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王女様、大学生に求婚される

異世界の王女様、まさかのモテ期到来――?


キングダム・ファンタジアで働き始めてからというもの、リリィはますますこの世界で目立つ存在になっていました。


そして今回、彼女に一人の青年が声をかけてきます。

 夕暮れ時。


 仕事帰りの会社員たちが駅へ向かう中、一人の青年が高級マンションの前で落ち着きなく立っていた。


「……よし」


 深呼吸。


 スマホで髪型確認。


 服装確認。


 そしてまた深呼吸。


 青年――神田一郎かんだいちろうは、都内でも有名なK大に通う医学生だった。


 K大は世間的なイメージも非常によく、“K大ボーイ”などと呼ばれ雑誌で特集されることもある名門大学である。


 そんな一郎には、ここ最近ずっと頭から離れない女性がいた。


 夢と魔法の王国――

 《《キングダム・ファンタジア》》で出会った金髪の姫。


(あれはもう、本当にお姫様だった……)


 初めて見た瞬間、目を奪われた。


 美しい金髪。


 上品な立ち振る舞い。


 まるで本物の王族のような気品。


 しかも演技とは思えないほど自然だった。


(今日こそ話しかけるんだ……!)


 一郎が決意を固めた、その時。


「あら?」


 マンションの入り口から、金髪の少女が姿を現した。


 リリィだった。


 今日も相変わらず人目を引く。


「あ、あの!」


 思わず声が裏返る。


 リリィは立ち止まり、不思議そうに首を傾げた。


「どなたですの?」


「ぼ、僕! K大に通ってる神田一郎っていいます!」


「K大?」


「はい!」


「騎士団の養成学校か何かですの?」


「違います!」


 思わず即答してしまう。


「大学です! 医者になるための勉強をしています!」


「ほう」


 リリィが少し感心したように目を細めた。


薬師やくしの見習いですのね」


「まあ……近いです」


「それで?」


「え?」


「わたくしに何の用ですの?」


 真正面から見つめられ、一郎の顔が一気に熱くなる。


 そして勢いのまま――


「す、好きです!!」


 マンション前に大声が響いた。


「キングダム・ファンタジアであなたを見て、一目惚れしました! よかったら僕と付き合ってください!」


 沈黙。


 通行人がちらりとこちらを見る。


 一郎は顔を真っ赤にした。


 しかし、リリィは妙に落ち着いていた。


「……なるほど」


 小さく頷く。


「あら、このわたくしに求婚ですの?」


「きゅ、求婚!?」


「あなた、どちらの国の王室の方ですの?」


「い、いえ! 王室とかじゃなくて!」


 一郎は慌てて手を振る。


「父が病院を経営していて、僕も将来は医者に――」


「なるほど」


 リリィは腕を組んだ。


「薬師の家の子」


「いや、まあ……」


「ですが」


 リリィは少しだけ寂しそうな顔をする。


「わたくしは、あなたとお付き合いできない環境にありますの」


「……え?」


 一郎の表情が曇った。


「どうしてですか?」


「そうですわね……」


 リリィは遠くを見るように呟く。


「わたくしは今や《飼い猫》」


「……はい?」


「この馬小屋みたいなちんけな城で、《銀縁メガネ》に養われている身ですわ」


「……」


 一郎はマンションを見上げた。


 高級住宅街にそびえ立つ超高級マンション。


(これが……馬小屋?)


 意味が分からない。


 しかも《銀縁メガネ》とは誰だ。


 頭が混乱していると――


「姫様!」


 低く太い声が響いた。


「今お帰りですかな!」


 振り向く。


 そこにいたのは、作業服姿の大男。


 日焼けした肌。


 盛り上がった筋肉。


 完全に“現場を仕切ってる人”の風格である。


「クリス」


 リリィが当然のように名前を呼ぶ。


「仕事帰りですの?」


「ええ!」


 クリスは豪快に笑った。


「今日は鉄骨を運びまくりましてな!」


「ご苦労でしたわ!」


 完全に主従関係。


 その瞬間、一郎の脳内では何かが繋がった。


(え……?)


 高級マンション。


 謎の金髪美女。


 “姫様”呼びするイカつい男。


 そして《飼い猫》。


(……まさか)


 一郎はごくりと唾を飲み込む。


(危険な組織のお嬢様……!?)


 その時。


 黒塗りの高級車が静かにマンション前へ滑り込んだ。


「お、帰ってたのか」


 車から降りてきたのは、スーツ姿の雄一。


 シルバーフレームの眼鏡。


 高級そうな腕時計。


 仕事のできるエリートの雰囲気。


(うわぁ……)


 一郎の中で、勝手に物語が完成していく。


(絶対ヤバい人だ……!)


 するとリリィが、一郎の方を向いた。


「分かりまして?」


「は、はい……」


「わたくしは今、《あのメガネ》の飼い猫にすぎませんの」


「……!」


「心までは許したことはありませんが、《この世界》ではどうにもなりませんわ」


(この世界!?)


 一郎の脳内で警報が鳴り響く。


(やっぱり裏社会の人だ!!)


 完全にそう思い込んだ。


「ぼ、僕は何も見てません!!」


「え?」


「し、失礼しましたぁぁぁ!!」


 猛ダッシュ。


「あっ」


「逃げましたわね」


 呆然と見送るリリィ。


 雄一が近づいてくる。


「おい、今のお兄さん誰?」


「わたくしのファンですわ」


「ファン?」


「求婚されましたの」


「は!?」


 雄一が素っ頓狂な声を上げる。


「K大とかいう学校に通っているそうですが、庶民の学び舎なのでしょう?」


「いや、基本、庶民の学校しかないから……」


「ほう」


 リリィはあまり興味がなさそうだった。


「それより雄一」


「ん?」


「最近、電車の中で英語とやらで話しかけられることが多いのですが」


「あー」


「皆、わたくしと会話したいのかしら?」


「外国人だと思われてるだけだな……」


「なるほど」


 納得していない顔。


 そのままエントランスへ向かう。


「ところで夕飯は?」


「切り替え早いな」


「カレーを所望しますわ!」


「はいはい」


 雄一は苦笑した。


 少し前までなら、こんな生活は想像もしなかった。


 異世界の王女。


 工事現場で働く大司教。


 そして意味不明な騒動。


 だが――


(……慣れたな、俺も)


 そんなことを思いながら、雄一は二人の後を追う。


 一方その頃。


 駅まで全力疾走した一郎は、友人に電話していた。


「聞いてくれ!!」


『どうした!?』


「あの子、絶対ヤバい組織のお嬢様だった!!」


『は!?』


「黒幕っぽい眼鏡の男もいた!!」


『何言ってんだお前!?』


 こうして。


 王女様に恋した青年の恋は――


 盛大な勘違いと共に、儚く散ったのだった。

挿絵(By みてみん)

第8話を読んでいただきありがとうございます。


今回は勘違いラブコメ回でした。


リリィ本人は普通に話しているだけなのですが、異世界基準で会話するせいで、周囲から見るとかなり危ない人たちに見えてしまいます。


特に雄一は、

・高級マンション住み

・黒塗り高級車

・銀縁メガネ

という要素が揃っているため、完全に裏社会のボスみたいになってしまいました。


そして地味に、この作品初の“リリィに恋した男”登場回でもあります。


今後も騒がしくも少しずつ変化していく日常を書いていければと思いますので、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。

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