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王女様、布団の魔力に敗北する

帰れない日々が続く中で、少しずつ“当たり前”になっていく同居生活。


働き始めた王女様ですが、相変わらずマイペースです。

今回はそんな日常の一コマ――少しだけ静かな時間をお届けします。

 リリィに寝室を貸してからというもの――


 雄一の生活は少しだけ変わっていた。


 本来、書斎として使っていた部屋に布団を敷き、そこで寝る日々。


 狭いわけではないが、どこか“仮住まい”のような落ち着かなさがある。


(……まあ、仕方ないか)


 あの王女様にソファーで寝ろとは、さすがに言えない。


 そんなことを考えながら、雄一はパソコンに向かっていた。


 検索しているのは、相変わらず――


「異世界 帰る方法……っと」


 オカルト、都市伝説、創作系ブログ。


 まともな情報はほとんどない。


「やっぱり現実的じゃないよな……」


 小さくため息をついた、そのとき。


 バンッ!


「雄一!!」


「うおっ!?」


 勢いよくドアが開く。


「お願いがあるのです!!」


 現れたのは、当然のようにリリィ。


「どうした、そんな慌てて」


「至急――」


 ビシッ、と指を突きつける。


「『エフオージー』と『ゴッド・オブ・ツスマ』というゲームを購入していただきたいのです!」


「却下」


 即答だった。


「なぜですの!?」


「お前、ゲームやりすぎなんだよ」


「文化的活動ですわ!」


「依存症の入口だぞそれ」


 呆れながらも、軽くあしらう。


 だが。


「……むぅ」


 不満げに頬を膨らませる。


 そのまま部屋を見回し――


「……あら?」


 視線が止まった。


「これが……“お布団”ですの?」


「ああ」


 興味津々、といった様子で近づく。


「この世界の庶民が寝るための寝具……」


「まあ言い方はアレだけど、そうだな」


 そっと手で触れる。


「……柔らかい」


「今日、天気よかったからな。ベランダで干した」


「ほう……太陽の力……」


 なぜか妙に感心している。


 そして次の瞬間。


 ぽすん。


「おい」


 リリィがそのまま布団にダイブした。


「おい」


「……これは……」


 頬をうずめる。


「極楽ですわね……」


「大げさだな」


「いえ、これは革命的ですわ」


 ごろり、と転がる。


「王宮にも導入すべきですわね……」


「戻れたらな」


「……」


 一瞬、沈黙。


 だがすぐに――


「それより雄一」


「なんだ」


「やはりゲームを――」


「ダメだ」


「まだ何も言っていませんわ!」


「どうせ同じ話だろ!」


 やり取りは続く。


 だが――


 次第に、声が小さくなっていった。


「……雄一」


「ん?」


「……むにゃ……」


「……?」


 振り向くと。


 リリィは布団の上で、すでに眠っていた。


「……はやっ」


 さっきまであれだけ騒いでいたのに。


 規則正しい寝息。


 無防備な寝顔。


「……ほんと自由だな」


 思わず苦笑する。


 だが。


(……疲れてんのか)


 仕事を始めてから、生活は確実に変わった。


 慣れない環境。


 慣れない文化。


 それでも弱音一つ吐かず、いつも通り振る舞っている。


 ――その反動かもしれない。


「……」


 雄一はそっと近づき、布団を整える。


 肩まで掛け直す。


「風邪ひくなよ」


 小さく呟く。


 当然、返事はない。


 だが――


 どこか安心したような表情で眠っていた。


(……こうしてると、普通の女の子なんだけどな)


 静かな時間。


 少しだけ見とれてしまい――


「……何やってんだ俺」


 我に返る。


 電気を消し、そっと部屋を出る。


 その夜、雄一はリビングのソファーで寝ることにした。


 ◆


 翌朝。


 キッチンには、クリスの姿。


「おはようございます、雄一殿」


「おはようございます」


 すっかり現代人らしい挨拶。


 テーブルには、簡単な朝食が並んでいる。


(この人も馴染みすぎだろ……)


 そんなことを思いながら食べていると――


 ドタドタドタ!


「雄一!!」


「うわっ!?」


 リリィが突撃してきた。


「どうした!?」


「あなた……!」


 ズイッと顔を近づける。


「わたくしに眠り薬か何かを盛って、いやらしいことを――」


「するか!!」


 即否定。


「本当ですの?」


「本当だよ!」


 むしろ被害者だ。


「……むぅ」


 疑いの目。


 だがそのとき。


 時計を見る。


「……あ」


「どうした」


「今日、早番でしたわ!!」


「ほら見ろ!!」


 一気に慌て始める。


「急ぎなさい!」


「分かってますわ!」


 バタバタと席に着く。


「《モブ》をからかっている場合ではありませんでしたわ!」


「モブって言うな」


「最近覚えた言葉ですわ!」


「どこで!?」


「乙女ゲーム」


「やっぱりな!!」


 雄一は頭を抱えた。


(……ゲームはやっぱり制限だな)


 心の中で固く決意する。


 その間にも――


「ごちそうさまですわ!」


「早っ!」


 食べ終え、立ち上がる。


「行ってきますわ!」


「行ってらっしゃい」


 玄関へ走っていく。


 ドアが閉まる。


 ――静寂。


「……」


「……賑やかですな」


 クリスがぽつりと言う。


「ええ」


 雄一は苦笑した。


「でもまあ」


 少しだけ、間を置いて。


「悪くないですけどね」


 そう言った自分に、ほんの少しだけ驚きながら――


 今日もまた、騒がしい一日が始まるのだった。

挿絵(By みてみん)

第7話を読んでいただきありがとうございます。


大きな事件はありませんが、二人の距離がほんの少しだけ近づいた回でした。

騒がしいだけではない、こういう時間も大切にしていきたいと思っています。


そしてリリィ、順調にこの世界の文化(主にゲーム)を吸収中です。

……ただし方向性は少し心配ですが。


次回はまた少し動きのある展開になります。

引き続きお楽しみいただけると嬉しいです。


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