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王女様、大晦日を満喫する(なお帰る気配はない)

王女様との同居生活、三日目。


非日常にも少しずつ慣れてきた――はずですが、

問題はまったく解決していません。


帰る方法は不明のまま。

それでも時間は進み、今日は大晦日です。


家族にも、そして“ある人”にも嘘をついて迎える年の瀬。

そんな中、王女様は相変わらずマイペースで――?

 リリィがこの世界に転移してきて、三日目。


 そして今日は――十二月三十一日、大晦日。


「……はぁ」


 雄一はスマホを見つめながら、深くため息をついた。


 画面には、母親からのメッセージ。


『今年も帰ってこないの?』


 短い文章だった。


 だが、その一文だけで十分だった。


(……帰れない、だよな)


 雄一はゆっくり返信を打つ。


『仕事が立て込んでる。また落ち着いたら帰る』


 送信。


 すぐに既読がついた。


『体に気をつけなさいよ』


 その言葉が、妙に胸に刺さる。


「……ごめん」


 小さく呟く。


 だが、嘘をついた相手は母親だけではない。


 もう一つのトーク画面を開く。


 ――彼女、かおり。


『年末年始は実家帰るんだよね? 気をつけてね!』


 数日前のメッセージ。


 それに対して雄一は、


『ああ、少しだけ帰る予定』


 と返信していた。


(なんで俺がこんな嘘つかなきゃいけないんだ……)


 原因は明白だった。


「雄一ー!」


 リビングから元気な声が飛んでくる。


 嫌な予感しかしない。


 雄一が顔を向けると――


「この“げーむ”という文化、危険ですわ!!」


 そこには。


 ジャージ姿でソファに寝転がり、ポテチを食べながらゲームをしている金髪王女の姿があった。


「何時間やってるんだお前……」


「八時間くらいですわね!」


「廃人じゃねぇか!!」


 しかも完全に姿勢がダメ人間である。


 ソファに横向きで寝転がり、足をバタバタさせながらコントローラーを操作していた。


(なんで異世界の王女が三日でこんな順応するんだよ……)


 適応能力が異常だった。


「雄一! この村人、同じ話しかしませんわ!」


「RPGのNPCだからな」


「何故ですの!? 呪いですの!?」


「仕様だよ」


「あとこの宿屋の主人、お金を払わないと泊めてくれませんわ! 民を守る気がありませんの!?」


「経営だからな!?」


 リリィは本気で怒っていた。


「王族なら無料にするべきですわ!」


「その思想やめろ」


 さらに。


「あとこの勇者、弱すぎますわね」


「序盤だからな」


「では鍛えますわ!」


 十分後。


「なぜ雑魚モンスターに囲まれて死ぬのですか!? この勇者、本当に勇者ですの!?」


「お前がレベル上げせずに突っ込むからだよ!」


 雄一は思わず吹き出した。


 昨日まで異世界から来た迷惑な侵入者だったはずなのに。


 今や完全に、“ゲームにキレる友人”みたいになっている。


 しかも口が悪い。


「この王様も無能ですわね。城の地下に宝箱を放置するとか不用心ですわ」


「ゲームだからな」


「あとこの魔王、部下への労働環境が劣悪すぎますわ!」


「お前、変なところで現実的だな……」


 リリィは突然、真顔になった。


「雄一」


「ん?」


「この世界では、労働者を酷使するのは普通なのですか?」


「……まあ、会社による」


「ふむ」


 リリィは少し考え込み――


「あなたの世界もなかなか地獄ですわね」


「否定できねぇ……」


 雄一は静かに目を逸らした。


 ◆


 ゲームに夢中になっているリリィを横目に、雄一はテーブルへ向かう。


 そこには大量の本が積まれていた。


 異世界転移。


 勇者召喚。


 魔法陣。


 並行世界。


 全部、ライトノベルだ。


(……帰す方法、何かヒントないかな)


 昨日からずっと調べていた。


 だが当然、現実に役立つ情報など出てこない。


「雄一!」


「なんだよ」


「この賢者、回復魔法しかしませんわ!」


「ヒーラーだからな!」


「前に出て戦いなさい!」


「職業否定すんな!」


 リリィはゲームをやりながら本気で怒っていた。


 だがその横顔を見ていると、不思議と嫌な気分にはならなかった。


 こんなに騒がしい年末は久しぶりだった。


 ◆


 気づけば外は暗くなっていた。


 テレビでは年末特番。


 街全体が浮かれた空気に包まれている。


「……大晦日か」


「おおみそか?」


 リリィが振り返る。


「一年の最後の日だよ」


「ほう……」


 少しだけ興味を示した。


「この国では何をするのです?」


「人によるけど……家族と過ごしたり、恋人と過ごしたりだな」


「ふむ」


 リリィは少し考え込む。


「雄一は?」


「俺?」


「本当は誰かと過ごす予定だったのではなくて?」


「……」


 図星だった。


 実家にも帰れず。


 かおりにも嘘をついて。


 年末を異世界王女と過ごしている。


 冷静に考えると意味が分からない。


「……まあ、色々予定は狂ったな」


「わたくしのせいですか?」


「百パーセントな」


「仕方ありませんわね!」


「開き直るな」


 だがリリィはなぜか満足そうに胸を張った。


「では本日は、わたくしが一緒にいて差し上げますわ!」


「上から目線だなぁ!」


 雄一は思わず笑った。


 ◆


 夜。


 雄一は簡単に年越しそばを作った。


「この細長い料理は何ですか?」


「年越しそば。長生き祈る文化」


「なるほど。宗教的儀式ですのね」


「そこまで大げさじゃない」


 リリィは興味深そうに箸を持つ。


「難しいですわね、これ……」


「フォーク使うか?」


「舐めないでくださいまし」


 数分後。


「ちゅるっ!?」


 勢いよく吸い込みすぎて、そばが鼻に入った。


「ぶっ……!」


「ゲホッ、ゲホッ! なんですのこの武器は!」


「そばを武器扱いするな!」


 さらに。


「熱っ!?」


「だから急ぐなって!」


「この料理、罠が多すぎますわ!」


 最終的に、リリィは真剣な顔でそばと格闘していた。


 だが。


「……美味しいですわね」


 ぽつりと呟く。


 その顔は、どこか嬉しそうだった。


 ◆


 時計は23時59分。


「もうすぐ年が変わるぞ」


「本当に変わるのですの?」


「概念的にな」


「概念……」


 リリィは難しい顔をした。


 テレビからカウントダウンが始まる。


『5!』


「おお……!」


『4!』


 リリィの目が輝く。


『3! 2! 1!』


『あけましておめでとうございます!!』


 新年。


 リリィは少し呆然としていた。


「……終わりですの?」


「終わりというか始まりだな」


「不思議な文化ですわね……」


 少しだけ沈黙。


 そしてリリィは、小さく笑った。


「……ですが」


「ん?」


「悪くありませんわ」


 その言葉を聞いて、雄一も自然と笑っていた。


 騒がしくて。


 面倒で。


 予定は全部狂って。


 でも。


(……悪くないな)


 そう思ってしまった。


 そして――。


 エリート社畜と異世界王女の騒がしい同居生活は、新しい年へと突入していくのだった。

挿絵(By みてみん)

第3話を読んでいただきありがとうございます。


今回は少しだけ、雄一の事情と心境にも触れてみました。

騒がしいだけではない、二人の距離の変化も感じていただけたら嬉しいです。


そして王女様、現代の年越しをしっかり満喫しました。

次回は新年――初詣や日常生活、さらにトラブルの予感も……?


引き続き、二人の不思議な同居生活を見守っていただけると嬉しいです。

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