表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
13/20

王女様、心霊スポットへ行く

最近ますます日本の生活に馴染んできたリリィたち。


ですが、異世界人にとっては――

“日本の幽霊”すら興味深い研究対象のようです。


今回は、ちょっと怖くてかなり騒がしい“心霊スポット回”になります。

 ある休日の夜。


 雄一のマンションでは、珍しく全員がリビングに集まっていた。


 テレビでは心霊特番が流れている。


『次に向かうのは、都内近郊最恐と噂される“血染めトンネル”――』


 画面に映る薄暗いトンネル。


 不気味なBGM。


 そして「女性の霊が現れる」というナレーション。


「ねえ雄一」


 ソファーで毛布にくるまっていたかおりが口を開く。


「この場所って、ここからそんな遠くないわよね?」


「ああ」


 雄一は缶コーヒーを飲みながら頷いた。


「なんか昔、近くで轢き逃げ事件があってさ」


「うん……」


「被害者のOLの霊が、今でも犯人を探して彷徨ってるって噂」


「やめてよ怖い……」


 かおりが肩を縮める。


 すると。


「面白そうですわね!」


 目を輝かせた人物がいた。


 もちろんリリィである。


「雄一! わたくしをそこへ案内しなさい!」


「なんでテンション上がるんだよ!?」


「呪いと怪異の調査など、王族として当然の教養ですもの!」


「お前の世界どうなってるの?」


 するとリリィは得意げに語り始めた。


「わたくしたちの世界では、呪いで千年ほど豚に変えられることもありますし」


「重い」


「剣に魂を封じられるケースもありますわね」


「怖っ」


「あと、城全体がミミック化した事件もありましたわ」


「行きたくねぇ……」


 雄一は心底思った。


 異世界転移など絶対にしたくない。


「こちらの世界の呪いは、どこか可愛らしいですわね」


「轢き逃げされた霊を可愛い分類するな!」


 だが。


 リリィは完全に乗り気だった。


 結局。


「……わかったよ」


 雄一はため息をついた。


「行くだけだからな」


「やったー!」


 こうして――


 夜の心霊スポット探索が始まった。


 ◇

 雄一の車には四人が乗っていた。


 運転席に雄一。


 助手席にかおり。


 後部座席にはリリィとクリス。


「なんかさ」


 雄一は夜道を運転しながら話す。


「その霊、“なんで自分だけ死ななきゃいけないんだ”って恨みが強くて」


「う、うん……」


「関係ない車まで事故に巻き込もうとするらしい」


「怖いわよそれ!」


 かおりは半泣きでシートベルトを握る。


 だが。


 後部座席。


「くっ、このボス強いですわね……!」


 リリィはゲームに夢中だった。


「姫様、この馬は切った方がよろしいですかな……」


 クリスは競馬新聞を広げ、赤鉛筆で真剣に予想している。


「……お前ら」


 雄一は呆れた。


「心霊スポット行きたいって言ったのリリィだよな?」


「聞いていますわ」


 リリィはゲーム画面から目を離さない。


「関係ない民を巻き込もうとするなど、極めて悪質なゴーストですわね」


「いや絶対半分しか聞いてないだろ」


 すると。


 かおりが恐る恐る尋ねた。


「そういえば……リリィの世界の幽霊ってどんな感じなの?」


「露骨に襲ってきますわ!」


「露骨」


「ですので、こちらも容赦なく浄化魔法で消しますの」


「やるかやられるかなんだ……」


「あと、物理攻撃も普通に通りますわ」


「幽霊なのに!?」


「ですから聖職者は筋肉も重要ですのよ」


 かおりは後ろを見る。


 競馬新聞を読んでいる筋肉質な大司教。


(確かに説得力はあるわね……)


