数度位しか会っていなかった。
それでも、就職してからは会う回数も増え、お互い一ヵ月に一度位は連絡し合っていた。
「凪、今日は宗像大社にお参りでいいんやろ?」
「うん」
「じゃ、やっぱり今日は行きは峠越えで行こうか。海沿いは帰りに走ってもいいね」
昨日走った、海岸沿いの道ではなく、今日は峠の方を超えていく。窓を開けると気持ち良い風が入る。海の側ではないけれど、田舎の道を車で走るのは気持ち良い。山の中を走り抜けて松林の中を潜っていく。平日だからか車の通りも少ない。
「結海ちゃん、昨日は私がご馳走してもらったから、今日は私にご馳走させてね。私が言いだしたんだし」
「いや、凪に奢られる程、私、貧乏じゃないし。三百倍当てたんよ?次も大きく当てるけん。そん時は寿司、奢っちゃる。フレンチはまた晴に連れてって貰いいよ。あの人、行く相手がおらんけん、凪が声掛けたら喜んで連れてってくれるやろうね」
「結晴君、忙しいだろうから声掛けられないよ。最近は全然会ってないし」
「あー、まあ、晴は忙しいっちゃ忙しいやろうけど、あの人、凪が声掛けたらすぐ飛んでくるよ、私は早速昨日の夜には連絡入れた。凪の相談にはいつでも乗ってくれるっち言い寄った」
「え。本当にいいのかな?」
「凪、遠慮はせんでいいっちゃ。黙っとかれる方が私は嫌。だけ、心配させたりさ、手伝わさせるのはまあ、どうなんっち思うやろうけどさ、私は勝手に心配するし、勝手に手伝う事にしとんよ。だけ、凪は諦めて」
「うん、ありがとう結海ちゃん」
「あと、私は次のレースでも大きく当てる予定やけ、凪に奢られんでも大丈夫」
「うん、結海ちゃんが貧乏じゃないのは知っとうけどね。あ、私、お寿司は奢れんよ。なんかこう、可愛いランチとか、探したんだけど、サンドイッチとか?あとは少し離れるけど、カレー屋さんとか美味しそうなのあったよ。宗像大社の周りで何か美味しいお店あるかな」
「今、世界遺産にもなっとんやろ?色々あるんじゃない?まあ、ないなら、海の方にいけば刺身とか食べれるんやない?」
「刺身?寿司?高い?程々なの注文してね?」
寿司や刺身で時価の店とか行かれたらどうしよう。奢るとは言った物の、もしかしたら仕事を辞めるかも、と思っている身なのだ。出来れば高くても一人五千円までにして欲しい。ランチなら、コースでも、それくらいでたべられる所も多いはず。
「ふっ。分かったっちゃ。程々に奢られてやろうかね」
私をチラリとみてニヤニヤしながら運転する結海ちゃん。私は、ちゃんと現金も持って来たハズ、と、財布の中身を思い出そうと、バックを触ると、もふっと感覚がした。
「あ?」
消えたと思った、紋吉がバックの中に入っていた。朝、いないと思ったけど、ここにいたなんて。
「凪?」
「いや。なんでもない」
「そういや、凪は何かお参りしたい事があったん?」
「うん。まあね」
「悪縁切りたいとか?宗像大社は交通安全が有名みたいやけどね。元カレとかの事?あ、言いたくないないならいいんやけど、願い事とか言わないほうがいいんやか?」
「あー、うん。元カレも、かな」
紋吉の事、結海ちゃんになんて言おう。昨夜、河童の姐さんに会って、宗像の三姫様に力を分けて貰いに行きなさいって言われたって、言うと、結海ちゃんから頭おかしいと思われないかな。ああ、元カレの浮気の方が凄く話しやすい。そもそも、河童もぬりかべも「会った」って言って、「へー。よかったね」みたいに言って貰えるのかな。有名人に会ったくらいの驚かれ方で済むのだろうか。
「モン…」
私が困っている事が伝わったのか、紋吉が小さく困った様に鳴いた。
「凪、もうすぐ着く」
「あ、本当だ、鳥居が見えた」
話をしながらのドライブはあっという間で、私達は広い宗像大社の駐車場へと車を止めた。




