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12/20

彼女、王女様とBL本に遭遇する

最近、家デートを妙に避けるようになった雄一。


当然、彼女であるかおりは怪しみます。


そしてついに――

“王女様との同居生活”が最大級の誤解を生むことに……。


今回はかなり騒がしい回です。

「最近、外でのデートばかりよね……」


 休日のカフェ。


 かおりはストローを回しながら、不満そうに呟いた。


「前はもっと家に呼んでくれてたのに」


「いや、最近ちょっと忙しくて……」


 雄一は視線を逸らす。


 もちろん理由は明白だった。


 異世界から来た王女様・リリィが家に住み着いているからである。


 しかも最近では、大司教クリスまで普通に同居している。


 どう説明しても危険だ。


「怪しい……」


 かおりはジト目になる。


「別に怪しくないって」


「ほんとに?」


「ほんとに」


 雄一は笑顔を作った。


 だが。


 営業マンとして鍛えられた笑顔は、時に逆効果である。


(……絶対何か隠してる)


 かおりは確信した。


 モデルの仕事をしているだけあって、人の表情を見るのは得意だ。


 そして女の勘も働いていた。


 ――翌日。


「……よし」


 かおりは雄一から預かっていた合鍵を見つめ、小さく呟く。


 今日は平日。


 雄一は仕事で不在の時間帯だ。


「ちょっと確認するだけ……」


 そう自分に言い訳しながら、マンションのエントランスへ向かった。


 オートロックを抜け、エレベーターで上階へ。


 そして。


 カチャ。


 静かに扉を開ける。


「お邪魔しま――」


「あら、かおり」


「ひゃっ!?」


 突然声を掛けられ、かおりは肩を跳ねさせた。


 リビングではリリィがソファーに寝転びながらゲームをしていた。


 しかも。


 上は雄一のワイシャツ。


 下は非常に危険な状態である。


「……」


 かおりの思考が止まった。


「雄一ならまだお仕事でしてよ」


 リリィは何事もないようにコントローラーを操作する。


「リ、リリィさん……」


「なんですの?」


「いつもそんな格好してるの?」


 するとリリィは得意げに胸を張った。


「これは(姫チャンネル登録者の)要望に応えているのですわ!」


「要望……?」


「ええ!」


 リリィはキラキラした笑顔で頷く。


「“ハーフアップにしてほしい”“制服姿が見たい”“彼シャツ姿が最高”など、皆さま(姫ちゃんねる登録者)色々ご希望がありますの!」


「え……」


 かおりの顔が引きつる。


(全部、雄一の要望……?)


「まあ、全てマネーのためですけど」


「マ、マネー……」


 完全に誤解が加速していく。


 しかも。


 リリィ本人は一切悪気がない。


「雄一も意外と細かい好みがありますのね」


「えっ」


「最初は髪を切られ、お洋服も変えられ、今ではあのメガネが好む女にされてしまいましたわ……」


「……」


 かおりの目から光が消え始めた。


(え、なにこれ)


(私の知らないところで何が起きてるの……?)


 その時。


 玄関が開く音がした。


「姫様ー! ただいま戻りましたぞー!」


 現れたのは、筋肉質な大男――クリスだった。


 作業服姿のまま、汗だくで帰ってくる。


「あら、大司教、お帰りなさい」


「今日も現場は大変でしたぞ!」


 クリスは豪快に笑いながら風呂場へ向かう。


 かおりは硬直した。


「……え、誰?」


「ああ、あの男は――」


 リリィは一瞬考える。


 雄一から異世界人であることは隠せと言われている。


 咄嗟に別の説明を考えた。


「雄一の《《ボーイフレンド》》ですわ」


「……は?」


 空気が止まった。


「ちょ、ちょっと待って」


 かおりの声が震える。


「雄一って、リリィさんだけじゃなく、あのおじさんとも……?」


「?」


 リリィは意味を理解していない。


「仲は良いと思いますわ」


「えぇぇぇぇ……」


 かおりは頭を抱えた。


 そのままフラフラと寝室へ向かう。


「ちょ、かおり?」


 ガチャ。


 寝室を開けた瞬間。


「…………」


 机の上に並ぶ大量のBL本。


 美形男子。

 スーツの男。

 インテリ眼鏡。

 筋肉質なおじさま。


 かなり本格的なラインナップだった。


「リリィさん……」


「はい?」


「これ、誰が買ったの……?」


「(購入者は)雄一ですわ!」


「――――」


 かおり、沈黙。


 ちなみに読んでいるのはリリィだが、購入したのは雄一なので嘘ではない。


「理解できないわ……」


 かおりは壁に手をついた。


「雄一のタイプが私なら、男性でも若くて綺麗系を選ぶはずじゃない……?」


 そして思い出す。


 クリスの姿。


 筋肉。


 圧。


 現場系おじさん。


「なんであんな《ベテランプロレスラー》みたいな人なのよ……」


「かおり」


 リリィが真顔で言った。


「甘いですわ」


「え?」


「BLの世界は奥深いのです」


 どこか誇らしげだった。


「雄一のようなインテリメガネ。クリスのようなマッチョなおじさま」


 指を立てる。


「どちらにも需要がありますのよ!」


「需要って何!?」


「世の女性たちは、多様な愛を求めているのですわ!」


「聞きたくなかった!」


 かおりは完全に混乱した。


 そして、その最悪のタイミングで。


「ただいまー」


 雄一が帰宅した。


「あれ? かおり来てた――」


 パァン!!


「痛っ!?」


 往復びんた一発目。


「ちょ、何!?」


 パァン!!


 二発目。


「待って待って!?」


「最低!!」


 パァン!!


「誤解だって!」


「何が誤解よ!!」


「説明するから!!」


 その後。


 雄一は事情説明に追われた。


「だから、リリィは異世界の王女で……」


「からかっているの!?」


「違う!」


「じゃああのおじさん何!?」


「大司教!」


「もっと意味わかんない!」


「BL本はリリィの!」


「でも買ったのは雄一なんでしょ!?」


「それはそうだけど!」


 地獄だった。


 結局。


 かおりを納得させるまで、実に五時間近くかかった。


 そしてその間――


「うわ、このボス強すぎますわ!」


 リリィはずっとゲームをしていた。


「おいリリィ、お前も説明しろ!」


「いま忙しいですわ!」


「元凶お前だからな!?」


 こうして。


 異世界の王女様によって、また一つ平穏な日常が破壊されるのであった。

挿絵(By みてみん)

第12話を読んでいただきありがとうございます。


今回は、ついに“かおり視点から見た雄一の部屋”を書いてみました。


冷静に考えると、


・謎の金髪美少女

・彼シャツ姿

・筋肉質なおじさん同居

・大量のBL本


……完全にアウトです。


しかもリリィ本人には悪気がなく、異世界人であることを隠そうとして、逆に状況を悪化させているのがポイントでした。


そして今回、かおりはかなり振り回されましたが、雄一もある意味かなり被害者です。


それでも、少しずつ“騒がしい共同生活”が当たり前になってきている雄一たち。

今後もドタバタした日常を書いていければと思っています。


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