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14/20

王女様とブラック・プリンセス

最近ますます日本文化に染まりつつある王女様・リリィ。


ゲーム、配信、BL本、そして今回は――まさかの不良グループ結成です。


ですが、異世界の王女様が“ヤンキー”を従えた結果、普通の不良チームになるはずもなく……?


今回もかなり騒がしい回になります。

 ある金曜日の夜。


 大森雄一は、珍しく重たい疲労感を引きずりながらマンションへ帰宅していた。


「はぁ……。年度末前って、なんでこう毎回地獄なんだろうな……」


 ネクタイを緩め、エレベーターの鏡を見る。


 そこには、少しやつれたインテリメガネが映っていた。


(今日は静かに酒でも飲んで寝たい……)


 しかし――。


 玄関の扉を開けた瞬間。


「うぇぇぇぇぇぇぇい!!」


「姫さん、マジつえぇっす!!」


「そこで必殺技ぶっ放すの反則っしょ!」


 リビングから爆音のゲーム音と、少年たちの騒ぎ声が響いてきた。


「……なんだこれ」


 雄一が靴を脱ぎながら恐る恐るリビングへ向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 ジャージ姿のリリィがソファーの中央でふんぞり返り、その周囲を十代後半くらいの少年たちが取り囲んでいる。


 しかも全員、なぜかリリィに異常なほど懐いていた。


「姫様! 次どこ行きます!?」


「このダンジョンのボス倒してくださいよ!」


「姫さんマジでゲームうますぎ!」


 そして、リリィはポテチを食べながら偉そうに頷く。


「仕方ありませんわね。わたくしが直々に導いて差し上げますわ!」


「……おい、リリィ」


「あら、雄一、お帰りなさい!」


 リリィは満面の笑みを浮かべる。


 嫌な予感しかしない笑顔だった。


「お前……この子たち何?」


「この間、公園で絡まれましたので、異世界の魔法で少し遊んで差し上げましたら、皆さん下僕になりたいと仰るのです!」


「要するに力でねじ伏せたんだろ……」


 雄一は頭を抱えた。


 少年たちは金髪、ピアス、派手なパーカーと、どう見ても近所のヤンチャグループである。


 しかもリリィは、そんな彼らの中心で完全に女王様状態だった。


「雄一、わたくしたち冒険者パーティを組みましたの!」


「は?」


「その名も――『ブラック・プリンセス』ですわ!」


 リリィはドヤ顔で胸を張る。


 少年たちも一斉に拍手した。


「うおおお! ブラック・プリンセス最高!」


「姫さんマジカリスマ!」


「いや、それ絶対に冒険者パーティじゃないからな!? どう考えても不良チームだから!」


 雄一は胃痛を覚え始めた。


 そこへタイミング悪く、かおりが帰宅する。


「あれ? 今日なんかすごい騒がしい――って、なにこれ?」


 モデル体型の美女が現れたことで、少年たちが一斉に固まった。


「やっべ……」


「美人……」


「芸能人レベルじゃん……」


 さらに、その直後。


「ただいま戻りましたぞ!」


 工事現場帰りのクリスが帰宅する。


 汗でシャツが張り付き、腕は丸太のように太い。


 今のクリスは、もはや“外国人の神父”ではなく、“海外プロレス団体の重量級レスラー”みたいな風格だった。


「……」


 少年たちの顔色が変わる。


 リリィは得意げに腕を組む。


「紹介しますわ。こちらが大司教クリス!」


「よろしく頼みますぞ!」


 クリスが笑顔を向けると、少年たちはなぜか怯えた。


(この家、なんか怖ぇ……)


