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王女様と節分イベント

最近のリリィは、ゲーム・配信・BL・ヤンキー文化と順調に日本へ染まりつつあります。


そして今回は――まさかの特攻服デビュー。


さらに、異世界の「勇者召喚」の真実まで語られることに……。


夢と希望を抱いて異世界転移したい人は、少しだけ覚悟してお読みください。

 ある冬の夜。


 大森雄一は残業を終え、疲れた顔でマンションへ帰宅した。


「ただいま……」


 ネクタイを緩めながら玄関を開ける。


 すると、リビングから聞こえてきたのは、いつものゲーム音と――妙に低いリリィの声だった。


『オラァ! 死ねぇぇぇ!』


「……また物騒なゲームやってるな」


 雄一がリビングへ向かうと、そこには衝撃的な光景が広がっていた。


 リリィが黒い特攻服を着て、ソファーの上でゲームをしていたのである。


「……おい」


「あら、雄一、お帰りなさい」


 リリィはゲーム機を持ったまま優雅に振り返る。


 しかし、その格好が全然優雅ではない。


 黒いロング丈の特攻服。


 袖には金の刺繍。


 背中には――。


『姫連合』


 さらに下には英語で、


『Black Princess』


 と刺繍されていた。


「お前、その服どうしたの?」


「ああ、以前に結成した冒険者パーティのチーム服ですわ!」


「絶対に冒険者じゃないだろ、それ……」


 雄一は頭を抱えた。


 しかもリリィは金髪碧眼。


 その上、顔立ちがやたら整っている。


 結果、妙に“似合って”しまっていた。


(なんか……九〇年代のレディース総長感あるな……)


