第四章 ~ はぁ? 主? ~ (12)
嘘を言うわけではありませんよ。
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しばらく動くことができなかった。
鼓膜を押し潰しそうな耳鳴りに耐え切れなくなり、ようやく顔をウサギに向けた。
また冗談ならば、今度は壁に蹴り飛ばしてやろうとしていたけれど、ウサギはベッドの上で胡座を組み、真剣に牛を眺めていた。
冗談じゃないのか、と戸惑いを牛に向けると、牛もウサギを怒鳴る素振りを見せず、消沈している。
「本当、なのか?」
不安にまみれた僕の声はより通ってしまう。
「黙っておこうと思ったのですが、昨日すでに、主からおっしゃっていたので、説明させていただきます。主には、どうしても許すことのできぬ者がおります。その人物は主には対して、多大なる苦痛を与えており、主の憎悪は増していく一方でありました。その行為は罪意外何物でもありません。
ワシが主に協力を求めた際、その人物が標的に選ばれる可能性もある、と示唆すると、主は協力してくれると承諾していたたけたのです」
「でも、それって」
「っと、誤解しないでいただきたい。主もまったく躊躇してなかったわけではありません。人を消す行為に、主も様々なことに葛藤しながらも受け入れてくださったのです。それほどまでに、その人物の憎悪が強かっただけなのです。主を責めないでくだされ」
必死に杏奈のことを手振り身振りで擁護する牛。こいつもまた、彼女のことを信頼しているのかもしれない。
その健気な姿に反論せず、「わかった」と制した。
彼女のことを冷酷な女の子だと思ったことはない。
普段から近づき難かったとしても、それは自信に満ちていたのが自分と違っていたから、劣等感が距離を生んでいたからであり、冷酷さからではない。
「例え、主が手を引いたからと言って、憎悪が消えたわけでもなく、いずれ殺意に変わり…… そうなれば、主が標的になる可能性が高まってしまうのです……」
「じゃぁ、いずれお前らのどちらかが消さなければいけなくなるってことか……」
「可能性としてですが」
「でも、すぐに標的が吉岡になるってことは」
「すぐにとは言わなくても、憎悪が強まれば、順位が早まることもない、とは言えないですな」
ウサギは平然と説明する。それは牛を茶化しているのかと思えたけど、じっと座っている態度からすると、二匹にとっては正論なのかもしれない。
「なんとかする方法はないのか?」
「これまでは、ワシが主のそばにいることで抑止力となって、主の憎悪をごまかしていたのですけど、今となっては……」
「ーーで、次の標的が知らされるのはいつなんだよ」
素朴な疑問を投げかけると、二匹は揃ってかぶりを振る。
「それはそのときによって変わるので、はっきりとは言えませんが……」
「じゃぁ、運に頼るしかないのか」
「主のそばに戻ることさえできれば」
牛は嘆くと、頭を抱えてもだえて唸り続けてしまう。
牛はウサギと違い、冷静さを持った奴だと思っていたので、この動揺はかなり追い詰められているらしい。
冷静になり、俯瞰して見ると、ぬいぐるみが動いているだけでしかないけれど。
すぐに、とは言いませんが、早まることも……。