 そんな空気になり始めた頃、雄一がため息をつく。


「リリィ、騒ぐなら寝室でやれ。近所迷惑になる」


「えー!」


「いいから!」


 すると、一人の少年が舌打ちした。


「なんだよ、その言い方。感じ悪ぃな、このインテリメガネ」


 空気が止まる。


 雄一の眉がピクリと動いた。


「……今なんつった?」


「だから、インテリメガネって――」


「クソガキ、口の利き方に気をつけろよ」


 低い声。


 普段温厚な雄一の空気が、一瞬で変わった。


 少年たちがビクッとする。


「まあまあ雄一!」


「雄一殿、落ち着いて!」


 かおりとクリスが慌てて止める。


 リリィも少年たちへ振り返った。


「あなたたち、大人しくなさい」


「姫さん?」


「あのインテリメガネは怒らせない方がよろしくてよ」


「……そんなヤバい人なんすか?」


 リリィは妖しく笑った。


「あの男は、唯一わたくしを飼いならしている黒執事」


「黒執事……」


「わたくしを見下すような冷たい視線……あの支配的な態度……ゾクゾクしますわ……」


「おい変な説明すんな!」


 しかし時すでに遅し。


 少年たちは勝手に想像を膨らませ始める。


(高級スーツ)


(高級マンション)


(モデル級の彼女)


(外国人のマッチョ)


(謎の姫)


(……絶対ヤバい組織の幹部だ)


 完全に勘違いしていた。


 その後、少年たちは寝室へ移動する。


「うおっ……」


 部屋へ入った瞬間、彼らはさらに青ざめた。


 棚には大量のモデルガン。


 机には分解されたエアガン。


 リリィが集めたおもちゃだが、先入観から少年たちには本物の銃に見えた……。


 そして、本棚には――。


「な、なんだこの本……」


 大量のBL本。


『冷酷社長と囚われの刑事』


『マフィアと神父』


『インテリ眼鏡は猛獣を飼う』


「……」


 少年たちは震えた。


(この人……両刀……?)


 そこへリリィが追い打ちをかける。


「あ、それ全部雄一のですわ!(あくまで購入者として)」


「リリィ変なこと言うなよ!」


 リビングから雄一の怒声が飛んできた。


 しかし少年たちはもう信じない。


「リリィさん……さっきの外国人のおっさんは?」


「ああ、クリスですか?」


(異世界人であることを言ってはいけないと言われてましたわね……)


 リリィは少し考えたあと答えた。


「雄一のボーイフレンドですわ!」


「!?」


 少年たちは凍り付く。


(彼女がいて)


(姫みたいな女もいて)


(マッチョなおっさんとも関係ある)


(もう意味わかんねぇ……)


 一人の少年が震えながら呟く。


「この家……深すぎる……」


 完全に裏社会の館扱いだった。


 その後。


 雄一は少し反省していた。


(まあ……怒鳴ったのは大人げなかったか)


 リビングでジュースを用意しながら声をかける。


「おい、今日はもう遅いし、泊まっていけよ」


 だが。


「い、いや!!」


「俺ら帰って勉強しないと!」


「テスト近いんで!!」


 少年たちは全力で拒否した。


「え?」


「し、失礼します!!」


 そして彼らは逃げるように玄関を飛び出していった。


 静まり返る部屋。


 雄一は首を傾げる。


「最近の不良って真面目なんだな……」


 かおりは苦笑した。


「違うと思うわよ……」


 リリィも不思議そうにしている。


「あら? せっかく衛兵にして差し上げたのに」


「いや、お前が怖すぎたんだろ」


「恐れられてこその王族ですわ!」


 こうして――。


 王女様率いる謎の不良集団『ブラック・プリンセス』は、結成からわずか一日で自然消滅したのであった。

挿絵(By みてみん)


第14話を読んでいただきありがとうございます。


今回は「異世界のカリスマ王女が日本の不良を従えたらどうなるのか?」という、完全に勢いで書き始めた回でした。


結果、リリィ本人は普通に遊んでいるだけなのに、周囲だけが勝手に「ヤバい組織」だと勘違いしていく流れになりました。


特に、

・BL本

・モデルガン

・インテリメガネ

・マッチョ外国人

この辺りが全部合わさったことで、雄一の家が完全に危険地帯扱いされています。


そして何より、リリィの「異世界人だとバレないように誤魔化そうとして、余計に怪しくする能力」がどんどん磨かれてきています。


ちなみに『ブラック・プリンセス』は一瞬で解散しましたが、リリィ本人はたぶん今でも「良いパーティでしたわ」くらいに思っています。


次回も、騒がしくてちょっとズレた日常を書いていければと思います。


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