8 凪視点
結海ちゃんとのドライブデートの後、私は色々と話して帰ったからか、すごくスッキリとした気持ちだった。
「なんかあったら、私、明日も休みやけ、明日も会おうや。凪、一人でいると変な事考えそうだし」と言って、結海ちゃんは帰って行った。
家に戻った後、私は一人で海に行った。
もしかしたら、もんきち君がまたいるかな、と思ったのだ。キュウリと自分用にトマトを持って、またあの階段の所に座った。今度は夕方だから散歩の人がちらほらいたけれど、やっぱり波は穏やかだった。
「平和だ…」
そう思っていたけれど、スマホが震え、確認すると知らない番号からメッセージが入った。誰かな?と思って、メッセージを見ると、いきなり文句の文面が飛び込んできた。
『凪。お前、会社休んでる?昨日早退したの、異動の準備じゃないの?ちゃんと俺らの事、前から別れてたって言ってくれよ?ゴタゴタになって困るの、お前も一緒だろ?』
『異動先でも人間関係上手くしたいなら、綺麗に別れていた方がいいだろ?人間関係、向こうでも上手くいった方がいいんじゃねえの?』
『先輩、ちゃんとして下さいね。残る人間に迷惑かけないで下さいね?トオルさんは私が貰うんで邪魔も心配もしないで下さい』
『異動じゃなくて、辞めてもいいんですけど。その時もちゃんと綺麗に辞めて下さいね』
『じゃあ、ちゃんと皆に説明してな。なんだか、周りの目が嫌な感じなんだよな。余計な事、言うなよ』
そんなメッセージが続けざまに入って来る。ピコリンピコリンとメッセージ音が煩い。
「あいつら…」
ぐっとスマホを握り潰したかったが、私はそれらのメッセージをスクショし保存すると電話番号もスクショし同じく保存し、そしてブロックした。
早速結海ちゃんに送ろうかと思ったが、まずは課長も証拠集めと言っていたのを思い出した。スクショしたメッセージを確認するが、何も考えずに送ってきてるんだと思う。トオルが上原のスマホを借りて、二人で送って来たんだろう。私はその内容を同僚の坂田さんに送った。
『ホームズよりワトソンへ こんなのがこの番号から急に送られてきたんだけど?この番号の心当たりは?そちらの状況はどうでしょうか?』
『うっわ。えぐ。情報共有了解なり。上原の番号と思うけど、確認しておく。山本の本日の日程は今から外出のハズ。今日外回り直帰って。上原は今いない。二人で近くであってるってこと?上原、今近くには見えない。さっき送られてきたって事は、上原、サボり?そのことも含めてこっちも確認しときます。ホームズの悪口、言いふらしてるけど、うちの部署は誰も相手してないから、安心して。確かに、噂で凪ちゃんの異動の噂も出てるけど、ちょっと風は良い方向に吹くかもしれません。本部長が本社に呼ばれたから。今、いなくなったんで。しばらく色々、こっちは動きます』
『ワトソンありがとう』
『あの名探偵シャーロック・ホームズもこう言ってました。「あり得ないことを除外すれば、残ったものが真実だ」ってね。あいつらの言う事、ありえないことだらけだから、真実に皆気付くはず。では、仕事に戻るんで、また夜に何か分かればメッセージ送ります。佐々木さん達にもコレ、共有します、あ。課長にも見せますね』
『ありがとう』
いい方向か…。メッセージを閉じるといつの間にか白い犬のもんきち君が足元にいた。
「うわ!びっくりした。もんきち君、元気?」
「モン」
「そっか。私はさ、美味しいご飯を食べて来たよ。幼馴染の結海ちゃんに、奢って貰ったんだ。すっごく美味しかったよ」
「モンモン」
「うん、友達と会って、楽しかった。でも、今ね、嫌なメッセージ見ちゃって、ちょっと嫌な気持ちになってたけど、同僚の人とメッセージしたら、少し回復出来たよ」
「モン」
「私の周りの人達って優しくって。もんきち君、君も優しいね」
もんきち君を撫でていると、逆立った心が落ち着いてきた。
「モン、モン」
「うん、今の職場、やりやすくって。仕事もだけど、人間関係はわりと好きで。でも、異動になりそうでね。私が異動したら丸く収まるみたいに言われたんだけど、悪くない私が悪い人達に謝って、そして、異動しないといけないの。おかしいよね」
「モン」
もんきち君はうんうんと合図地をうってくれる。その間も私の身体に登り、膝の上にちょこんと座った。
「前、海に来た時、面倒だし、もう謝るのは嫌だけど、異動しようかなって思ってたんだ。その方が簡単で楽だから。でも、今は違うよ。ちょっと考えてる。だけど、最悪の男と女がメッセージ送って来たんだ。ちょっとよく読んでおこうかな。イライラするけど、考えないといけないから。もんきち君も見る?」
「モン…」
「異動しないとあの二人と一緒に仕事ってって言うのがな…。これからどうしたらいいのかなって考えてるよ」
もんきち君と撫でながら話していると、心が穏やかになって行った。不思議な気持ち。悩んでいたモヤモヤが、すーっと食べていかれたような、綺麗な水が流れこんでくるような。
「話を聞いてくれてありがとう。またね。今日はキュウリなくてごめんね」
「モン、モン」
暗くなる前に私はもんきち君と別れて、家に帰ると、お父さんがキュウリを探していた。
「おい、凪、この間、シマさんに貰ったキュウリあったろ?」
「キュウリ?野菜室じゃない?」
「ああ、そうか。あったあった」
お父さんはキュウリを二本取り出すと洗ってビニール袋に入れた。
「誰かにあげるの?」
私がそう聞くと、お父さんはビクッとした。別に、ただ聞いただけなのに、何か変な事を聞いたような感じで、お父さんは返事をせず、止まっていた。
「まあ、そうだな…。知り合いに、昔の世話になった人に、うん。あげるんだ。少し遅くなると思う。ちょっと出かけてくるっち母さんには言っといてくれ」
お父さんはそう言うと、草履をはいて出かけて行った。




