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2/20

王女様、現代文明に大敗する(ただし楽しそう)

異世界から来た王女様との、騒がしい朝。


昨日は突然すぎてそれどころではありませんでしたが――

冷静に考えると、この人を外に連れ出して大丈夫なのでしょうか。


服装、常識、そして金銭感覚。

いろいろと不安しかありません。


それでも今日は、王女様のご要望どおり“現代日本”をご案内します。

 リリィ王女がこの世界に現れてから、一夜明けた。


 ――朝。


「雄一、起きなさい」


「……ん……」


 肩を揺さぶられ、雄一はゆっくり目を開ける。


 ぼやけた視界に映ったのは、金色の髪を朝日に輝かせた少女だった。


「……誰だっけお前」


「ひどすぎますわね!? わたくしですわよ、リリィですわ!」


「あー……はいはい、異世界王女ね……」


 そこで昨日の出来事が一気に脳内によみがえる。


 クローゼットの発光。


 異世界から来たと名乗る王女。


 意味不明な魔法。


 そして、深夜二時にカップ焼きそばを完食した上から目線女。


(……夢じゃなかったのかよ)


 現実だった。


 しかも朝から異常に元気である。


「今日はこの世界を案内しなさい!」


「朝一番で命令かよ……」


「当然ですわ。わたくしはこの世界のことを何も知りませんもの」


 リリィは堂々と胸を張る。


 なぜそんなに偉そうなのか。


「……まあいい。どうせ放っておいても問題起こしそうだしな」


「失礼ですわね」


「昨日、警察って単語だけで半泣きになってた奴が言うな」


「そ、それは……こちらの世界の牢獄制度が恐ろしいと聞きましたので……」


「ネット知識が中途半端なんだよな、お前……」


 雄一は大きくため息をついた。


 今日は仕事納め翌日の貴重な休日だった。


 本来なら昼まで寝て、動画でも見ながらだらだら過ごす予定だったのに、なぜか異世界王女の社会科見学に付き合うことになっている。


(……でもまあ、放置する方が危険か)


 この女、たぶん一人で外に出したら三十分で警察沙汰になる。


 しかも本人は悪気ゼロだ。


「じゃあ外出るぞ。――その格好のままじゃ無理だけどな」


 リリィは相変わらず、フリルとレースだらけの豪華なドレス姿だった。


 朝からマンションの廊下を歩かせたら確実に通報される。


「……む」


 リリィは不満そうに眉を寄せた。


「この衣装は王族の正装ですのよ?」


「ここ日本だからな。そちらみたいな王族文化はないから」


「なんて野蛮な国ですわ……」


「野蛮なのはお前の世界だろ」


 雄一はクローゼットから適当なジャージを引っ張り出した。


「ほら、これ着ろ」


「……布?」


「ジャージ」


「じゃーじ……」


 未知の言語みたいに呟くリリィ。


「とにかく着替えろ。今のお前、RPGのラスボスの娘みたいなんだよ」


「ラスボス……? 褒め言葉ですの?」


「微妙なラインだな」


 数分後。


「どうです?」


 着替え終わったリリィを見て、雄一は一瞬言葉を失った。


 サイズの合っていないジャージ。


 長い袖。


 少し余った裾。


 なのに、なぜか妙に似合っている。


(なんだこの……深夜アニメに出てきそうな女)


 金髪碧眼の美少女がダボっとしたジャージを着ているだけで、妙な破壊力があった。


「……まあ、ドレスより百倍マシだな」


「今、失礼なことを考えませんでした?」


「別に」


 雄一は即答した。


 ◆


 地下駐車場へ向かう。


「雄一、この建物……」


「ん?」


「地下にも部屋があるのですか?」


「駐車場な」


「地下に馬車をしまう場所……」


「まあ、だいたい合ってる」


 雄一は愛車のドアを開けた。


「乗れ」


「……この黒い箱に?」


「車だよ」


「怪しすぎますわ」


「毎回その反応するのやめろ」


 半ば強引に助手席へ押し込む。


 そしてシートベルトを掴んだ瞬間――


「やめなさい!!」


 ガシッ!!


