王女様と表参道デート疑惑
最近のリリィは、日本文化への適応力が異常な速度で進化しています。
特攻服を着こなし、配信を覚え、ネット知識まで吸収し始めた異世界の王女様。
そんなリリィを見た雄一は、「これ以上放置すると危険だ」と判断し、美容室へ連れて行くことにしたのですが――。
今回は、ちょっとだけ“デート回”っぽい雰囲気です。
とある休日の昼下がり。
雄一はソファーでコーヒーを飲みながら、向かいに座るリリィをじっと見ていた。
「……なあ、リリィ」
「なんですの?」
「髪、かなり伸びたな」
リリィは最近お気に入りの黒い特攻服を着ながらゲームをしている。
しかも髪は肩を超え、金髪がかなり目立っていた。
結果――。
“海外のレディース総長”みたいになっている。
「その格好でコンビニとか行くの、本当にやめてくれない?」
「あら、わたくし似合っていますでしょう?」
「似合っちゃってるのが問題なんだよ!」
雄一は頭を抱えた。
以前なら“お姫様っぽい変な外国人”で済んでいた。
しかし最近のリリィは、日本文化を吸収しすぎたせいで妙な方向に進化している。
BL。
配信。
特攻服。
深夜アニメ。
乙女ゲーム。
そして最近では、ネットミームまで覚え始めていた。
(これ以上放置すると本当に危険だ……)
雄一は決意した。
「よし、美容院行くぞ」
「またですの?」
リリィが露骨に嫌そうな顔をする。
「また、わたくしを自分好みの女に改造しようとしてますわね?」
「違うって。街に馴染めるようにしてるだけだから」
「ふふん、雄一ったら素直じゃありませんのね」
「人の話聞け!」
こうして雄一はリリィを連れて、表参道へ向かうことになった。
◇
「うわぁ……」
美容室へ到着した瞬間、店員たちがざわつく。
それも当然だった。
リリィは元々、異常なほど顔が整っている。
しかも今日は白いニットにロングスカートという、珍しく“まともな格好”をしていた。
そのせいで、とんでもなく目立っていた。
「相変わらず美人さんだねぇ」
担当美容師の森川が笑う。
「雄一、お前どこでこんな子拾ってきたんだよ」
「拾ってないです」
「異国のお姫様みたいじゃん」
「……まあ、そんな感じです」
雄一は遠い目をした。
一方リリィは鏡の前に座りながら不満そうだ。
「本当はもっと縦ロールとかにしたいのですが」
「絶対やめろ」
「なぜですの!」
「日本で縦ロールは強キャラなんだよ!」
美容師の森川が吹き出した。
「雄一、お前ら漫才みたいだな」
「好きでやってるわけじゃないですから……」
その後、リリィの髪は軽く整えられ、ふわりとしたハーフアップ風のスタイルになった。
「おお……」
雄一は少し驚く。
元々美人だったが、さらに洗練された感じになっていた。
美容師たちも感心している。
「モデルいけるよ、この子」
「芸能事務所とか絶対声かかるって」
その言葉に、雄一は嫌な予感を覚えた。
◇
美容室を出たあと。
雄一はそのままリリィを洋服店へ連れて行った。
「今度は何ですの?」
「服買うんだよ」
「まるで着せ替え人形扱いですわ!」
「いいから!」
とはいえ、リリィは服を見るのが嫌いではない。
むしろかなり楽しそうだった。
「雄一! この服どうかしら!」
「……いいんじゃないか?」
「こちらは?」
「それも似合ってる」
「ふふん、当然ですわ!」
リリィはご機嫌である。
結局、雄一はワンピースやコートなど数着を購入させられた。
「いやぁ……完全に彼女連れてる彼氏だな俺……」
雄一が疲れた声を漏らす。
するとリリィがニヤニヤした。
「あら? ようやく自覚しましたの?」
「してないから!」
「では、帰りにハーグンダッツを買いなさい」
「脈絡がねぇ!」
「わたくし、アイスが食べたい気分なのです!」
「はいはい……」
すっかり王女様の扱いにも慣れてしまっている雄一。
そんな二人が表参道を歩いていると――。
「あの、すみません」
一人の男が声をかけてきた。
黒いジャケット。
派手すぎない髪型。
いかにも芸能関係者っぽい雰囲気だった。
「お姉さん、すごく綺麗ですね」
「まあ!」
「もしよければ、うちの事務所で芸能活動してみませんか?」
やっぱり来た。
雄一は即座にリリィの手を引いた。
「すみません、この子そういうの興味ないんで!」
「え? ちょっと!」
そのまま強引に離れる。
「おい雄一!」
リリィが抗議する。
「なんですの急に!」
「芸能界とか絶対ダメだから!」
「なぜですの?」
「異世界人ってバレたらどうするんだよ!」
「別によろしいではありませんか」
「よくねぇよ!」
するとリリィは不思議そうに首を傾げる。
「あら、この世界には“こりん星”から来たという姫君もいたのでしょう?」
「それネタだから!」
「異世界営業は先駆者がいますわ!」
「だから違うって!」
「しかも、その姫君かなり人気者だったと聞きましたわ!」
「なんでそんな昔の知識持ってるんだよ!」
「ネットですわ!」
「ネット怖ぇ……」
雄一は本気で焦っていた。
もしリリィがSNSでも始めて、
『異世界の本物の王女ですわ』
などと言い出したら絶対に面倒になる。
(いや……もう配信してる時点で十分面倒か……)
雄一は頭痛を感じた。
◇
マンションへ帰宅後。
リビングでは、かおりが雑誌を読みながらくつろいでいた。
「あ、おかえりー」
そしてリリィを見るなり目を丸くする。
「えっ、リリィちゃん超可愛くなってる!」
「そうでしょう!」
リリィは得意げに髪をかき上げた。
「今日は雄一が大変でしたのよ」
「え?」
「街で殿方に声をかけられた瞬間、突然わたくしの手を強く握って――」
「おい」
「“この女に近づくな”みたいな顔をしていましたわ!」
「違うから!」
「わたくし、危うく車で唇を奪われるところでしたの!」
「話盛るな!!」
かおりの目がスッと細くなる。
「……雄一?」
「違う違う違う!」
「説明して?」
「だから芸能スカウトを警戒してただけで――」
「でも“俺の女感”出してたんでしょ?」
「出してない!」
「雄一、最低……」
「なんで!?」
その後。
雄一は数時間かけて誤解を解く羽目になる。
一方リリィは――。
「ふふふ」
ソファーでハーグンダッツを食べながらゲームをしていた。
完全に面白がっている顔だった。
(こいつ絶対わざとだろ……)
雄一は心の底からそう思うのであった。
第16話を読んでいただきありがとうございます。
今回は久しぶりに「表参道デート(?)」回でした。
リリィは元々かなり美人設定なのですが、本人に“王女としての気品”と“オタク知識”が同居しているので、普通にしているだけで妙な存在感があります。
そして今回は、ついに芸能スカウトまで登場しました。
雄一としては、
「絶対に目立たせたくない」
「でも放っておくと勝手に目立つ」
という非常に厄介な状況です。
特にリリィの、
「こりん星の前例がありますわ!」
という理論は、異世界人としてはかなり説得力があるのかもしれません。
あと今回のポイントは、雄一がかなり自然にリリィの世話を焼いているところです。
服を選び、
美容室へ連れて行き、
アイスを買い与え、
危険そうな男から守る。
……完全に保護者です。
本人は否定していますが、周囲から見るとかなり“彼氏感”が強くなってきています。
次回も騒がしい日常を楽しんでいただければ嬉しいです。
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