 雄一は複雑な気持ちになる。


「どうかしら?」


 リリィは立ち上がり、特攻服の裾を翻した。


「わたくしのカリスマ性が際立つ素晴らしい衣装ですわ!」


「いや、部屋着としてならまだいいけど、それ着て外出るなよ?」


「あら、外で着るななんて彼氏面はやめて欲しいですわ」


「違うって! 警察の厄介になるのを心配してるだけだから!」


 するとリリィは不満そうに頬を膨らませる。


「この世界は本当に窮屈ですわね。少し派手な服を着ただけで問題になるなんて」


「“少し派手”の基準がおかしいんだよ……」


 雄一はため息をつきながら、リリィの前のテーブルを見る。


 そこにはゲームのコントローラー、炭酸ジュース、そして大量の炒り豆が置かれていた。


「ん? なんで豆食ってるんだ?」


「ああ、これですか?」


 リリィは豆を一粒つまむ。


「節分という儀式に必要なのでしょう?」


「え?」


「以前、漫画で読みましたわ! 鬼という魔物にマメを投げつける宗教儀式なのですよね?」


「まあ、ざっくり言うとそうだけど……」


 雄一は少し驚いた。


 リリィは最近、日本の漫画やアニメから妙な知識を吸収している。


 しかも妙な方向に詳しい。


「意外と勉強してるんだな」


「教養は王族のたしなみ、当然ですわ!」


 リリィは得意げに胸を張った。


「異世界で生き残るには情報収集が重要ですもの!」


「いや、お前の場合、吸収してる知識が偏りすぎなんだよ」


 雄一はソファーへ座った。


「そういえば、リリィの世界にも節分みたいなイベントあるの?」


「ありますわ!」


 リリィは即答した。


「この世界からゲーム好きの若者を勇者として召喚し、魔王と戦わせて無病息災を祈りますの!」


「……は?」


 雄一は真顔になった。


「え、勇者召喚ってそういうイベントなの?」


「そうですわ!」


 リリィは当然のように頷く。


「毎回本気で魔王を倒していたら、魔族が絶滅してしまいますもの」


「いや待て待て待て」


「ですから、あれは魔族側も承知の上で行う伝統行事ですわ。勇者が来たら適当に襲われたフリをして、最後は『ぐわあああ! やられたぁ!』と演技するのです」


「戦隊ショーかよ!」


 雄一は思わずツッコんだ。


 しかしリリィは真面目な顔だ。


「知らずに頑張っているのは、この世界から召喚される中二病気味の若者たちだけですわね」


「うわぁ……」


「『俺が世界を救うんだ!』とか言いながら聖剣を振り回している姿はなかなか滑稽ですわ」

「夢も希望もねぇ……」


 雄一は遠い目をした。


「じゃあ、あれか? 勇者たちって最後どうなるの?」


「だいたい元の世界へ帰しますわ」


「よかった、そこはちゃんとしてるんだ」


「ただし」


 リリィはニヤリと笑う。


「帰還前に“魔王討伐記念グッズ”を大量購入させられますわ!」


「最低だなお前の世界!!」


 雄一は絶叫した。


「聖剣キーホルダー、魔王せんべい、ドラゴン饅頭などが人気商品ですわ」


「完全に観光地じゃねぇか!」


 リリィはケラケラ笑う。


 そこへ、風呂上がりのクリスがやって来た。


「おお、リミッタ王国の節分の話ですかな?」


「クリスさんも知ってるんですか?」


「もちろんですぞ!」


 クリスは懐かしそうに頷く。


「昔はワシも魔王役をやりましてなぁ」


「大司教が!?」


「若い頃は筋肉が評価されましてな! 村人たちから『魔王より魔王だ!』と大人気でしたぞ!」


「大司教なのに……褒められてるのかな、それ……」


 さらにクリスは続ける。


「姫様など、子供の頃は魔族に火炎魔法を放つが大好きでして」


「そうでしたわね!」


 リリィが笑顔になる。


「毎年、魔族のおじさまたちを泣かせるまで魔法をぶっ放していましたわ!」


「性格悪っ!」


「泣きながら『熱いです姫様ぁ!』って逃げ回る姿が最高でしたの!」


「お前、本当に王女か!?」


「恐れられてこその王族ですわ!」


 しかしリリィはどこか懐かしそうだった。


 雄一は少しだけ表情を和らげる。


「……なんだかんだ、お前も元の世界のこと好きなんだな」


 すると、リリィは一瞬だけ静かになった。


「……まあ、生まれ育った国ですもの」


 珍しく素直な声音。


 だが次の瞬間。


「でも、こちらの世界にはゲームがありますからね!」


「台無しだよ!」


「それに!」


 リリィはゲームソフトを掲げた。


「この世界には万寿きなこ先生もいますわ!」


「お前、ほんと日本満喫してんな……」


 雄一は苦笑する。


 そして改めて思う。


(こいつ……本当に帰る気あるのか?)


 そんな雄一の視線に気付いたのか、リリィは豆を投げつけてきた。


「何ですの、その目は!」


「痛っ!」


「鬼は外ですわ!」


「いや、鬼扱い!?」


 ケラケラ笑うリリィ。


 呆れながらも、雄一も少し笑ってしまう。


 異世界の王女様が来てから、毎日騒がしい。


 騒がしいのだが――。


 不思議と、その賑やかさが当たり前になりつつあった。

挿絵(By みてみん)

第15話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、

・特攻服を着る王女様

・節分

・勇者召喚の裏事情

という、かなりカオスな内容になりました。


特に「勇者召喚は魔族側も承知のイベント」という設定は、以前からぼんやり考えていたネタだったので、ようやく本編で使えて楽しかったです。


異世界作品では“勇者VS魔王”が定番ですが、この作品の場合はリリィ視点なので、

「そのイベント、現地民から見ると意外と雑」

というズレを書いてみました。


あと、リリィはどんどん日本文化に染まっていますが、

・BL

・ゲーム

・特攻服

など、吸収している知識がかなり偏っています。


たぶん、このまま放置すると危険な方向へ進化します。


そして雄一も、なんだかんだツッコミながら、その騒がしい日常に慣れてきているのかもしれません。


次回も楽しんでいただければ嬉しいです。

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