第四章 ~ はぁ? 主? ~ (13)
想像だけで終わればいいのですが。
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“影”=何(誰?) 吉岡=可能性?%
シャーペンのペン先をノートに突きながら、ずっと考えてしまう。
教室には英語のスペルが宙を舞っているなか、一人でそんなことを書いて悩んでしまっていた。
朝、牛は杏奈のことを思い、今後の対策を考えると言っていた。
別に手助けをするつもりはないのだけれど、自然とノートに書いてしまっている。
頬杖を突きながら、教室を見渡した。一番前の席に吉岡が座っている。
結局、吉岡と話をすることはあれからはない。変に身構えてしまい、敬遠していた。
杏奈本人も、声をかけてくることはなかった。彼女の心境を掴むことはできないけれど、普段と変わらず、仲のいい女子生徒と今日も喋っていた。
ノートに視線を落とすと、“牛”という文字が飛び込んでくる。
目蓋を閉じ、ふと想像してしまう。牛にとっての最悪の事態とはなんなのか、と。
脳裏に描いてしまう光景は学校の校庭。
夕凪に深まる放課後だろうか、それでも部活で校庭を利用している生徒はいない。
そんななか、校庭を横断するように駆け抜ける影があった。
牛である。
牛は仕切りに後ろを気にしながらも、短い足で懸命に走っている。まるで、何かから逃げるように。
どこか、既視感を抱いてしまったのは、以前にウサギに対しても同じ状況を考えたことがあったからかもしれない。
ウサギを追っていたのは“影”であった。それと同じように、牛を追いかけるのは、“影”を想像してしまう。
牛を追いかける“影”でも、“影”の形が違う。どうしても、小柄な形を想像してしまう。
想像なので、形は自由なはずなのに、形が固まってしまう。
まるで小柄な女の子が影に覆われている“影”。
その手が牛に伸びて、掴み挙げたところで意識が途切れた。
瞬きを繰り返したのち、最後にギュッと強く閉じ、悪夢みたいな想像を無理矢理遮断した。
英語の単語が飛び交う教室に戻り、安堵するのだけど、なんでこんなことを考えたのか、と疑問だけが残ってしまう。
「ふざけたことを言うな、バカウサギッ」
学校から帰り、奇妙な想像をしてしまった、と悩みながら部屋に入った瞬間、牛の叫喚が響き、ハッとした。
「何があったんだよ、そんなに怒鳴って」
部屋に入り、ベッドに駆け寄る。
ベッドの上にウサギと牛がいた。それも、牛がウサギに馬乗りになり、殴りかかろうとしていたのである。
「おいっ。バカなことを言うんじゃないぞ。絶対にそんなことはないはずだ」
「だが、仕方がないだろ。今回指令が下されたのは事実なのだから」
「そんなことはない。絶対に間違いだ」
ベッドの上をコロコロと転げ回り、互いの罵声がせめぎ合っていく。
「もう、いい加減にしろ、お前らっ」
見かねて耳と角を掴んで引き離した。
「お前ら、前にもこんなことがあったな。もういい加減にしろよ」
同じことの繰り返しに呆れてしまう。何をそこまで争っているのか、と。
しかも、今回は牛の方がやけに興奮しており、宙にぶら下がりながらも、手足を振り回している。
「このバカウサギ。お前だけは許さないっ」
と、そこで何を血迷ったか、突然ナイフを取り出し、振り回してしまう。
危ないにもほどがある。
「おい、ベコ、いい加減にしろっ」
杏奈が呼んでいるのを思い出し、名前で怒鳴った。すると驚愕した牛はナイフを引き下げ、うなだれてしまう。
やはり今回は牛の方が一方的に憤慨していたらしい。ウサギはずっと黙ったままであった。
「ーーで、何があったんだよ」
落ち着きを取り戻したのを見計らい、二匹をベッドに並ばせて座らせ、聞いてみる。
それでも牛は顔を背け、拗ねている。
「私の元に次の標的の指示が伝えられたのですよ。この牛にではなく、私に」
「お前に? それで怒っているのか?」
「違います。そんなことで怒るほど、器は小さくありません。そんなことで怒っているのではなく、その相手ですよ」
「相手って、誰のことなんだよ」
また怒り出してしまう牛を制し、ウサギに聞いてみると、一枚の写真を取り出した。
「この方です」
「これって…… 嘘だろ」
「当然である。主が標的になるはずがない。絶対に認めないっ」
高々と公言する牛。
ウサギが見せた写真には、吉岡杏奈が写っていた。
認めたくないのはわかるがな。




