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王女様、シンデレラにブチ切れる

夢と魔法の王国で働き始めてから、ますます現代日本に馴染んできたリリィ。


ですが――

異世界の王女様には、どうしても納得できない物語があるようです。


今回は、そんな王女様の“姫としての価値観”が炸裂します。

 ある晩。


 仕事を終えた雄一は、いつものようにネクタイを緩めながらマンションへ帰宅した。


「ただいま」


「あ、お帰りなさいませ、雄一殿!」


 キッチンでは、クリスがエプロン姿で鍋をかき混ぜていた。


 工事現場で働き始めて数か月。


 筋肉質な大司教が夕飯を作る光景にも、雄一はすっかり慣れてしまっていた。


「今日の夕飯はカレーですぞ!」


「最近クリスさん、料理うまくなりましたよね」


「この世界のカレールウは実に便利ですな!」


 異世界の大司教とは思えない会話である。


 そんな中。


 リビングのソファーに座っていたリリィが、珍しく不機嫌そうな顔をしていた。


 腕を組み、頬を膨らませている。


「……どうした?」


「わたくし、今日嫌なことがありましたの」


「お前がそんな顔するの珍しいな」


 普段は職場での出来事を楽しそうに話すリリィが、今日は明らかに機嫌が悪い。


 雄一は少し驚いた。


「職場で何かあったのか?」


「ええ」


 リリィは深刻そうに頷く。


「今日、《シンデレラ》の役をやらされましたの」


「あー」


 雄一はなんとなく察した。


 キングダム・ファンタジアでは、その日によって担当キャラクターが変わることがある。


 そして今日はシンデレラ役だったらしい。


「それで?」


「わたくし、あの娘が嫌いですわ」


「え?」


「シンデレラです」


 即答だった。


「いや、なんで」


「気に入りませんの」


 リリィは真顔で言った。


「庶民出身の娘が、王子に気に入られて一気に成り上がる――」


 ギリッ、と拳を握る。


「あの話、どう考えても《あざとい》ではありません?」


「いや、一般的には夢のある話として愛されてるから……」


 雄一は苦笑する。


 だがリリィは納得していない。


「しかもですわ!」


 勢いよく立ち上がる。


「わざと靴を脱ぎ捨てて逃げるなど、計算高いにも程があります!」


「そんな見方する人初めて見たわ!」


「絶対に狙ってますわ!」


「夢の国の話だぞ!?」


 だがリリィは止まらない。


「舞踏会で目立ち、王子の気を引き、最後に靴を残して記憶に刻み込む――」


 腕を組む。


「恐ろしい女ですわ……」


「完全に悪役令嬢側の意見なんだよ」


「わたくしが王子の婚約者でしたら、確実に警戒対象です」


「職場でそれ言うなよ!?」


 雄一は慌てて止めた。


「絶対クレーム来るからな!?」


「ですが納得いきませんわ!」


「夢を壊すな!」


 その時。


 キッチンからクリスが顔を出した。


「姫様、それは少々視野が狭いですぞ」


「クリス?」


「シンデレラ殿も苦労人なのです」


「ほう」


 リリィが少しだけ興味を示す。


「継母や義姉に虐げられながらも、希望を失わず努力を続けた結果、幸せを掴んだ――」


 クリスは腕を組みながら語る。


「民衆が憧れるのも当然かと」


「……」


 リリィは少し黙った。


「……なるほど」


「おっ」


 雄一は意外そうな顔をする。


「理解したか?」


「つまり」


 リリィが真顔で言った。


「シンデレラはかなり戦略性に長けた切れ者ということですわね」


「そこ!?」


「嫌いですが少し見直しましたわ」


「評価の仕方が上からなんだよなぁ……」


 雄一は苦笑した。


 だが。


 こんな風に物語を本気で語るリリィを見ていると、なんだかんだで楽しそうだとも思う。


「そういえば」


 リリィがふと思い出したように言った。


「以前お願いした、“殿方同士が戯れる書物”ですが」


「言い方変えてもダメだぞ! BL本だろ?」


「まだ購入してくださらないの?」


「だから却下だって」


「なぜですの?」


「お前の将来が心配だから」


「わたくしは学術的好奇心で――」


「その入口から人は深みにハマるんだよ!」


「ですがキングダム・ファンタジアの同僚も皆――」


「やめろ、その職場怖いから!」


 リリィは不満そうに頬を膨らませる。


「では実演を」


「しない」


「雄一とクリスで」


「断固拒否ですぞ!?」


 珍しくクリスまで全力で否定した。


 その瞬間。


 リリィが吹き出した。


「ふふっ」


「……?」


「冗談ですわ」


「笑い事じゃないんだよなぁ……」


 雄一はため息をつく。


 しかし。


 少し前まで異世界に帰る方法ばかり探していたリリィは、今では仕事の愚痴を言い、物語の感想を語り、笑いながら食卓を囲んでいる。


 気づけば、この世界での生活が当たり前になりつつあった。


(……ほんと馴染んできたな)


 異世界の王女。


 最初は完全にトラブルメーカーだった。


 いや、今も十分トラブルメーカーなのだが。


 それでも。


 この騒がしい日常を、雄一自身がどこか楽しんでいることに気づく。


「雄一、聞いていますの?」


「ん?」


「ですから、次は『白雪姫』について語りますわ!」


「まだあるの!?」


「毒リンゴを食べるなど危機管理能力が低すぎます!」


「もうやめてくれ!」


 その夜。


 マンションには、いつものように賑やかな笑い声が響いていた。


 こうして――


 なかなか異世界へ帰れない王女様は、今日も少しずつ、この世界に馴染んでいくのであった。

第10話を読んでいただきありがとうございます。


今回は“異世界の本物の王女様から見たシンデレラ”という視点で書いてみました。


たぶんリリィの世界では、

・政略結婚

・王家の血筋

・貴族社会

などがかなり重視されるので、シンデレラのような物語は別の意味で衝撃なのだと思います。


ただ、そんなリリィも少しずつこの世界の価値観を知り、理解し始めています。


そして相変わらず危険な方向へ成長しているオタク知識。

雄一の苦労はまだまだ続きそうです。


次回も騒がしく平和な日常を楽しんでいただければ嬉しいです。


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