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王女様、働く(そして空気を読まない)

異世界への帰還に失敗してから、しばらく――。


王女様と大司教、まさかの“現代日本で就職”です。

果たして二人は、この世界でやっていけるのでしょうか。


そして今回は、雄一のプライベートにも少し変化が。

にぎやかさの中に、ちょっとした波乱の予感です。

 異世界への帰還に失敗してから、数週間。


 ――結論から言うと。


「なんで俺の家に大人二人増えてんだよ……」


 生活は、だいぶカオスになっていた。


 迎えが来るまでの“仮住まい”のはずが、

 王女リリィと、大司教――改めクリスは、完全にこの世界に馴染み始めていた。


 というか。


「おかえりなさい、雄一!」


「おう……」


 玄関を開けると、エプロン姿の王女が出迎える生活ってなんだ。


 しかも普通に料理のいい匂いがする。


「今日は働いてきましたのよ! 褒めてもよろしくてよ!」


「はいはい偉い偉い」


 軽く流す。


 だが最初に比べれば、確実に変化していた。


 ――働いている、という点で。


 ◆


 事情を説明できない以上、まともな経歴は出せない。


 結果。


 大司教は「クリス」と名乗り、工事現場へ。


 王女リリィは――


「夢の国で働くことになりましたわ!」


 なぜかキングダム・ファンタジアというテーマパークで“姫役キャスト”として採用された。


(……まあ、適職か)


 誰もがそう思った。


 ◆


 夕食時。


「それでね、雄一」


 リリィは楽しそうに話し始める。


「ネズミの被り物に入っている“サイトウ”という女がいるのですが」


「やめろ」


「仕事が終わると、裏で客の悪口を――」


「やめろって言ってるだろ!!」


 慌てて止める。


「そういう話は絶対外で言うな!」


「なぜですの?」


「夢壊れるからだよ!」


「不思議な文化ですわね……」


 納得していない顔。


 だが――


(……まあ)


 雄一は少しだけ思う。


(ちゃんと働いてるだけ、偉いか)


 最初の頃の“完全無職王女”に比べれば、大進歩だ。


 ◆


「そういえば」


 雄一は箸を置いた。


「明日、デートなんだよ」


「……でーと?」


 リリィが首を傾げる。


「かおりと。正月ずっと会えてなかったしな」


「あら」


 少しだけ目を細める。


「その“かおり”というのは、どこの貴族の娘ですの?」


「だから貴族じゃねぇって」


 苦笑する。


 すると。


「雄一殿」


 クリスが新聞から顔を上げた。


「明日はお休みですか?」


「まあな。クリスさんは?」


「私は同僚と競馬場へ」


 赤鉛筆を握りしめる。


 新聞にはびっしりと印。


(……この人も順応しすぎだろ)


 雄一は遠い目をした。


 ◆


 翌日。


 車でかおりを迎えに行く。


「お待たせ」


「あ、雄一!」


 助手席に乗り込むかおり。


 その視線が、すぐに後部座席へ向く。


「……あら?」


 そこには、リリィ。 りりィは雄一たちのデート先のキングダム・ファンタジアに出勤のため同乗していた。


「あら、この子が言ってた留学生?」


「そうそう」


「どこの国の子だっけ?」


「えーと……フランス、いやオランダ……」


 適当。


 完全に設定が崩れている。


 そのとき。


「リミッタ王国ですわ」


「言うな!!」


 即ツッコミ。


「リミッタ王国?」


 かおりが首を傾げる。


「聞いたことないけど……」


「まあ小国だから!」


 無理やり押し切る。


 するとリリィが、じっとかおりを見る。


「……あなたが、かおり」


「え?」


「とても綺麗な娘ですわね」


「あら、ありがとう」


 かおりが微笑む。


 モデルをしているだけあって、洗練された美しさがある。


 対してリリィは――


「あなたも可愛いわ。お人形みたい」


「当然ですわ」


 即答。


 そして続けて、


「ですが、ここに来てからは髪型や服装を変えられ、雄一好みの女に――」


「言うな!!」


「え?」


 かおりの視線が刺さる。


「雄一、それどういうこと?」


「いや違う違う!! なんでもない!!」


 冷や汗。


 だがリリィはどこ吹く風。


「事実ですわ」


「お前黙れ!!」


 車内は一気にカオスになった。


 ◆


 テーマパーク到着。


 リリィは仕事へ。


 雄一とかおりは園内へ。


「……あの子、面白いね」


「だろ……?」


 苦笑する。


「でもちょっと不思議」


「不思議?」


「なんていうか……本当に“お姫様”みたい」


「……」


 一瞬、言葉に詰まる。


(正解なんだよな……)


 だが言えるはずもない。


「まあ、変わってるだけだよ」


「ふーん?」


 かおりは少しだけ意味深に笑った。


 ◆


 夜。


「ねえ雄一」


「ん?」


「リリィさん、夜のパレードで“大サービスする”って言ってたわよ?」


「……言ってたな」


 嫌な予感しかしない。


 そして――


 パレード開始。


 音楽、光、歓声。


 その中で。


「あ……」


 かおりが声を上げる。


「リリィさん!」


 そこにいたのは。


 豪華なドレスをまとった、リリィ。


 ライトに照らされ、まるで本物の姫のように輝いている。


「すごい……綺麗……」


 かおりが見惚れる。


 周囲からも歓声が上がる。


 そして。


(……やっぱ似合うな)


 雄一も、素直にそう思った。


 ――だが。


「……あ」


 リリィが、何かを呟いた。


 嫌な予感。


 次の瞬間。


 足元に――魔法陣。


「おい」


 遅い。


 夜空へ向かって――


 火炎魔法、発動。


 ドォン!!


 鮮やかな火柱が空を彩る。


「きゃあああ! すごい!」


「なにあれ!? 演出!?」


「最高!!」


 観客、大興奮。


「……」


「リリィさんすごい!!」


 かおりも拍手している。


「どういう仕掛けなのかしら!」


「……企業秘密かな」


(違う、ガチだ)


 雄一は一人、頭を抱えた。


(いつか絶対やらかす……)


 だが。


 ステージの上で誇らしげに微笑むリリィは――


 確かに、誰よりも“王女様”だった。


 こうして。


 王女様は現代でも輝き続け、

 雄一の胃痛もまた、順調に増えていくのだった。

挿絵(By みてみん)

第6話を読んでいただきありがとうございます。


働き始めたリリィとクリス、だいぶこの世界に馴染んできました。

……が、やはり普通には収まりません。


そしてついに登場した“かおり”。

雄一との関係、そしてリリィとの距離感――これから少しずつ変化していきます。


楽しいだけでは終わらない、でもやっぱり騒がしい。

そんな日常を引き続き楽しんでいただければ嬉しいです。


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