 またしても腕を掴まれる。


「縛る気ですわね!?」


「違う! 安全装置!」


「怪しいですわ!」


「警察呼ぶぞ」


「それはやめなさい!」


 即座に装着された。


(このワード万能すぎるだろ……)


 エンジン始動。


 車が動き出した瞬間――


「きゃあっ!?」


 リリィがシートにしがみついた。


「急に動きましたわ!!」


「発進しただけだよ!」


 さらに。


「止まりましたわ!?」


「赤信号だ」


「横から別の車が!」


「普通の交通だ」


「光ってますわ!」


「ウインカーな」


 五分で雄一は疲れ切った。


 だが。


「……すごいですわ」


 窓の外を見つめるリリィの瞳は、キラキラと輝いていた。


「空を飛ぶ鉄の鳥……」


「飛行機な」


「巨大な建造物……」


「ビルな」


「まるで未来都市ですわ……」


 その声には、純粋な感動が滲んでいた。


 昨日の高飛車さとは違う。


 ただ未知の世界に目を輝かせる、年相応の少女の顔だった。


(……こういう顔もするんだな)


 雄一は少しだけ笑った。


「で、どこ行きたい?」


 リリィは窓の外を指差す。


「あの赤くて高い塔を見たいですわ!」


「あー……東京タワーか」


 少し考えてから、雄一はハンドルを切った。


「まあ、初観光なら定番か」


 ◆


 東京タワー。


「でかっ……!」


 車を降りた瞬間、リリィは呆然と見上げた。


「これ、本当に人間が作ったのですか?」


「そうだよ」


「巨人族でも使ったのでは?」


「使ってねぇよ」


 エレベーターへ向かう。


 そして扉が閉まった瞬間。


「閉じ込められましたわ!?」


「騒ぐな!」


 上昇。


「うわぁぁ!? 浮いてますわ!!」


「エレベーターだからな!」


 完全にテーマパーク状態である。


 展望台に着いた瞬間、リリィはガラスへ駆け寄った。


「すごい……!」


 東京の街並みが一望できる。


「街が全部見えますわ……!」


 ガラスに張り付いたまま、リリィは子供みたいにはしゃいだ。


「あれは!?」


「新幹線」


「あれは!?」


「高速道路」


「あれは!?」


「スカイツリー」


「全部知ってますのね!」


「この国の人間だからな……」


 雄一は苦笑した。


 だが、そんな会話をしているうちに、不思議と楽しくなっている自分に気づく。


 本来なら休日に一人で来る場所じゃない。


 でも。


「……夢みたいですわ」


 ぽつりと呟いたリリィの声を聞いた時。


 雄一は、少しだけこの騒がしい王女を連れ回すのも悪くないと思ってしまった。


 ◆


 その後、表参道へ移動。


「……さすがに服が必要だな」


「?」


「この世界用の服買うぞ」


 知り合いの美容室へ連れていく。


「うわ、雄一くん何その美少女!?」


「事情は聞くな」


「聞きたいことしかないんだけど!?」


 美容師は大混乱だった。


 リリィの髪は軽く整える程度だったが、それだけで印象が激変した。


「……なんかモデルみたいになったな」


「当然ですわ」


 ドヤ顔だった。


 さらに服屋へ。


「雄一、この服はどうですか?」


「……似合うな」


 シンプルな白いワンピース。


 だが、着る人間が違いすぎた。


(素材が強すぎる……)


 完全に都会のお嬢様である。


「気に入りましたわ!」


 満面の笑み。


 そして次の瞬間。


「これを百着ほど買いましょう!」


「破産するわ!!」


 店内にツッコミが響いた。


「なぜですの?」


「ここ王宮じゃないから!」


「ケチですわねぇ……」


「普通なんだよ!」


 しかし。


 服を選びながら笑っているリリィを見ていると、雄一は少しだけ思う。


(昨日まで他人だったのに……)


 なぜかもう、ずっと前から知っているような感覚があった。


 生意気で。


 騒がしくて。


 トラブルメーカーで。


 でも――。


(……退屈だけはしないな)


 こうして。


 異世界王女の“現代生活初日”は、今日も騒がしく幕を閉じるのだった。

挿絵(By みてみん)

第2話を読んでいただきありがとうございます。


リリィの現代初体験、いかがでしたでしょうか。

はしゃぎっぷりが完全に観光客ですが、本人は至って真剣です。


少しずつですが、雄一の中でもリリィへの印象が変わり始めています。

この二人の距離がどうなっていくのか、今後も見守っていただけると嬉しいです。


次回はさらに“日常生活”に踏み込みます。

王女様、ついに現代のアレに挑戦します。


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