王女様とブラック・プリンセス
最近ますます日本文化に染まりつつある王女様・リリィ。
ゲーム、配信、BL本、そして今回は――まさかの不良グループ結成です。
ですが、異世界の王女様が“ヤンキー”を従えた結果、普通の不良チームになるはずもなく……?
今回もかなり騒がしい回になります。
ある金曜日の夜。
大森雄一は、珍しく重たい疲労感を引きずりながらマンションへ帰宅していた。
「はぁ……。年度末前って、なんでこう毎回地獄なんだろうな……」
ネクタイを緩め、エレベーターの鏡を見る。
そこには、少しやつれたインテリメガネが映っていた。
(今日は静かに酒でも飲んで寝たい……)
しかし――。
玄関の扉を開けた瞬間。
「うぇぇぇぇぇぇぇい!!」
「姫さん、マジつえぇっす!!」
「そこで必殺技ぶっ放すの反則っしょ!」
リビングから爆音のゲーム音と、少年たちの騒ぎ声が響いてきた。
「……なんだこれ」
雄一が靴を脱ぎながら恐る恐るリビングへ向かうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
ジャージ姿のリリィがソファーの中央でふんぞり返り、その周囲を十代後半くらいの少年たちが取り囲んでいる。
しかも全員、なぜかリリィに異常なほど懐いていた。
「姫様! 次どこ行きます!?」
「このダンジョンのボス倒してくださいよ!」
「姫さんマジでゲームうますぎ!」
そして、リリィはポテチを食べながら偉そうに頷く。
「仕方ありませんわね。わたくしが直々に導いて差し上げますわ!」
「……おい、リリィ」
「あら、雄一、お帰りなさい!」
リリィは満面の笑みを浮かべる。
嫌な予感しかしない笑顔だった。
「お前……この子たち何?」
「この間、公園で絡まれましたので、異世界の魔法で少し遊んで差し上げましたら、皆さん下僕になりたいと仰るのです!」
「要するに力でねじ伏せたんだろ……」
雄一は頭を抱えた。
少年たちは金髪、ピアス、派手なパーカーと、どう見ても近所のヤンチャグループである。
しかもリリィは、そんな彼らの中心で完全に女王様状態だった。
「雄一、わたくしたち冒険者パーティを組みましたの!」
「は?」
「その名も――『ブラック・プリンセス』ですわ!」
リリィはドヤ顔で胸を張る。
少年たちも一斉に拍手した。
「うおおお! ブラック・プリンセス最高!」
「姫さんマジカリスマ!」
「いや、それ絶対に冒険者パーティじゃないからな!? どう考えても不良チームだから!」
雄一は胃痛を覚え始めた。
そこへタイミング悪く、かおりが帰宅する。
「あれ? 今日なんかすごい騒がしい――って、なにこれ?」
モデル体型の美女が現れたことで、少年たちが一斉に固まった。
「やっべ……」
「美人……」
「芸能人レベルじゃん……」
さらに、その直後。
「ただいま戻りましたぞ!」
工事現場帰りのクリスが帰宅する。
汗でシャツが張り付き、腕は丸太のように太い。
今のクリスは、もはや“外国人の神父”ではなく、“海外プロレス団体の重量級レスラー”みたいな風格だった。
「……」
少年たちの顔色が変わる。
リリィは得意げに腕を組む。
「紹介しますわ。こちらが大司教クリス!」
「よろしく頼みますぞ!」
クリスが笑顔を向けると、少年たちはなぜか怯えた。
(この家、なんか怖ぇ……)
そんな空気になり始めた頃、雄一がため息をつく。
「リリィ、騒ぐなら寝室でやれ。近所迷惑になる」
「えー!」
「いいから!」
すると、一人の少年が舌打ちした。
「なんだよ、その言い方。感じ悪ぃな、このインテリメガネ」
空気が止まる。
雄一の眉がピクリと動いた。
「……今なんつった?」
「だから、インテリメガネって――」
「クソガキ、口の利き方に気をつけろよ」
低い声。
普段温厚な雄一の空気が、一瞬で変わった。
少年たちがビクッとする。
「まあまあ雄一!」