 そんな話をしているうちに。


 車は噂のトンネルへ近づいていった。


 周囲は街灯も少なく、不気味に暗い。


「……なんか嫌な感じするな」


 雄一は小さく呟く。


 その瞬間。


 ゾワッ。


 背筋に寒気が走った。


「……ん?」


 何気なくバックミラーを見る。


「――――っ!?」


 いた。


 後部ガラスに。


 髪の長い女が張り付いていた。


「うおぁぁぁぁぁっ!?」


「きゃあああああ!?」


 雄一とかおりが絶叫する。


「おいリリィ! 後ろ! 後ろ!」


「なんですの?」


 リリィはようやく顔を上げる。


「こんな時に志村後ろ!後ろみたいな……ドリフのネタですの?」


「いやこの状況でドリフやるバカいねぇよ!!」


 かおりもバックミラーを見て悲鳴を上げた。


「無理無理無理無理!!」


 だが。


 リリィは冷静だった。


「騒がしいですわね」


 そして。


「クリス、浄化なさい」


「承知しましたぞ」


 クリスはバッグから壺を取り出す。


 どう見ても怪しい。


「待って、なんで壺持ち歩いてるの!?」


「念のためですぞ」


「何に備えてるんだよ!」


 クリスは真剣な顔で呪文を唱え始めた。


 壺が淡く光る。


「おお……!」


 雄一は少し期待した。


 だが。


 何も起こらない。


 女の霊は相変わらず張り付いている。


「……あれ?」


「むむ」


 クリスが困惑した。


「こちらのゴースト、波長が違いますな」


「役に立たねぇ!!」


 雄一は絶望した。


「雄一殿」


 クリスが真顔で言う。


「窓を開けてください」


「は!?」


「直接やります」


「直接!?」


「いいから開けなさい!」


 リリィが命令する。


「クリスは大司教ですわ! あの程度のゴースト、蟻みたいなものです」


(さっき失敗したじゃねぇか!!)


 だが。


 他に方法もない。


 雄一は恐る恐る窓を開けた。


 その瞬間。


 クリスが動いた。


「ぬんっ!!」


 筋肉。


 腕力。


 工事現場で鍛え上げられた豪腕。


 クリスは窓から身を乗り出すと――


 女の霊を掴んだ。


「えっ」


 幽霊を。


 物理で。


「うおおおおお!!」


 そのまま力任せに壺へねじ込む。


 ズボッ!

「封印完了ですぞ!」


「いや絶対パワーで押し込んだよな!?」


「これが大司教の実力ですわ!」


「雑すぎる!」


 かおりは震えながら呟く。


「幽霊って……掴めるの……?」


「筋肉があれば可能ですぞ!」


「嫌な説得力!!」


 結局。


 雄一は車を路肩へ停めた。


「で、その壺どうすんの?」


「事情を聞きますわ」


 リリィは壺を覗き込む。


「場合によっては壺の養分になっていただきます」


「異世界怖ぇ……」


 だが。


 話を聞くと、霊の女性は本当に轢き逃げ被害者だった。


 しかも犯人は逃げたまま。


「……なるほど」


 リリィは少し真面目な顔になる。


「クリス」


「はい」


 二人は魔法で犯人を特定した。


 そして。


「犯人に呪いを与えますわ」


 リリィが指を鳴らす。


「自主するまで、毎晩足がつって絶対に治らない呪いです」


「地味!!」


「ですが辛いですわよ?」


「まあそうだけど!」


 数秒後。


 霊の女性は涙を流した。


『ありがとうございます……』


「もう関係ない民を巻き込んではなりませんわよ」


『はい……』


 女性は光となって消えていった。


 トンネルに漂っていた不気味な空気も消える。


「……終わったの?」


「終わりましたわ!」


 帰り道。


 車内ではリリィとクリスが大盛り上がりだった。


「やはり最後は筋肉ですな!」


「さすが大司教ですわ!」


「いや絶対違うからな!?」


 雄一は疲れ切っていた。


 だが。


 後部座席で騒ぐ二人。


 笑うかおり。


 その賑やかな空気は、まるで夜のピクニック帰りのようでもあった。


 こうして――


 異世界人たちは今日も、日本の怪奇現象を力技で解決していくのであった。

挿絵(By みてみん)

第13話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、異世界組と“日本の心霊スポット”を組み合わせたらどうなるのかを書いてみました。


結果――

幽霊よりリリィとクリスの方が怖い回になりました。


特にクリスは、最初は頼れる大司教っぽく呪文を唱えていたのに、最終的に“筋力で幽霊を壺に押し込む”という力技に落ち着きました。


でも、こういう「異世界では常識でも日本ではおかしい」というズレを書くのが、この作品の楽しいところでもあります。


そして、なんだかんだで皆で出かけて騒いでいる時間を、雄一自身も少し楽しんでいるのかもしれません。


次回も、騒がしくも平和な日常を楽しんでいただければ嬉しいです。


よろしければブックマーク・評価なども励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