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王女様、動画配信者になる

異世界からやって来た王女様。


ゲーム、アニメ、ネット文化と順調に現代日本へ適応していく中――

ついに新たな世界へ手を出してしまいます。


今回のテーマは、“動画配信”です。

「ただいま」


 金曜日の夜。


 珍しく定時で仕事を終えた雄一は、少し疲れた表情で玄関の扉を開けた。


 時計を見ると、まだ午後七時前。


 普段なら会社で二本目のコーヒーを飲んでいる時間だ。


(たまには早く帰るのも悪くないな……)


 そう思いながら靴を脱いだ、その時。


「あら、雄一! 今日はお早いのね!」


 リビングからリリィが現れた。


「……」


 雄一は固まった。


 リリィは雄一の白いワイシャツを着ていた。


 しかも。


 丈が長いため下半身がギリギリ隠れているだけで、どう見てもかなり危険な格好である。


「……おい」


「なんですの?」


「その格好、何やってるんだ?」


 リリィは得意げに胸を張った。


「ブーチューブ配信ですわ!」


「は?」


「『姫ちゃんねる』という名で活動を始めましたの!」


「なんで!?」


 リリィは当然のようにスマホを掲げる。


「フォロワーたちが“彼シャツ配信”を望んでいたのですわ」


「彼シャツって……」


 雄一は頭を抱えた。


「もちろん目的はマネーですわ!」


「急に俗っぽいな!」


「この世界、何をするにもお金が必要ですもの」


 リリィは妙に真面目な顔で頷く。


 しかも、その後ろではスマホスタンドと簡易照明まで設置されていた。


「……お前、配信環境まで整えてるの?」


「ネットで調べましたわ!」


「順応が早すぎるだろ……」


 異世界の王女が、わずか数か月で動画配信文化に適応している。


 雄一は少し恐怖を覚えた。


「というか、そのシャツアイロンかけたばっかりなんだけど」


「あら、そうなの?」


「だから脱いでくれ」


 すると。


 リリィの表情が変わった。


「……脱げですって?」


「え?」


「わたくしに下着姿になれと?」


「違う」


「帰れないのをいいことに、ついにそのような辱めまで……!」


「だから違うって!」


 リリィは腕で胸元を隠す。


「こちらの世界の男は本当に変態ばかりですわ!」


「そのセリフ、BL本欲しがってる奴には言われたくない!」


「BLは芸術ですわ!」


「便利な言葉だなその理論!」


「あなたの欲望とは違いますもの!」


「俺は何もしてないからな!?」


 雄一は全力で否定した。


 するとリリィはふんっと鼻を鳴らす。


「まったく」


 そのまま寝室へ向かう。


「どこ行くんだ?」


「着替えですわ! 覗いたら死刑ですわよ!」


「覗くか! 早く着替えろ!」


 バタン。


 寝室の扉が閉まる。


「……」


 静寂。


 雄一は深いため息をついた。


(なんで俺の人生、こんなことになってるんだ……)


 数か月前までは、普通のエリート会社員だったはずだ。


 それが今では。


 異世界の王女。


 工事現場で働く大司教。


 そして動画配信。


 情報量が多すぎる。


「……姫ちゃんねるってなんだよ」


 気になってスマホで検索する。


『異世界姫の日常♡』

『【質問コーナー】王族の恋愛事情を語りますわ♡』

『【雑談】庶民のコンビニスイーツ、美味すぎ問題』


「……」


 チャンネル登録者数。


 三万人。


「増えてる!?」


 雄一は驚愕した。


 しかもコメント欄も盛り上がっている。


『姫様かわいい』

『キャラ作り込みすごい』

『金髪美少女なのにトークおもしろい』

『この配信者、妙に王族知識リアルなんだよな』


「リアルも何も本物だからな……」


 雄一は頭を抱えた。


 そこへ。


 ガチャ。


 寝室から着替えたリリィが出てきた。


 今日は大きめのパーカー姿だった。


「雄一」


「なんだ」


「わたくしの配信、見ましたわね?」


「登録者三万人ってなんだよ……」


「ふふん」


 リリィは得意げだった。


「この世界でも、わたくしの気品は隠せないようですわね」


「たぶん天然キャラとして人気なんだと思うぞ」


「天然?」


「気にするな」


 リリィはソファーへ座る。


「それで、今日の夕飯は?」


「まだ作ってない」


「ではカレーですわ!」


「最近カレー率高いな」


「庶民の食べ物の中ではかなり優秀ですもの」


 謎の上から評価。


 雄一は苦笑しながらキッチンへ向かった。


「そういえば」


 リリィがふと思い出したように言う。


「今日の配信で“彼氏いるんですか?”と聞かれましたわ」


「へえ」


「ですので、“銀縁メガネに監禁されています”と答えておきました」


「おい!!」


「皆、盛り上がっていましたわ!」


「炎上するわ!!」


 雄一は慌ててスマホを確認した。


『監禁設定助かる』


『銀縁メガネって誰!?』


『NTR展開!?』


『薄い本待ってます』


「なんだこのコメント欄!」


 リリィはケラケラ笑っている。


「ネットの民、実に愉快ですわね」


「お前が愉快にしてるんだよ!」


 雄一は頭痛を覚えた。


 だが。


 そんな騒がしい時間が、今では少し心地よくもある。


「……そういえば」


 雄一は冷蔵庫を開けながら呟く。


「クリスさん、今日は深夜勤だったな」


「そうでしたわね」


「帰ってきたら腹減ってるだろうし」


 雄一は米を取り出す。


「おにぎりとコロッケでも置いとくか」


「優しいですわね」


「普通だろ」


「ふふっ」


 リリィは少し楽しそうに笑った。


「最初は冷たい男だと思っていましたのに」


「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」


「わたくしですわね!」


「自覚あるのかよ」


 結局。


 その夜もマンションには賑やかな声が響いていた。


 異世界に帰れない王女様。


 そして、なんだかんだ面倒見の良いエリート会社員。


 騒がしくて。


 妙に温かい。


 そんな奇妙な共同生活は、今日も続いていくのであった。

挿絵(By みてみん)


第11話を読んでいただきありがとうございます。


ついにリリィ、配信者デビューです。


しかも本人は大真面目なのですが、

“本物の王女様”だからこそ逆にキャラが濃すぎて、ネットでは天然系配信者として人気が出始めています。


そして雄一も、気づけばかなり面倒見の良いポジションになってきました。

最初は「早く帰ってほしい」と思っていたはずなのに、今では完全に保護者です。


こういう“騒がしいけど少し温かい日常”を、これからも楽しく書いていければと思っています。


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