「雄一殿、落ち着いて!」
かおりとクリスが慌てて止める。
リリィも少年たちへ振り返った。
「あなたたち、大人しくなさい」
「姫さん?」
「あのインテリメガネは怒らせない方がよろしくてよ」
「……そんなヤバい人なんすか?」
リリィは妖しく笑った。
「あの男は、唯一わたくしを飼いならしている黒執事」
「黒執事……」
「わたくしを見下すような冷たい視線……あの支配的な態度……ゾクゾクしますわ……」
「おい変な説明すんな!」
しかし時すでに遅し。
少年たちは勝手に想像を膨らませ始める。
(高級スーツ)
(高級マンション)
(モデル級の彼女)
(外国人のマッチョ)
(謎の姫)
(……絶対ヤバい組織の幹部だ)
完全に勘違いしていた。
その後、少年たちは寝室へ移動する。
「うおっ……」
部屋へ入った瞬間、彼らはさらに青ざめた。
棚には大量のモデルガン。
机には分解されたエアガン。
リリィが集めたおもちゃだが、先入観から少年たちには本物の銃に見えた……。
そして、本棚には――。
「な、なんだこの本……」
大量のBL本。
『冷酷社長と囚われの刑事』
『マフィアと神父』
『インテリ眼鏡は猛獣を飼う』
「……」
少年たちは震えた。
(この人……両刀……?)
そこへリリィが追い打ちをかける。
「あ、それ全部雄一のですわ!(あくまで購入者として)」
「リリィ変なこと言うなよ!」
リビングから雄一の怒声が飛んできた。
しかし少年たちはもう信じない。
「リリィさん……さっきの外国人のおっさんは?」
「ああ、クリスですか?」
(異世界人であることを言ってはいけないと言われてましたわね……)
リリィは少し考えたあと答えた。
「雄一のボーイフレンドですわ!」
「!?」
少年たちは凍り付く。
(彼女がいて)
(姫みたいな女もいて)
(マッチョなおっさんとも関係ある)
(もう意味わかんねぇ……)
一人の少年が震えながら呟く。
「この家……深すぎる……」
完全に裏社会の館扱いだった。
その後。
雄一は少し反省していた。
(まあ……怒鳴ったのは大人げなかったか)
リビングでジュースを用意しながら声をかける。
「おい、今日はもう遅いし、泊まっていけよ」
だが。
「い、いや!!」
「俺ら帰って勉強しないと!」
「テスト近いんで!!」
少年たちは全力で拒否した。
「え?」
「し、失礼します!!」
そして彼らは逃げるように玄関を飛び出していった。
静まり返る部屋。
雄一は首を傾げる。
「最近の不良って真面目なんだな……」
かおりは苦笑した。
「違うと思うわよ……」
リリィも不思議そうにしている。
「あら? せっかく衛兵にして差し上げたのに」
「いや、お前が怖すぎたんだろ」
「恐れられてこその王族ですわ!」
こうして――。
王女様率いる謎の不良集団『ブラック・プリンセス』は、結成からわずか一日で自然消滅したのであった。
第14話を読んでいただきありがとうございます。
今回は「異世界のカリスマ王女が日本の不良を従えたらどうなるのか?」という、完全に勢いで書き始めた回でした。
結果、リリィ本人は普通に遊んでいるだけなのに、周囲だけが勝手に「ヤバい組織」だと勘違いしていく流れになりました。
特に、
・BL本
・モデルガン
・インテリメガネ
・マッチョ外国人
この辺りが全部合わさったことで、雄一の家が完全に危険地帯扱いされています。
そして何より、リリィの「異世界人だとバレないように誤魔化そうとして、余計に怪しくする能力」がどんどん磨かれてきています。
ちなみに『ブラック・プリンセス』は一瞬で解散しましたが、リリィ本人はたぶん今でも「良いパーティでしたわ」くらいに思っています。
次回も、騒がしくてちょっとズレた日常を書いていければと思います。
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